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東北大など、アルミニウムを主原料とする新しい水素貯蔵合金の合成に成功
アルミニウムを主原料とする新しい水素貯蔵合金の合成に成功
−軽量かつ繰り返し水素吸放出可能な水素貯蔵合金の実現へのブレークスルー−
【発表のポイント】
●Al2Cu(◇)合金の水素化反応により侵入型水素化物(Al2CuH(◇))を合成することに成功
●水素吸収‐放出サイクルが実現可能であることから水素貯蔵合金としての実用化に期待
●アルミニウムを主原料とする侵入型水素化物の開発研究を大きく加速
◇「Al2Cu」「Al2CuH」の正式表記は、添付の関連資料を参照
独立行政法人日本原子力研究開発機構の研究グループは、東北大学金属材料研究所、同大学原子分子材料科学高等研究機構との共同研究により、アルミニウムを主原料とする合金を用いて侵入型水素化物(1)を合成することに初めて成功しました。
侵入型水素化物は水素吸収‐放出サイクルが実現可能であることから水素貯蔵合金として利用されています。燃料電池自動車への搭載にあたり、軽量な材料の開発が求められていますが、これまで軽量化に有効なアルミニウムを主原料とする侵入型水素化物の合成について、成功報告はありませんでした。
本研究では、高温高圧の水素にアルミニウムと銅の合金であるAl2Cuを反応させることで水素化物Al2CuHを合成することに世界で初めて成功しました。また、放射光その場観察技術(2)を援用することで、合成条件を迅速に決定することができました。合成された水素化物の結晶構造をX線回折実験および第一原理計算(3)による理論計算によって詳しく調べたところ、金属原子が作る格子の隙間に水素原子が入った侵入型の水素化物であることが明らかになりました。
今回の成果により、軽量で安価なアルミニウムを主原料とした、燃料電池自動車のための高性能な水素貯蔵技術を実現するためのブレークスルーがもたらされます。
本研究の一部は「燃料電池自動車用水素貯蔵材料に関する調査研究」のもと、新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受け、SPring−8の利用課題として行われました。本研究成果は米国科学誌「APL Materials」に近日オンライン掲載される予定です。
<研究開発の背景と目的>
水素を利用したクリーンエネルギー社会の実現に向けた課題の一つに、貯蔵方法の問題があります。水素貯蔵には、安全に必要な量をすぐ取り出すことができ、簡単に再充填でき軽量コンパクトであるなどの多くの性能が要求されています。これらをすべて満たす方法は見つかっていないため、世界的に研究が進められています。現在開発が進められている水素を燃料とする燃料電池自動車では、高圧水素ガスタンクが水素貯蔵容器として用いられていますが、体積が大きく安全上の問題も残されています。水素化物を利用した水素貯蔵法はこれらの問題を解決することのできる次世代の技術として注目されていますが、十分な性能を発揮できる材料はまだ開発されていません。ここで資源的に豊富で軽金属であるアルミニウムは、燃料電池自動車への搭載において有利となる軽量な水素貯蔵材料を実現するための有望な原料のひとつと考えられています。
アルミニウムを主原料とする水素化物の開発はこれまで技術先進国を中心に広範に取り組まれていました。軽量かつ高い密度で水素を蓄える代表的な材料としてアルミニウムの錯体水素化物(4)が挙げられますが、水素の吸収と放出のいずれの機能も備えた材料を実現するには至っていません。一方、多くの金属・合金は錯体水素化物とは性質の異なる侵入型の水素化物を形成することが知られていますが、軽金属アルミニウムを主原料とする侵入型の水素化物の合成に成功したとの報告はありませんでした。アルミニウムを主原料とする侵入型水素化物の合成に成功できれば、軽量な水素貯蔵材料の探索が飛躍的に進むと期待されています。
本研究の目的は数百度、10万気圧の高温高圧下で極めて反応性が高い水素流体状態を作り、アルミニウムを主原料とする侵入型の水素化物の合成を実現することです。高温高圧下で新しい物質を合成するための条件を見いだすことは一般的に非常に困難ですが、大型放射光施設SPring−8における放射光その場観察実験によって合成条件を迅速に決定することに成功しました。
※図1は、添付の関連資料を参照
<研究の手法>
アルミニウムと銅の合金であるAl2Cu合金の粉末を高温高圧水素流体と直接反応させることで侵入型水素化物の合成を試みました。高温高圧発生と放射光その場観察実験は、大型放射光施設SPring−8のビームラインBL14B1に設置されたマルチアンビルプレスとよばれる装置を用いて行いました(図1)。温度と圧力を変化させながら放射光その場観察により試料の様子を観察することで、水素化反応の有無を調べることができます。
放射光その場観察はX線回折法と呼ばれる手法によって行われました。合金や水素化物中では原子が規則正しく並んでいます。X線回折では原子の並び方の間隔、すなわち面間隔に対応したところにピークが現れます。この面間隔と回折X線の強度の関係をX線回折プロファイルと呼びます。合金が水素化されて原子の並び方が変わると、このピークが違った位置に現れることになります。今回の実験では12秒おきにX線回折プロファイルの記録を行いました。
<得られた成果>
図2はAl2Cu合金が水素化される前後の様子を放射光その場観察で調べた結果です。10万気圧、約800℃に到達直後に記録されたプロファイル(一番下)は、約60秒後から青丸で示した面間隔の位置に新しいピークを示すような変化を始めることが分かりました。これは水素化反応によって原子の並び方が異なった水素化物ができ、その量がだんだんと増えていくことを示しています。高温高圧下で合成された水素化物Al2CuHは常温常圧に回収することができました。回収された試料の分析と第一原理計算から結晶構造を調べたところ、図3に示すようなAl2Cuの金属格子の隙間に水素が入った侵入型水素化物が形成されていることが明らかとなりました。また第一原理計算から水素原子と金属との結合状態を解析した結果も、この水素化物が侵入型の水素化物であることを強く支持するものでした。
※図2は、添付の関連資料を参照
水素化物の結晶構造が明らかになった上で、もう一度放射光その場観察の実験結果と水素化反応による原子の並び方の変化を詳しく見てみます。図2の右側に示した模式図は図3の結晶構造を上から見たものです。水素化反応前では図2右下のように4個のアルミニウム原子に囲まれた緑色の菱形部分に隙間が存在しています。水素化反応が起きるとアルミニウム原子が水色の矢印で示したように動くことで、図2右上に示したように緑色の菱形部分の隙間が大きくなり、その隙間に水素が侵入していることが分かりました。
※図3は、添付の関連資料を参照
<今後の予定>
本研究によってアルミニウムを主原料とする侵入型の水素化物が合成できることが明らかになりました。今後、同様の手法によって多くの種類のアルミニウムを主原料とする侵入型水素化物を実現できるようになると期待されます。例えば、合金中の銅の一部を他の類似金属に置き換えることで、別の水素化物が開発可能になります。アルミニウムを主原料とする多種多様な侵入型の水素化物を合成することができれば、水素貯蔵特性の高度化が図られ、軽量で安価なアルミニウムを主原料とした高性能な水素貯蔵技術を実現するためのブレークスルーがもたらされます。
※用語解説などは、添付の関連資料を参照