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国立精神・神経医療研究センターなど、外国語学習による脳の柔軟な変化を可視化する手法を開発

2013-08-26

外国語学習による脳の柔軟な変化を可視化
―継続は力なりを脳画像で証明―


【ポイント】
■脳局所の大きさと局所間連絡の強さの変化を同時可視化する手法を開発しました。
■外国語学習による成績変化により脳が柔軟に再構築されることを発見しました。
■学習を司る脳のメカニズムの理解やリハビリテーション評価に役立つことが期待されます。


 JST課題達成型基礎研究の一環として、国立精神・神経医療研究センター先進脳画像研究部の花川隆部長は、国際電気通信基礎技術研究所の細田千尋研究員らと共同で、外国語学習によって脳が従来想定されていた以上に柔軟に変化することを明らかにしました。
 磁気共鳴画像法(MRI)を用いた従来の学習研究では脳の局所あるいは局所間連絡のいずれか一方しか評価しておらず、学習による能力の向上と脳の関係をより包括的に評価できる手法の開発が望まれていました。
 今回、複数の磁気共鳴画像を組み合わせた新しい脳画像法を開発し、4ヵ月間の英語語彙学習プログラムに参加した日本人成人24人の脳構築の変化を計測したところ、言語との関わりが乏しいと考えられていた右半球前頭葉の一部が英語力アップに相関して大きくなり、並行して脳局所間の連絡も強化されていました。1年後に再測定を行うと、自主的に学習を続けた人だけが学習プログラムによる脳発達を維持し、ほかの人の脳は学習プログラム前の状態に戻っていました。さらに137人における検討でも、英語語彙能力が高いほどこれらの部位が発達していることが確認できました。
 本研究は言語学習のメカニズムに新たな視点を与えるだけでなく、失語症のリハビリテーション法開発支援など医療の向上にも貢献することが期待されます。
 本研究成果は、2013年8月21日(米国東部時間)発行の米国神経科学学会誌「TheJournalofNeuroscience」に掲載されます。

 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

  戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)
  研究領域:「脳情報の解読と制御」
         (川人光男(株)国際電気通信基礎技術研究所脳情報通信総合研究所所長/脳情報研究所所長/ATRフェロー)
  研究課題名:「BMI学習による神経可塑性変化の非侵襲多角計測」
  研究者:花川隆(国立精神・神経医療研究センター先進脳画像研究部部長)
  研究期間:平成20年10月〜平成26年3月

 JSTはこの領域で、運動や判断を行っている際の脳内情報を解読し、外部機器や身体補助具などを制御するブレイン・マシンインターフェイス(BMI)を開発し、障害などにより制限されている人間の身体機能を回復するための従来にない革新的な要素技術の創出に貢献する研究を支援しています。


<研究の背景と経緯>
 脳は部位ごとに異なる機能を持っています。例えば、右利きの人では左大脳半球の前頭葉と側頭葉の一部に言語機能が局在していることが知られており、これらの脳局所は言語野と呼ばれます。一方、右大脳半球は言語との関わりが乏しいと考えられてきました。
 運動や言語の学習は、人間が日々行っていることにも関わらず、わかっていないことが多く残っています。学ぶことで能力が向上するのは、そのような脳の構築に何らかの変化が生じているためと考えられますが、その詳細は明らかではありません。学習によって脳局所の構築に変化が生じることが重要なのか、脳局所間の連結が強まることが重要なのかについては議論が続いています。最近、磁気共鳴画像法(MRI)を用いて学習による脳の構築の変化を計測できるようになりましたが、脳の局所の変化あるいは脳の局所間の連結を表す画像のどちらか一方しか解析の対象にしていなかったため、このような疑問にはっきりした答えを出すことができませんでした。


<研究の内容>
 花川部長らは、脳局所と局所間連結の両方を継時的に評価する新しい方法を開発し、従来左半球に偏在して生じると考えられてきた言語学習を題材として、学習によって脳局所と局所間連結にどのような変化が生じるのか検討しました。4ヵ月間の英語語彙学習プログラムに参加した24名の日本人大学生と、参加しなかった20名の日本人大学生から、学習期間の前後に英語能力テスト(TOEICなど)と複数の脳MRI画像データ(脳灰白質(注1)容積MRI画像、脳白質連結MRI画像)を取得しました。参加者は全員右利きでした。学習後にはTOEICの点数は30%アップし、右前頭葉44野(注2)に灰白質容積の増加、44野と尾状核(注3)の連結と44野と側頭葉上部の連結に強化が生じていました(図1)。予想に反して、これらの変化は右大脳半球に偏在しており、右前頭葉44野の灰白質容積増加と、右前頭葉44野と尾状核の局所間連結増強だけがTOEICの点数アップ率と相関していました。学習プログラムに参加しなかった人たちにはこのような変化は見られませんでした。
 次に、学習プログラムに参加した人たちについて、プログラム終了1年後に再度検査を行ったところ、ほとんどの参加者はTOEIC点数が学習直後より低下しており、右前頭葉44野の灰白質容積と44野と尾状核の連結強度も学習前に近い状態に戻っていました(図2)。しかし自発的に英語学習を続けていた少数の参加者では、点数が保たれていたと同時に、前頭葉44野の灰白質容積と44野と尾状核の連結強度もプログラム参加前より増加した状態を保っていました。
 さらに137人の日本人成人で英語語彙能力テストを行ったところ、英語語彙能力が高い人ほど右前頭葉44野の容積と44野と尾状核の連結が発達していることがわかりました(図3)。
 以上の結果は、成人になっても、学習により脳局所と局所間連結の両方が並行して柔軟に変化することを示します。
 学習に合わせて強化されたせっかくの神経回路も、学習を怠るのと並行して失われてしまうことがわかりました(図4)。そして、外国語学習によって言語との関わりが乏しいと考えられていた右半球に構築の変化が生じることは、学習によって脳が変化しうるレパートリーは従来考えられていたよりさらに幅広いことを意味します。言語学習に伴う前頭葉44野と尾状核の連結強度の変化は、言語学習に「強化学習」の機構が働いている可能性を示唆します。


<今後の展開>
 今回の研究結果は、外国語学習と脳の関係について新しい視点を与えます。また、今回開発した新しい手法は、外国語学習以外のさまざまな学習メカニズムの理解にも役立つと同時に、言語障害のリハビリテーション法の支援など精神・神経疾患の医療の向上に貢献することが期待されます。


 ※以下、「参考図」などリリースの詳細は添付の関連資料を参照

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