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豪RMITなど、太陽電池に適した低コストで毒性が少ない半導体ナノ結晶の合成に成功

2013-07-29

太陽電池に適した低コストで
毒性が少ない半導体ナノ結晶の合成に成功


<ポイント>
 >希少で高価な元素を使用しない低毒性元素を含む半導体ナノ結晶の開発が課題。
 >銅・アンチモン・硫黄を含む半導体ナノ結晶の作り分けに世界で初めて成功。
 >溶液塗布プロセスによる低コストで低毒性の無機太陽電池作製へ新たな一歩を開拓。


 オーストラリア・ロイヤルメルボルン工科大学(RMIT)の橘泰宏上級准教授らは、資源が比較的豊富で安価な元素である銅・アンチモン・硫黄から成る半導体ナノ結晶(注1)の合成とその作り分けに成功しました。
 溶液中における化学反応を利用して合成されるコロイド(注2)状半導体ナノ結晶は、塗布型印刷プロセスを用いた安価な次世代太陽電池の材料として注目を浴びています。ところが、現在利用されている化学(溶液)プロセスを用いて合成されたコロイドナノ結晶の主な種類は、カドミウムや鉛など毒性の高い元素を含む半導体に限られていました。欧州連合(EU)内では、カドミウムや鉛などの有害な化学物質を含む家電製品類の製造、販売が禁止されています。このため、低価格かつ低毒性の半導体ナノ結晶の開発が望まれていました。
 今回、安価で低毒性の元素として銅・アンチモンを選択し、硫黄を組み合わせた3つの元素から成る半導体ナノ結晶について、それらの条件一つ一つを総合的・系統的に精査することで、標的の半導体ナノ結晶の作り分けに成功しました。さらに、得られたナノ結晶を用いて、塗布法により薄膜を簡単に作製可能であることが分かり、薄膜から安定的に光電流(注3)が生じることも確認しました。
 この発見により、安価で低毒性元素を利用した、溶液塗布プロセスによって作製される太陽電池に適した新材料を開拓しました。現在、塗布型太陽電池の作製に取り組んでおり、数年以内の実証実験を経て、実用化を目指します。さらに、本研究で用いたコロイドナノ結晶合成法は、ほかの金属元素にも応用可能であるため、将来的には今回のものと異なる有用な元素を用いて、太陽電池以外にも使用可能な半導体ナノ結晶の開発にも広く貢献することが期待されます。
 本研究は、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)のジョウル・ヴァン・エムデン博士らと行われました。本研究成果は、2013年7月23日(米国東部時間)に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」で公開されます。

 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
  戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)
   研究領域:「太陽光と光電変換機能」
         (研究総括:早瀬修二九州工業大学大学院生命体工学研究科教授)
   研究課題名:「量子界面制御による半導体量子ドット増感太陽電池の開発」
   研究者:橘泰宏(RMIT大学航空・機械・生産加工学科上級准教授)
   研究実施場所:オーストラリア・RMIT大学航空・機械・生産加工学科
   研究期間:平成21年10月〜平成25年3月
 この研究領域では、化学・物理・電子工学などの幅広い分野の研究者の参画により異分野融合を促進し、次世代太陽電池の実用化につながる新たな基盤技術の構築を目標として、理論研究から実用化に向けたプロセス研究に渡る広域な研究を対象とするものです。


<研究の背景と経緯>
 半導体ナノ結晶は、高い光吸収特性など優れた光学・電子特性を持つことから、生体イメージングや発光デバイスだけでなく、最近では太陽電池へ利用するための研究・開発が活発に進められています。特に、溶液中における化学反応を利用して合成されるコロイド状半導体ナノ結晶(図1)は、塗布型印刷プロセスを用いた安価な太陽電池の作製に利用可能なことから、次世代の太陽電池材料として注目を浴びています。ところが、これまで合成されたコロイドナノ結晶の主な種類は、カドミウムや鉛など毒性の高い元素を含む半導体に限られていました。
 EUでは、人体や自然環境にとって有害な化学物質をテレビやパソコンなどの電気製品に使用することを禁止した「RoHS指令」が2006年に出されました。そこでは、鉛、水銀、カドミウムなどの強い毒性物質が禁じられ、ほかの国にも規制は広がっています。このため、より低い毒性元素を含み、しかもインジウムなどの希少で高価な元素を使用しない半導体ナノ結晶の開発が望まれていました。
 近年、カルコゲナイド系の化合物半導体Cu2ZnSnS4(*1)(CZTS)、黄鉄鉱(Fe2S(*2))、硫化スズ(SnS)などの半導体ナノ結晶の開発が報告され始めていました。これまでに、橘上級准教授とヴァン・エムデン博士らは、低毒性で安価なアンチモン(Sb)元素に着目し、銅・アンチモン・硫黄の3元素から成る半導体ナノ結晶を作製していました。(参考文献1)。しかし、その半導体ナノ結晶を合成するために必須のナノ結晶のサイズや構造の制御、合成の詳細な条件、光学・電気特性などの多くの因子に関しては、明らかになっておらず、また自在に結晶を作り分けることはできませんでした。

 *1、2の正式表記は添付の関連資料を参照


<研究の内容>
 2種類の元素の半導体と比較して、3種類の元素を用いた半導体ナノ結晶の合成は、元素を1つ増やすために検討しなければならない条件因子が大幅に増えます。また、半導体形成条件が制限されるために、最適な条件を探ることが非常に困難です。
 そこで今回、橘研究者らは、反応前駆体(注4)の種類・濃度、反応温度並びに結晶核生成・成長条件などのさまざまな実験条件を詳細に検討した結果、銅・アンチモン・硫黄を含む半導体で、「安四面銅鉱(Cu12Sb4S13(*3))」と「ファマチナ鉱(Cu3SbS4(*4))」と呼ばれる異なる結晶構造を持つナノ結晶を、サイズを制御しながら作り分けることに成功しました。また、実験条件を細かく設定することにより、ナノ結晶の構造制御が可能であることを明らかにしました。硫黄の割合が小さい安四面銅鉱は、硫黄を含む反応前駆体の濃度をより低くすることにより生成しやすくなることが分かりました(図2)。また、単一の構造を持つナノ結晶を選択的に合成するためには、反応温度の微妙な調整が必要であることも分かりました。
 安四面銅鉱ナノ結晶に注目してみると、コロイド溶液の状態では黒茶色を呈し(図3a:写真)、広波長領域の光を吸収することが可能なため、太陽電池の光吸収材として適しています。透過型電子顕微鏡を用いてナノ結晶を観察してみると、サイズの均一にそろったナノ結晶が合成されていることが分かり(図3b)、さらに高分解能顕微鏡では、格子間隔が2.98Åの典型的な安四面銅鉱結晶面の一部を示すことが分かりました(図3c)。
 一方、反応温度などの因子を制御することによって、ナノ結晶のサイズを自由に選択することができます(図3d)。このほか、このナノ結晶コロイドを用いて、塗布法により薄膜を簡単に作製可能であることが分かり(図4左)、安定に光電流を生じることも確認しています(図4右)。
 これらの結果から、銅・アンチモン・硫黄を含む半導体ナノ結晶は、太陽電池材料として非常に魅力的であることが分かり、安価・低毒性の無機半導体コロイドを簡易溶液プロセスで作製するデバイスへ応用するための道を切り開いたといえます。

 *3、4の正式表記は添付の関連資料を参照


<今後の展開>
 今回、合成に成功した半導体ナノ結晶は、銅・アンチモン・硫黄のいずれも資源が比較的豊富で安価な元素から成ります。また溶液において化学反応を利用する簡便な半導体ナノ結晶合成方法を確立しました。今後は、合成に成功したナノ結晶を用いて、実際に溶液塗布プロセスによる太陽電池を作製し、光吸収材や電荷輸送層としての有効性を検討し、安価な太陽電池の作製を目指します。また、本研究で用いたコロイドナノ結晶合成法は、基本的にほかの金属元素にも応用可能であり、低毒性で安価なさまざまな種類の元素を用いた半導体ナノ結晶の開発にも貢献すると期待されます。


<付記>
 本研究は、RMIT大学応用科学科ケイ・レイサム上級准教授、CSIROのノウル・ダフィー博士らと共同で行われました。


 ※以下の資料は添付の関連資料「参考資料」を参照
  ・図1〜4
  ・用語解説
  ・論文タイトル
  ・参考論文

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