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NIMSと東北大、約半世紀前に理論的に可能と予想された強誘電構造相転移を金属物質中に発見

2013-09-27

約半世紀前に理論的に可能と予想された強誘電構造相転移を金属物質中に発見



<概要>
 1.独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:潮田 資勝、以下NIMS)超伝導物性ユニット強相関物質探索グループの山浦 一成主幹研究員(研究全般担当)は、オックスフォード大学物理教室のアンドリュー・ブースロイド教授(中性子線回折実験担当)と東北大学多元物質科学研究所の津田健治准教授(収束電子回折実験担当)と共同で、約半世紀前に理論的に可能と予想された構造相転移(1)を実験的に確認することに成功した。

 2.強誘電性とは、結晶中の微小な電気双極子(大きさが等しく、微小な距離だけ離れた正負一対の電荷)が構造変化を伴い自発的に整列して、さらにその向きを任意に反転させることができる特性である。物質によっては、常温で反転可能なため、強誘電体メモリー(2)や光学素子(3)の開発に有用であり、デバイス産業での用途は幅広い。さらに新用途を開拓し、次世代デバイスの開発を促進するためには、自発的に整列するメカニズムの解明や、多彩な強誘電体の開発が重要である。

 3.通常、結晶内に伝導電子(4)が存在すると、電荷の分布が結晶内で偏ることができなくなるため、結晶表面に電荷が留まること(誘電分極)が不能になる。従って、実用的な強誘電体は例外なく優れた電気絶縁体であった。強誘電性を向上させるためには、伝導電子は、限りなく存在しないことが望ましかった。しかしながら、1965年に発表された構造相転移に関する理論的研究では、強誘電性を伴う構造相転移は、電気絶縁体のみで起こるのではなく、伝導電子を持つ合金や金属的な化合物中でも起こりうると予想された。この等価な構造相転移を便宜的に“金属強誘電転移”とした。この理論的な研究以降、“金属強誘電転移”を実験的に探索する努力が継続されたが、50年近く未確認であった。

 4.山浦らは、すでに広範な用途で強誘電体として利用されているニオブ酸リチウム(LiNbO3(*1))(5)に着目し、同型の結晶構造と伝導電子を持つ未知物質を探索した。その結果、高温高圧法(6)でオスミウム(7)酸リチウム(LiOsO3(*2))の合成に成功し、ニオブ酸リチウムと同型の結晶構造と伝導電子を持ち、強誘電転移と等価な構造相転移を起こすことを確認した。結果として、これまで理論的にのみ可能とされた“金属強誘電転移”を、半世紀を経た今日、ようやく実験的に確認することに成功した。

 *1・2の正式表記は、添付の関連資料を参照


 5.この等価な構造相転移を詳細に研究することによって、自発的に電気双極子が整列するメカニズム(つまり強誘電構造相転移)について普遍的な理解が深まるだけでなく、新しい研究展開が可能になる。例えば、強誘電性を導く構造相転移と伝導電子が強く結合する未知物質が高温超伝導体となる可能性がある。今回の成果は、独立行政法人日本学術振興会最先端研究開発支援プログラム「新超電導および関連機能物質の探索と産業用超電導線材の応用」(中心研究者:細野 秀雄)の一環で得られた。本成果は、ネイチャーマテリアルズ(英:Nature Materials)で公表される予定である(平成25年9月23日午前2時(日本時間)、Web版公表予定)。


<研究の背景>
 金属性の物質は伝導電子を持つため、電荷が偏って分布する誘電分極は原理的に発生しない。このため、強誘電体は例外なく電気的絶縁体であった。しかしながら、1965年にアンダーソンとブラント(両者ともベル研究所(8)、当時)は、強誘電性を伴う構造相転移は、電気的絶縁体に限らず、伝導電子を持つ合金や金属的な化合物中でも、それと等価な構造相転移が可能であることを理論的に示した。この等価な構造相転移を、便宜的に“金属強誘電転移”とした。構造相転移の特徴から強誘電体としたが、伝導電子が存在するため、誘電分極は伴わないとした。
 アンダーソンとブラントの研究以降、“金属強誘電転移”を探索する実験的努力が継続された。当初は、A15型超伝導体(Nb3SnやV3Si(*3)など)で発見された、超伝導転移温度より僅かに高温側で生じる構造相転移が、“金属強誘電転移”に相当すると期待されたが、注意深い実験の結果、異なることが示された。また、パイロクロア型レニウム酸化物(9)で発見された特異な構造相転移が“金属強誘電転移”であるかもしれないと指摘されたが、強誘電体の分極軸に相当する軸が存在しないため、正確には“金属強誘電転移”ではないと結論づけられた。最近では、酸素欠損を有するチタン酸バリウムの構造相転移が候補として研究されたが、否定的な実験結果が示された。従って、1965年の理論的研究以降、“金属強誘電転移”は、実験的に未確認であった。

 *3の正式表記は、添付の関連資料を参照


<成果の内容>
 ニオブ酸リチウム(LiNbO3)は強誘電体として幅広い用途で利用されている。この強誘電体と同型の結晶構造を持つオスミウム酸リチウム(LiOsO3、図1a:結晶写真)は、NIMSで近年合成された新物質である(表1)。オスミウム酸リチウムのリチウムイオンの分布は常温で熱的に乱れているため、各平均位置が、図1bに示すように2つに僅かに分離している。このため、結晶全体では、紙面と垂直方向に鏡を置いたような対称性を持つ。この結晶をマイナス130℃以下まで冷却すると、すべてのリチウムイオンが一方に収まるため、分布の乱れが解消され、図1cのように冷却前にあった鏡像対称性がなくなる。
 一般に、結晶の対称性の低下を伴う構造転移と電気双極子の自発的な整列と誘電分極の発生には密接な関係がある。ニオブ酸リチウムの場合、結晶の融点(約1250℃)に近接したかなりの高温(約1160℃)で構造相転移が起こるため、この構造相転移と強誘電性発現の詳細を研究することが難しかった。同型構造の強誘電体タンタル酸リチウム(LiTaO3(*4))(10)でも、約607℃の高温で構造相転移が起こるため、実験上の難しさは変わらなかった。これらと比較すると、オスミウム酸リチウムでは、同型構造の物質群の中で、最も低温(約マイナス130℃)で構造相転移が起こるため、実験上のメリットは大きく、研究の進展が期待できる。
 オスミウム酸リチウムの最も顕著な特徴は、ニオブ酸リチウム(バンドギャップ:約3.7eV)やタンタル酸リチウム(バンドギャップ:約4.6eV)が良質な電気絶縁体であること対照的に、極低温まで金属伝導性を保つことである。第一原理計算(11)によってオスミウム酸リチウムの電子状態を検討した結果、金属伝導性は結晶の本質的な性質であることが明らかになった。ニオブ酸リチウムと同型構造の酸化物はこれまでに約20種類が合成されたが、金属伝導性を示すものはなかった。
 オスミウム酸リチウムの構造相転移を粉末中性子回折実験(12)、収束電子回折実験(13)により詳細に調べた結果、この構造相転移は、約半世紀前に理論的に予想された“金属強誘電転移”に相当することが明確になった。

 *4の正式表記は、添付の関連資料を参照

 ※図1は添付の関連資料を参照


<波及効果と今後の展開>
 強誘電体の研究に関して、約半世紀前に可能とされた特異な構造相転移を、実験的に確認することに成功した。この成果は、高温高圧法で合成された新物質を利用することによって達成された。オスミウム酸リチウムは金属伝導性を示すため、予想された通り、用途開発に重要な誘電分極は技術的に測定不能である(表1)。しかしながら、この特異な構造相転移を詳細に研究することによって、強誘電転移について普遍的な理解が深まるだけでなく、新しい研究展開が可能になる。例えば、強誘電性を伴う構造相転移が、伝導電子と強く結合すると、高温超伝導を導く可能性がある。これまで電気的絶縁体に限られてきた強誘電体の研究を、金属的な物質を含む多様な物質系に展開することによって、斬新な機能性を持つ、これまでにない新材料シーズを開拓できる可能性がある。

 ※「表1」「用語解説」は添付の関連資料を参照

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