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理化学研究所と東大、オートファジーが糖鎖の代謝に関わることを発見

2013-07-30

オートファジーが糖鎖の代謝に関わることを発見
−正常時に働くオートファジーはリソソームの機能維持に重要−


<ポイント>
 ・オートファジーが欠損した細胞ではシアル酸を持つ糖鎖が細胞内に蓄積
 ・シアル酸を持つ糖鎖の蓄積の原因は、リソソーム上の膜タンパク質の機能変化
 ・オートファジーの機能不全ががん化のメカニズムに密接に関与する可能性


<要旨>
 理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、細胞内の不要なタンパク質などを分解するオートファジーが特定の糖鎖の効率の良い代謝に関与し、リソソーム[1]と呼ばれる細胞小器官の機能維持に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。これは、理研グローバル研究クラスタ(玉尾皓平クラスタ長)理研‐マックスプランク連携研究センター糖鎖代謝学研究チームの鈴木 匡(ただし)チームリーダー、清野淳一テクニカルスタッフと、東京大学大学院医学系研究科の水島 昇教授らによる共同研究グループの成果です。

 細胞内の不要なタンパク質や脂質、損傷を受けた細胞小器官などを分解するための仕組みの1つとしてオートファジーと呼ばれる機構があります。通常、オートファジーは細胞が飢餓状態のときに起こりますが、正常時にもオートファジーは起こります。これを基底オートファジーと呼び、細胞内のタンパク質の品質を保つのに重要と考えられています。

 一方、真核生物の細胞質には、タンパク質や脂質などと結合しない“遊離”状態の糖鎖(遊離糖鎖)が存在することが古くから知られています。糖鎖はタンパク質をはじめとする生体分子に結合することで特定の機能を与えて、生体内の重要な生理機能を維持しています。しかし、遊離糖鎖が生成、分解される分子メカニズムの詳細については未だ不明な点が数多く残されています。そこで、共同研究グループは、糖鎖分解・代謝のメカニズムを突き止めるためにオートファジーに着目しました。

 共同研究グループは、基底オートファジー機能を欠損させた細胞を調べたところ、その細胞質にシアル酸[2]という糖を持つ遊離糖鎖(シアリルオリゴ糖)が顕著に蓄積していることを発見しました。通常シアリルオリゴ糖は、リソソームで分解され、単糖になったシアル酸が細胞質へ放出されるのでシアリルオリゴ糖そのものは細胞質には蓄積しません。さらに解析を進めると、基底オートファジーが欠損することでリソソーム膜上にあってシアル酸を細胞質へ輸送する膜タンパク質「シアリン」の機能変化によってシアリルオリゴ糖が細胞質に蓄積する可能性が示唆されました。これは、基底オートファジーの機能がリソソームの正常な働きに重要であることを示しています。

 今回の発見により、オートファジーが糖タンパク質の糖鎖の代謝に関与することが初めて明らかになりました。最近、さまざまながん組織にシアリルオリゴ糖が特異的に蓄積していることが報告され、オートファジーの機能不全がある種の細胞のがん化のメカニズムに密接に関与する可能性を示唆しています。今後オートファジーと糖鎖代謝の関係性の詳細を解明することを目指します。本研究成果は、米国の科学雑誌『The Journal of Biological Chemistry』に掲載されるに先立ち、オンライン版に近日中に掲載されます。


<背景>
 細胞を構成するタンパク質などの生体分子は、一定の時間がたつと古いものは分解されて次々と新しい分子に置き換わります。細胞内で不要となったタンパク質や脂質、損傷を受けた細胞小器官などを分解するための仕組みの1つとしてオートファジーと呼ばれる機構があります。これは、酵母からヒトにいたるまでの真核生物に備わっている機構であり、自己成分を分解するため「自食作用」とも呼ばれます。この機構により細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防いだり、タンパク質が過剰に合成したときや環境の変化で飢餓状態になったときにタンパク質のリサイクルを行います。また、細胞質内に侵入した病原菌を排除することで生体の恒常性維持に関与しています。さらに、がんや神経変性疾患といった疾患の病態にも深く関わるなど幅広い機能を有することが分かってきています。

 通常、オートファジーは細胞が飢餓状態のときに起こることが知られていますが、正常時にもオートファジーは起こります。これを基底オートファジーと呼び、細胞内のタンパク質の品質の維持に重要であると考えられてきました。オートファジーの経路は、まず細胞質にある分解されるべき生体分子が、隔離膜によって取り囲まれ、オートファゴソームと呼ばれる構造物を形成します。そして、オートファゴソームは生体分子の分解をつかさどるリソソームと融合してオートリソソームを形成し、最終的にリソソームによってオートファゴソーム内の生体分子が分解・代謝されます(図1)。

 一方、真核生物の細胞質には、タンパク質や脂質などと結合しない“遊離”状態の糖鎖(遊離糖鎖)が存在することが古くから知られています。糖鎖はタンパク質をはじめとする生体分子に結合することで特定の機能を与えて、生体内の重要な生理機能を維持しています。しかし、遊離糖鎖が生成、分解される分子メカニズムについては未だ不明な点が数多く残されています。そこで、共同研究グループは、糖鎖分解・代謝の関係性を突き止めるためにオートファジーに着目しました。


<研究手法と成果>
 共同研究グループは、オートファゴソームの形成に必須の遺伝子Atg5(*1)を欠損したマウスの胚由来繊維芽細胞(Atg5−/−(*2))を用いて、細胞質にどのような糖鎖が蓄積しているかを詳細に調べました。すると、シアル酸という糖を持つ遊離糖鎖(シアリルオリゴ糖)が顕著に蓄積していることが分かりました。通常、シアリルオリゴ糖はリソソームで分解され、単糖になったシアル酸が細胞質へ放出されるのでシアリルオリゴ糖そのものは細胞質には蓄積しません。また、別のオートファゴソーム形成に必要な遺伝子Atg9a(*3)を欠損したマウスの繊維芽細胞でも同様の現象が見いだされたことから、Atg5−/−細胞におけるシアリルオリゴ糖の蓄積はAtg5タンパク質の機能不全によるものではなく、基底オートファジーの経路不全によることが示唆されました。

 *1〜3の正式表記は添付の関連資料を参照

 次に、Atg5の遺伝子発現を遮断して、いったんシアリルオリゴ糖を細胞質に蓄積させた後、Atg5の遺伝子発現を再開させてもシアリルオリゴ糖の速やかな減少は観察されませんでした。これらの実験結果は、基底オートファジーが欠損すると、なぜかリソソームからシアリルオリゴ糖が漏れ出し、一度細胞質に蓄積したシアリルオリゴ糖は基底オートファジーでは分解されないことを示しています。そこで、シアル酸を細胞質に放出するリソソームの膜タンパク質「シアリン」に注目し、基底オートファジー欠損との関係性を調べました。シアリンの遺伝子発現を抑制した細胞でAtg5の遺伝子発現を遮断すると、シアリンの発現を抑制しない細胞(コントロール)と比べてシアリルオリゴ糖の蓄積は顕著に減少しました。つまり、基底オートファジー欠損下での細胞質のシアリルオリゴ糖の蓄積には、シアリンの存在が必要であることが示唆されます。これらの結果から、共同研究グループは、基底オートファジー経路が欠損するとシアリンの機能が変化し、シアル酸ではなくシアリルオリゴ糖を細胞質に放出する、というモデルを提起しました。(図2)。


<今後の期待>
 今回の発見により、基底オートファジーがリソソームの機能そのものに関与することが明らかになりました。最近、すい臓がんや前立腺がんなどのがん組織に、シアリルオリゴ糖が特異的に蓄積していることが報告されています。これは、シアリルオリゴ糖がさまざまながん種の特異的なマーカーとして利用し得ることを示すとともに、オートファジーの機能不全がある種の細胞のがん化のメカニズムに密接に関与する可能性を示唆しています。今後は、今回提唱した仮説を別の角度から検証し、基底オートファジー欠損下でおこるシアリルオリゴ糖蓄積の詳細な分子機構の解明を目指します。


<原論文情報>
 ・Junichi Seino,Li Wang,Yoichiro Harada,Chengcheng Huang,Kumiko Ishii,Noboru Mizushima and Tadashi Suzuki."Basal autophagy is required for the efficient degradation of sialyl oligosaccharides"The Journal of Biological Chemistry,2013


<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 グローバル研究クラスタhttp://www.riken.go.jp/research/labs/grc/
 理研−マックスプランク連携研究センター(http://www.riken.go.jp/research/labs/grc/riken_max_planck/
 システム糖鎖生物学研究グループ(http://www.riken.go.jp/research/labs/grc/riken_max_planck/sys_glycobiol/
 糖鎖代謝学研究チーム(http://www.riken.go.jp/research/labs/grc/riken_max_planck/sys_glycobiol/glycometabolome/
 チームリーダー 鈴木 匡(すずき ただし)


 ※補足説明・図1〜2は、添付の関連資料を参照

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