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東北大、電子スピンのベリー位相を直接観測することに成功

2013-10-02

電子スピンのベリー位相を直接観測
幾何学的に保護されたスピン情報による量子デバイスへの展開に期待


<発表のポイント>
 ・アハロノフ・キャッシャー効果を用いることで電子スピンのベリー位相の変化を観測
 ・ノイズ耐性に優れたベリー位相を半導体デバイス中でコントロールすることに成功
 ・電子スピンのベリー位相を用いたスピントロニクスデバイスへの展開に期待

 本研究成果は2013年9月26日(日本時間同日),英国科学誌『Nature Communications』に掲載されました。


■概要
 東北大学大学院工学研究科博士後期課程1年長澤郁弥(日本学術振興会特別研究員),同研究科新田淳作教授,セビリア大学(スペイン),およびレーゲンスブルク大学(ドイツ)らの国際共同研究グループは,アハロノフ・キャッシャー効果を用いることにより,半導体デバイス中で電子スピンのベリー位相を電気抵抗の変化として直接観測することに成功しました。
 ベリー位相(注1)は,時間とともに変化する通常の位相とは異なり,状態のたどる経路によってのみ決まるため,幾何学的に保護されているという特徴があります(図1)。ベリー位相はさまざまな現象にあらわれる普遍的位相であり,これまで光ファイバや超伝導体などを用いて数多く研究されてきましたが,電子スピン(注2)のベリー位相については直接的に観測された例がありませんでした。新田淳作教授らの研究グループは,スピンの位相干渉を電場により変調可能なアハロノフ・キャッシャー効果(注3)を利用することで,電子スピンの位相を制御し,そのベリー位相を初めて直接的に観測することに成功しました。この研究成果により,電子スピンを用いた飛行量子ビット(注4)やトポロジカルエレクトロニクスへの展開が期待されます。本研究成果をまとめた論文は2013年9月26日,英国電子ジャーナル『Nature Communications』に掲載されました。


■研究内容
 新田淳作教授らの研究グループは,スピン軌道相互作用(注5)と呼ばれる相対論的効果を強く示す半導体2次元電子ガス(注6)を用い,半径が0:6μmのリング構造を配列状に1,600個作製しました(図2a)。微小リング中では粒子が波としての性質を示すため,電子スピンの位相を反映した量子干渉が起こり,その干渉強度はリング配列構造の電気抵抗としてあらわれます。半導体基板の表面にはリング配列構造全体を覆うように金属の電極が取り付けられており,この電極に電圧(ゲート電圧)を加えることで,スピン軌道相互作用を介してリング中の電子スピンの位相をコントロールできます。このような,電場によるスピンの制御が量子干渉の変化(ここでは,電気抵抗の変化)としてあらわれる現象をアハロノフ・キャッシャー効果と呼び,スピンの位相を調べるために非常に有用なツールです。実験的に観測されたアハロノフ・キャッシャー効果を示したのが図2bです。ゲート電圧に対して量子干渉強度(電気抵抗)が変化していることがわかります。この振動は,これまでにも観測されていた時間に依存する電子スピンの位相変化によって主に生じています。
 半導体2次元電子ガスに対して平行方向に磁場を加えながら同様の実験をおこなった結果が図3aです。図中に点線で示したように,磁場を加えるにしたがいスピンの位相が正のゲート電圧側にずれることが観測されました。このずれは,平行磁場によって電子スピンのベリー位相が変調されることに起因しており(図3b),スピンのベリー位相を電気抵抗の変化として直接的に観測した初めての結果です。理論計算により,この実験結果は非常によく再現されました(図3c)。理論計算によると,図3aにて観測された位相のシフトは,平行磁場によるベリー位相の変調のみに起源をもつことが明らかとなりました。また,異なるリング半径のデバイスを用いた実験においてもスピンベリー位相による干渉模様のずれが観測され,リング径の違いを考慮すると,ずれの量が理論と定量的によく一致することがわかりました。以上の実験結果は,数値シミュレーションによっても再現されています(図3d)。


■今後の展望
 ベリー位相を用いた,電子スピンによる飛行量子ビットの実現を目指します。また,新たな物理現象の原理検証,例えば不揮発性メモリとしての機能を有する,エネルギー散逸のない永久スピン流(注7)の観測なども視野に入れ,研究を進めます。


 ※図1〜3・用語解説などは、添付の関連資料を参照


■掲載論文情報
 題名 Control of the spin geometric phase in semiconductor quantum rings
 著者 Fumiya Nagasawa,Diego Frustaglia,Henri Saarikoski,Klaus Richter,and Junsaku Nitta
 掲載誌 Nature Communications 4,2526(2013)
 URL(open access)http://dx.doi.org/10.1038/ncomms3526

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