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東大など、10万年周期の氷期−間氷期サイクルのメカニズムを解明

2013-08-17

人類が経験した最大の気候変動、10万年周期の
氷期−間氷期サイクルのメカニズムを解明


1.発表者:
 阿部 彩子(東京大学 大気海洋研究所 准教授)
 齋藤 冬樹(海洋研究開発機構 研究員)
 川村 賢二(情報・システム研究機構 国立極地研究所 准教授)


2.発表のポイント:

 ◆氷期−間氷期が10万年周期で交代する大きな気候変動は、日射変化に対して気候システムが応答し、大気−氷床−地殻の相互作用によりもたらされたものであることを、最新の氷床−気候モデルにより世界で初めて明らかにしました。

 ◆大気中の二酸化炭素(CO2)は、氷期−間氷期サイクルに伴って変動し、その振幅を増幅させる働きがあるが、CO2が主体的に10万年周期を生み出しているわけではないことも分かりました。

 ◆今回の発表内容は、地球温暖化とその影響の長期予測に用いられる氷床−気候モデルの信頼性を検証する上で重要な意義があります。また、今後、より普遍的に地球の気候変動史の原因を解き明かす道筋ができました。


3.発表概要:

 地球の極域の気候と南極大陸やグリーンランドに見られる大陸氷河(氷床)の変化は、現在進行している地球温暖化の重要な指標であるとともに、海水準(静止している海面)を直接変動させる要因にもなっている。とりわけ、人類が進化してきたここ100万年間は、氷期と間氷期が交互に約10万年の周期で交代し、氷床量の変動は、海水準変動(海面の高低変化)に換算して130mにも及ぶものであった。しかし、このような気候と氷床の大変動の周期と振幅をもたらすメカニズムは謎であった。

 東京大学大気海洋研究所の阿部彩子准教授は、海洋研究開発機構の齋藤冬樹研究員、国立極地研究所の川村賢二准教授、コロンビア大学のモーリーン=レイモ教授、スイス連邦工科大学ETHのハインツ=ブラッター教授らと共同して、最新の氷床−気候モデルを用いたシミュレーションの結果、氷期−間氷期が10万年周期で交代する大きな気候変動は、日射変化に対して気候システムが応答し、大気−氷床−地殻の相互作用によりもたらされたものであると突き止めた。とりわけ、北米大陸の形状や気候の地理的分布が決め手となっており、北米の氷床には小さな日射量変化に対して大きく変化しやすい条件が整っていたのだ。また、大気中の二酸化炭素(CO2)は、氷期−間氷期サイクルに伴って変動し、その振幅を増幅させる働きがあるが、CO2が主体的に10万年周期を生み出しているわけではないことも分かった。

 本研究成果は2013年8月8日に科学雑誌「Nature」に掲載され、同じ号のNews and Viewsにも取り上げられる。


4.発表内容:

 地球の極域の気候と氷床の変化は、現在進行している地球温暖化の重要な指標であるとともに、海水準を直接変動させる要因にもなっている。とりわけ、人類が進化してきた第四紀後半の最近100万年間は、海水準変化に換算して約130m相当におよぶ大氷床の拡大・縮小や全球気候の変動を伴う、「氷期−間氷期サイクル」が約10万年周期で繰り返されてきたことがよく知られている。

 この大変動の根本要因は夏の日射変動であると考えられている(ミランコビッチ理論)。実際、古気候データの統計学的解析からは、自転軸の傾きや北半球の夏における太陽と地球の距離といった、夏の日射量を決定する各要素の変動周期が氷期−間氷期サイクルと、密接に関わっていることが示されてきた。しかし、日射強度そのものには約2万年と4万年の変動周期が主にみられ、氷期−間氷期サイクルの10万年周期が顕著に見られない。そのため、10万年周期の発現には気候システムの内部フィードバックメカニズムが働いていると考えられ、これまで様々なプロセスが提案されてきた。たとえば、北半球氷床が十分大きくなると不安定になり、次の夏期日射の増大にともなって氷期終焉になることが指摘されてきた。しかし、これまで用いられて来た簡単なモデルでは、観測で直接的に検証したり制約したりできる物理量や物理プロセスを扱うことができないので、肝心の気候変動メカニズムの実体は謎だった。さらに、氷床コアから得られている大気中の二酸化炭素濃度の変動が氷期サイクルに先行しているようにみえることから、氷期サイクルの原因は炭素循環にあるとする、ミランコビッチ理論に反対する説も提案されてきた。

 阿部准教授らは、種々の気候要因に対して地球システムが応答する際に起こるフィードバック効果については、予め大気大循環モデルを用いて見積もっておき、その結果と3次元氷床力学モデルを組み合わせることにより、大気−氷床−地殻間のフィードバックを考慮しながら氷床モデルを長期間積分することを可能にし(Abe−Ouchi et al, 2007,2012年度猿橋賞受賞論文)、本研究ではさらにこの方法を発展させた。過去40万年については、外的要因として必要な日射変動(ミランコビッチ・フォーシング)は天体理論から精密に計算でき、また、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度についても、南極ドームふじ氷床コアにより正確な年代が与えられたので、これらの気候強制力を正確に入力することが可能になった。このようにして、氷床−大気間のフィードバック効果を考慮にいれた氷床−気候モデル(IcIES−MIROC)を過去40万年にわたって積分し、過去の氷床変動の再現実験を行った上で、各種気候要因の役割を別個に調べるための感度実験を行った。

 その結果、10万年周期の氷床変動や、氷床拡大期における氷床量や地理的分布を再現することに成功した。二酸化炭素濃度を一定に保ったり、地殻の変形速度を無限大と仮定したりした感度実験の結果からは、日射変化に対して大気−氷床−地殻の非線形的な相互作用が生じ、それが10万年周期を生み出していることを突き止めた。大気中の二酸化炭素は、氷期−間氷期サイクルに伴って変動し、その振幅を増幅させる働きがあるが、CO2が主体的に10万年周期を生み出しているわけではないことも示唆された。

 さらに、日射強度を一定に保ちながら20万年ずつ積分することを繰り返した結果、求めた日射強度に対する氷床の平衡応答解が、氷床の初期条件によって2通りに分かれ(すなわち多重応答)、そのヒステリシス(注1)構造が北米とユーラシア大陸で大きく異なり、その差が10万年周期出現にとって決定的であることを発見した。北米大陸はユーラシア大陸と対照的に、近日点の位置の変動周期(約2万年)ごとに氷床が大きく成長する。日射の最大強度を決定する離心率(約10万年周期)が最小に近づくにつれ、氷床成長は加速し、やがて氷床が極大サイズに達する。しかし、大きく成長すればするほど氷床の末端は南下し、後退に必要な日射の増加は小さくて済む。この状態に達した後、離心率がふたたび増大を始め、夏の日射が強くなることで氷床の後退が始まる。急速で大規模な氷期終焉を招く原因は、大気−氷床−地殻にわたる非線形な相互作用にある。ひとたび氷床が後退を開始すると、深く沈み込んだ大陸地殻の応答の遅れのために、氷床表面の融解により低下した表面高度がなかなか復活せず、融解が一気に進むのである(添付資料図1参照)。


(社会的意義、今後の予定)

 今回の発表内容は、気候変動の性質への理解を深め、氷床−気候モデルの信頼性を検証する上で重要な意義がある。また、より普遍的に地球の過去の気候変動の原因を解き明かす道筋ができ、今後の発展につながる。

 地球温暖化とその影響の長期予測には、気候システムの外的要因に対する応答の性質の根本的理解が欠かせない。さらに、過去の実際に起こった気候変動を検討し理解する必要がある。このため、過去の気候変動に関する証拠の収集と、気候モデルによる数値実験を連動して進めることが極めて重要だ。

 実は氷期−間氷期サイクルが10万年周期で起こるのは最近100万年ほどで、それ以前には4万年周期で起きており、その振幅も小さかったことが分かっている。このような周期性や振幅の変化がなぜ起きたのかを調べ、地球の気候の性質の変化についてさらに理解を進める必要がある。特に、長期の温室効果ガス(CO2など)の変化と気候変化の実態を知るために、氷床コアや海底堆積物などから新しいデータを収集し、それとモデル計算とを組み合わせた研究を推進することが不可欠である。また、このような研究の発展を通じて、現在も存在している南極氷床やグリーンランド氷床について、その将来像を推定するために必要となるダイナミクスの理解を深めていくべきである。


5.発表雑誌:

 雑誌名:「Nature」8月8日付、Volume 500, Number 7461, pp 190.193
 論文タイトル:Insolation−driven 100,000−year glacial cycle and hysteresis of ice−sheet volume.
 著者:Ayako Abe−Ouchi*, Fuyuki Saito, Kenji Kawamura, Maureen E. Raymo, Jun’ichi Okuno, Kunio Takahashi and Heinz Blatter,
 DOI番号:doi:10.1038/nature12374


※用語解説・添付資料などは、添付の関連資料を参照

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