イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

農業生物資源研究所など、カイコで働く約1万個の遺伝子配列解読に成功

2013-09-21

カイコで働く約1万個の遺伝子配列解読に成功
−産業利用につながる有用遺伝子の特定が加速化−


<ポイント>
 ・カイコで実際に働く約11,000個の遺伝子の塩基配列を解読しました。
 ・本成果は、チョウ目害虫に選択的に作用する新規制御剤の開発や遺伝子組換えカイコによる有用物質生産など、産業利用への貢献が期待されます。

<概要>
 1.独立行政法人農業生物資源研究所(生物研)は、中国・西南大学、独立行政法人産業技術総合研究所、および国立大学法人東京大学と共同で、カイコの様々な組織に由来する完全長cDNAライブラリ(1)を作製し、11,104種類の完全長cDNA(2)の塩基配列を解読しました。今回のカイコでの完全長cDNAの大規模解読は、昆虫ではキイロショウジョウバエに次ぐ例となります。

 2.完全長cDNAは、遺伝子のタンパク質をコードする領域の全てを含んでいることから、遺伝子の構造や機能を解明する際に非常に有用なリソースとなります。今回得られた完全長cDNAの塩基配列情報の活用により、カイコの遺伝子の機能解明が加速化されることが期待されます。

 3.さらに、カイコは多くの農業害虫と同じチョウ目に属することから、チョウ目害虫のモデル昆虫としての利用が進み、チョウ目昆虫に選択的に作用する新しい害虫制御剤開発に繋がる有用な遺伝子の特定が加速化されることが期待されます。また、カイコでの有用物質生産の効率化に資する遺伝子の発見にも繋がり、遺伝子組換えカイコを用いた医薬品・検査薬の開発が加速化されることが期待されます。

 4.この成果は、米国遺伝学会誌G3(Genes,Genomes,Genetics)9月号に掲載されました。なお、本成果は、7月2日(米国時間)に本学会誌電子版で公開されました。

 5.また、本成果はカイコゲノム情報データベース(KAIKObase;http://sgp.dna.affrc.go.jp/KAIKObase/)上に公開しました(図1)。
予算:運営費交付金、農林水産省委託プロジェクト「動物ゲノムを活用した新市場創出のための技術開発(昆虫ゲノム情報を活用した新需要創造のための研究)」(平成19〜23年度)

<開発の社会的背景と研究の経緯>
 絹糸を作る農業昆虫として人と深く関わってきたカイコはチョウ目昆虫に属します。このチョウ目昆虫には、モンシロチョウアメリカシロヒトリの幼虫など、農作物や森林に多大な被害をもたらす害虫が数多く含まれることから、カイコは産業上有用な昆虫としてだけではなく、農業害虫を研究するためのモデル昆虫としての活用も期待されています。
 これまでに、農業生物資源研究所と中国の西南大学が中心となり、カイコゲノムを完全解読しました。しかし、ゲノム解読が完了しても、ゲノムのどの場所にどのような遺伝子の情報が書き込まれているのかは未知の状態で、ゲノム情報を農業や産業に活用するためには、遺伝子構造を正確に決めることが必要となります。完全長cDNAは、遺伝子から転写されたメッセンジャーRNAの完全なコピーのことで、タンパク質を作るための完全な情報を備えています。つまり、完全長cDNAの塩基配列情報を解読することは、遺伝子がゲノム上のどこにあるのか、どのように読まれるのか、あるいは、どのような機能をもっているのか解明するための重要な手掛かりとなります。そこで、私たちの研究グループでは、カイコの様々な組織に由来する完全長cDNAの塩基配列解読を進めることにしました。

<研究の内容・意義>
 まず、カイコの14の組織に由来する21の完全長cDNAライブラリを作製し、これらから約25万個の完全長cDNAを収集し、その中から重複しているものを除き、最終的に11,104個を選抜し、これらの塩基配列を解読しました。今回解読された完全長cDNAと、これまでに私たちの研究グループにおいて蓄積してきた40万以上のカイコのcDNA、コンピュータで予測した遺伝子などの情報をつきあわせて解析したところ、カイコの総遺伝子数はこれまでの推定値である約14,000よりも多く、17,000以上あることが明らかとなり、完全長cDNAは約3,000の新規遺伝子同定に貢献しました。また、11種の昆虫の遺伝子とカイコの遺伝子を比較したところ、カイコにのみ存在する遺伝子が数多く見つかり、その多くは重複して存在していることが分かりました。これらの中には微生物からの防御に関わる遺伝子が多数含まれていました。さらに、ある組織でのみ特異的に働く遺伝子の多くがゲノム上でまとまって存在していました。カイコゲノムの持つこのような構造的特徴は、カイコが進化の過程で遺伝子の働き方を効率化させてきた結果ではないかと考えられました。
 今回解読された完全長cDNAの情報は、カイコゲノム情報と統合し、生物研のホームページでKAIKObase(http://sgp.dna.affrc.go.jp/KAIKObase/)として公開し、国内外の全研究者が利用できる体制を整備しました。さらに、完全長cDNAはカイコの様々な研究に極めて有効であることから、ゲノムリソースとして希望する研究者に配布できるようにしました。

<今後の予定・期待>
 カイコのもつ多くの遺伝子の機能解明が大きく進み、カイコのもつ有用遺伝子の探索に大きく貢献することが期待されます。特に、多くの農業害虫はチョウ目に属することから、本成果は、チョウ目害虫の農薬抵抗性原因遺伝子の特定、チョウ目害虫に選択的に効く新しい農薬の開発につながる制御剤標的遺伝子の特定などにおいて貢献するものと期待されます。さらに、カイコにおける有用物質の生産量向上や(タンパク質糖鎖修飾のヒト型化による)品質向上に関わる遺伝子を発見して利用することにより、遺伝子組換えカイコを用いた医薬品・検査薬の開発が加速化されることが期待されます。

<発表論文>
 Suetsugu Y,Futahashi R,Kanamori H,Kadono−Okuda K,Sasanuma S,Narukawa J,Ajimura M,Jouraku A,Namiki N,Shimomura M,Sezutsu H,Osanai−Futahashi M,Suzuki M.G,Daimon T,Shinoda T,Taniai K,Asaoka K,Niwa R,Kawaoka S,Katsuma S,Tamura T,Noda H,Kasahara M,Sugano S,Suzuki Y,Fujiwara H,Kataoka H,Arunkumar K.P,Tomar A,Nagaraju J,Goldsmith M.R,Feng Q,Xia Q,Yamamoto K,Shimada T,Mita K(2013)Large scale full−Length cDNA sequencing reveals a unique genomic landscape in a lepidopteran model insect,Bombyx mori.G3:Genes,Genomes,Genetics
 DOI:10.1534/g3.113.006239

<用語の解説>
 (1)cDNAライブラリ
 cDNAとは、相補的DNA(complementary DNA)の略で、遺伝子の塩基配列をもとに合成されたメッセンジャーRNA(mRNA)を鋳型にして、人工的に作り出された一本鎖DNAのことを指します。cDNAは、mRNAと相補的な塩基配列を持っています。cDNAライブラリとは、多数のcDNAを集めて保管したものです。

 (2)完全長cDNA
 メッセンジャーRNA(mRNA)の全長をカバーするように合成したcDNAのことで、全長のタンパク質を合成するための情報を有しています。


 ※図1は、添付の関連資料を参照

Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版