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東大、脳内の生化学物質の濃度を統合失調症の3つの異なる段階で比較して同定

2013-09-14

統合失調症の進行を反映する脳内マーカーの開発につながる成果
―脳内の生化学物質の濃度を統合失調症の3つの異なる段階で比較して同定―


 統合失調症は、一般人口の100人に1人に近い頻度で認められ、思春期や青年期早期に出現して慢性的に進行し、日常生活や社会生活を深刻に制限します。この病気の進行を防ぐことができれば、世界中の当事者や家族、さらには社会全体に多大な利益をもたらします。その第一歩として、この病気が進行するしくみの解明やこの病気の生化学的な脳内マーカーを開発することが重要です。
 東京大学大学院医学系研究科精神医学分野 准教授 山末英典、同研究科 博士課程 夏堀龍暢、同研究科 教授 笠井清登らは、プロトン核磁気共鳴スペクトロスコピー(用語解説 1)という方法を用いて、統合失調症にかかる危険が高い状態にある群、発症後まもない時期にある群、慢性化している群の、脳内化学物質の濃度を調べました。その結果、慢性化している群についてのみ、内側前頭前野(用語解説 2)とよばれる脳部位のグルタミン酸−グルタミン総和(用語解説 3)とN−アセチルアスパラギン酸(用語解説 4)という物質の濃度低下が認められるという新たな知見を示しました。この結果は、プロトン核磁気共鳴スペクトロスコピーの所見が統合失調症の進行を反映する新たな脳内マーカーとして役に立つ可能性を示しています。
 これらの成果は、日本時間 9月10日にSchizophrenia Bulletin誌(電子版)にて発表されます。なお、本研究は、文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」の一環として、また科学研究費補助金 若手研究(A)(22689034)の支援を受けて行われました。


【発表者】
 東京大学医学部附属病院 精神神経科東京大学大学院医学系研究科精神医学分野
  博士課程 夏堀龍暢
 東京大学医学部附属病院 精神神経科東京大学大学院医学系研究科精神医学分野
  准教授 山末英典


【研究の背景】
 統合失調症では、病気にかかって幻聴や被害妄想等の症状が出現する前後で、大脳皮質の体積がわずかながら減っていることが報告されてきました。また、プロトン核磁気共鳴スペクトロスコピーを使って脳内化学物質の特徴を報告した研究も多く、個々の研究結果をまとめたメタ解析という方法でも、病気の段階によって脳内の化学物質の特徴は異なっていることが示されていました。しかし、プロトン核磁気共鳴スペクトロスコピーでは、用いる装置、脳内化学物質の濃度を測る方法、磁場の強さの違いなどが結果を大きく左右するといわれており、また、病気の段階の定義や参加者の詳細な条件にも個々の研究によって違いがあり、メタ解析などの解釈を難しくする要因になっていました。そこで本研究では、単一の撮像条件のもと、同じ解析方法を用い、統合失調症の進行の過程を3段階に分け、各段階における脳内の化学物質濃度の違いを調べました。


【研究の内容】
 統合失調症にかかる危険が高い状態にある群(ハイリスク状態群)、発症後まもない時期にある群(病初期群)、慢性化している群(慢性期群)、および、それぞれの段階の患者さんと年齢や性別などの背景情報を一致させた精神疾患ではない群(健常対照群)に対して、内側前頭前野という脳部位(図1 内に白い四角で図示)の脳内の化学物質濃度をプロトン核磁気共鳴スペクトロスコピーという方法を用いて調べました(図1)。その結果、内側前頭前野のグルタミン酸−グルタミン総和とN−アセチルアスパラギン酸という脳内の化学物質の濃度低下が、ハイリスク状態群や病初期群では認められず、慢性期群にのみ特異的に認められるという新たな結果が示されました(図2)

 ※参考図は、添付の関連資料を参照


【今後の展望】
 本研究の結果は、プロトン核磁気共鳴スペクトロスコピーの所見が統合失調症の進行を反映する新たな脳内マーカーとして役に立つ可能性を示しています。
 また、今後明らかにしていくべき点もいくつかあります。本研究の参加者は統合失調症の治療薬を内服中の患者さんが中心となっていたことより、治療薬の影響について考慮しながら注意深く解析を行いました。しかし、これらの結果が治療薬の影響から完全に離れ、統合失調症そのものの影響を反映しているかどうかについては確定できないという限界があります。そのため、理想的には治療前から調査を開始し、服薬を行わない状態で追跡する調査方法が望まれます。また、統合失調症に関連する脳部位には、内側前頭前野以外にも、側頭葉や前頭葉の複数の領域が報告されており、これらの部位を同時的に計測し、その差異を検討することが可能になるような技術的な進歩が求められています。その他にも今後の研究では、脳内化学物質の濃度において、グルタミン酸−グルタミンの総和だけでなく個別の濃度を検討することを可能にする方法の採用や、さらに洗練された方法の確立も視野に入れた展開が望まれます。


※用語解説などは、添付の関連資料を参照

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