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NTTとJAXA、「電気光学プローブ」を応用しイオンエンジン内のマイクロ波電界計測に成功

2013-08-14

小惑星探査機等で使用されるイオンエンジン内のマイクロ波電界計測に
光ファイバ」を活用した電気光学プローブを使用し、世界で初めて成功
マイクロ波放電式イオンエンジンの内部現象の解明により、さらなる高性能化に貢献〜

 日本電信電話株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長:鵜浦 博夫、以下 NTT)と、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(東京都調布市、理事長:奥村直樹、以下 JAXA)は、高精度に電界を測定する技術としてNTT が開発中の光ファイバを活用した「電気光学プローブ」※1(以下 EO プローブ)を応用し、小惑星探査機等で使用されているマイクロ波放電式イオンエンジン※2 内部のプラズマ中のマイクロ波電界※3 計測に世界で初めて成功しました。
 本成果は、これまでは困難であった、イオンエンジン作動中の内部情報を得ることで、プラズマ生成メカニズムの解明に貢献したものです。
 今後、更に高性能なイオンエンジンの設計が可能となり、イオンエンジンを使用する小惑星探査機や各種の人工衛星が、これまでより遠くの惑星をめざしたり、長寿命化を図るなど、効果的・効率的な宇宙活動の実現が期待されます。

1. 研究の背景
 自然界に存在する微弱な電磁波から、大きな出力のマイクロ波まで、さまざまな種類の電磁波を測定するために、「金属プローブ」が広く用いられています。従来のプローブは金属で構成されていることから、測定対象から放射された電磁波を散乱し、測定目的の電磁波を正確に捉えられないという問題がありました。
 NTT では、この問題を改善するため、金属ではなく、通信などで広く利用されている「光ファイバ」を活用したEO プローブを開発しています(図1)。
 また、JAXA では、かねてより小惑星探査機に搭載されるイオンエンジンの研究・開発を進めており、推進性能向上を図ってきました。このイオンエンジンの性能向上を図るため、イオンエンジン作動中にプラズマ中におけるマイクロ波電界の分布を測定する技術を必要としていました。
 しかし、従来のプローブは、金属を使用しているため電界に散乱を起こしてしまい、また、大型のため精密測定ができず、イオンエンジン内部のプラズマ中のマイクロ波電界について、正確な計測が困難でした。
 そこで、NTT が開発した「光ファイバ」を活用したEO プローブの低擾乱性(電界の散乱が発生しにくくなる特性)や高空間分解能(空間的に細かい電界分布を測定可能な特性)に注目し、イオンエンジン内のマイクロ波電界の計測に向けて、共同研究を行ってきました。(図2)

2. 研究の成果
NTT はJAXA との共同研究においてマイクロ波電界の測定に必要とされる感度安定性、耐磁界性、および耐熱性の高い「光ファイバ」を活用したEO プローブを開発し(図3,4)、イオンエンジン内のマイクロ波電界測定に世界で初めて成功しました(図5)。測定結果から、マイクロ波が伝搬できなくなるマイクロ波カットオフ現象※4 を緩和することで、イオンエンジンの性能をさらに向上できることが判明しました(図5)。
今後、マイクロ波放電式イオンエンジンの研究・開発を推し進めることで、イオンエンジンを使用する小惑星探査機がより遠くの惑星への到達することが可能となったり、人工衛星などの宇宙機の長寿命化、等の実現が期待できます。

3. 技術のポイント
 今回の成果は、NTT のもつ高度な「光ファイバ」を活用したEO プローブ技術とJAXA のイオンエンジンマイクロ波電界計測技術により実現しました。

(1) 「光ファイバ」を活用したEO プローブの性能向上の取り組み(NTT、JAXA)(図3,4)
 1)マイクロ波発生器の出力変動以下で安定に計測するため、光ファイバ内で発生する共振を低減するための低コヒーレンス光※5 を導入しました。これにより16%であった測定感度の変動量を10%以下に低減しました。
 2)強磁界領域で使用するため、磁界耐性の低い素子(FR)を先端部より撤去して耐磁界性を向上しました。これにより0.1T(テスラ:磁束密度の単位)であった耐磁界性を8T 以上に向上しました。
 3)EO プローブを高温プラズマ内で使用するために、2 重ガラス細管構造による水冷システムを用いました。水冷システムを含み計測部分はわずか直径3mmであり、イオンエンジンに追加の孔を開けずに、イオン加速孔を介して内部に導入することを可能にしました。

(2)マイクロ波放電式イオンエンジン内のマイクロ波電界分布測定 (JAXA) (図5)
 高電圧を加えて推進力の源であるプラズマジェットを噴射したままの状態で、EO プローブを掃引し、イオンエンジン内部のマイクロ波電界分布を綿密に計測しました。

4. 今後の展開
 NTT では、EO プローブについて、光学素子の煩雑な調整作業による取扱い性の課題やEO 結晶や光ファイバの固定に用いられる接着剤の長期信頼性の課題が懸念されており、これらの課題を解決するための新たなEO プローブ構造の導入に向けた取り組みを進めます。早期の実用化に向けた研究開発を行うことで、イオンエンジン内などのプラズマ電界の測定ツールとして確立することをめざした取り組みを進めてまいります。
 JAXA は、これまでより遠くの惑星をめざしたり、宇宙機の長寿命化を図るなど、効果的・効率的な宇宙活動の実現をめざし、マイクロ波放電式イオンエンジン内部の各種現象を解明し、さらなる性能向上をめざします。

【用語解説】
※1 プローブ
測定試料の特定部位に近付けて試料の物理的、電気的、機械的特性を測定する
検出器の一部を構成する部品です。

※2 イオンエンジン
電気推進の一種で、主に衛星に搭載される推進装置。
はやぶさ」のイオンエンジンは、マイクロ波を使ってプラズマを作るのが大きな特徴です。
イオン化した推進剤を強力な電界で加速し、高速で噴射させることによって推進力を得ます。

※3 プラズマ中のマイクロ波電界
はやぶさ」のイオンエンジンのようにマイクロ波放電を利用して生成されたプラズマ中の電界です。マイクロ波放電式イオンエンジンは、接触電離や直流放電などの他のイオンエンジンと比べて耐久性や運用性に優れます。

※4 マイクロ波カットオフ現象
プラズマの密度がある限界よりも高くなるとマイクロ波が伝搬できなくなる現象です。

※5 低コヒーレンスコヒーレンスとは複数の波の干渉のしやすさを表す性質です。低コヒーレンス光は比較的広い波長帯域を有することにより,他の光や自身の一部に対して時間的および空間的なコヒーレンスを低減しています。

 *「参考資料」は添付の関連資料を参照

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