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東大、水平移動するアザラシの移動コストが中性浮力の時に最小になることを解明

2013-07-26

水平移動するアザラシの移動コストは中性浮力の時に最小となる
――バイオロギングによる野外操作実験から――


1.発表者:
 佐藤 克文(東京大学大気海洋研究所 准教授)
 青木 かがり(東京大学大気海洋研究所 海洋科学特定共同研究員)
 渡辺 佑基(国立極地研究所 助教)
 パトリック・ミラー(セント・アンドリュース大学 講師)


2.発表のポイント:
 ◆水生動物が中性浮力を有する時に水平移動に要するエネルギー(移動コスト)が最小となることを明らかにした。
 ◆野外環境下においてバイオロギング(注1)手法と操作実験を組み合わせ、未解明の仮説を検証した。
 ◆仮説発掘型のバイオロギング手法に操作実験を組み合わせることで、仮説検証も可能であることを示し、新たな手法論を提案した。


3.発表概要:
 水生動物は体の重さのほとんどが浮力によって支えられており、重力と浮力が釣り合い、浮きも沈みもしない状態(中性浮力)の際に最も楽に水平移動できると考えられていた。一方、この釣り合いが崩れると、アザラシのような水生動物は、体の密度と水の密度差を利用して、ヒレの動きを止めて泳ぐグライディングにより、水平移動のコストを節約しているとする説もあり、アザラシの移動コストがどのような場合に最小となるかは不明であった。
 東京大学大気海洋研究所の佐藤克文准教授らの研究グループは、バイオロギング手法と操作実験を組み合わせた手法により、アザラシは、その体密度が水の密度から外れるほどその遊泳努力量は大きくなり、中性浮力に近い体密度をもつ時に最小の移動コストで水平移動できることを見いだした。本研究の成果は、野外でアザラシに自動脱着式の重りや浮きをつけることによってアザラシの体密度を操作し、アザラシの遊泳努力量を比較した結果、明らかになったものである。
 本研究は、バイオロギング手法と操作実験を組み合わせる手法は有効であることを実証するものであり、生物の生態や行動を理解する新たな手法として広く用いられるようになることが期待される。


4.発表内容:
 身の回りを飛んでいる小鳥は、数回羽ばたいた後に、翼をぴたっと体につけて惰性で進み、再び羽ばたくことを繰り返す。大型の鳥は、羽ばたいた後、翼を広げたまま滑空し、再び羽ばたく。これら2種類の断続的な羽ばたき飛翔を横から眺めると、羽ばたいている時の上昇と羽ばたいていない時の下降が連続し、軌跡が蛇行する様子が見て取れる。直線的に飛ぶよりも移動経路は長くなるが、鳥の飛翔に要するコスト節約に役立っていることが理論的に予測され、風洞実験などによってその予測は検証されている。
 バイオロギング(注1)の主な対象となる水生動物は、水平方向に移動する間に、水面に対して垂直な鉛直移動を繰り返していることがみられる。一見、鳥の断続的羽ばたき飛翔に似ているこの移動方法が、水生動物の水平移動に要するコストを節約しているとする論文が2011年に公表された(Gleiss et al.2011 Nature Communications,doi:10.1038/ncomms1350)。しかし、先行研究にはアザラシの遊泳努力量を適切に比較できていない問題があり、さらなる研究が必要であった。加えて、直接観察が難しい水生動物の行動を測定する方法として、近年バイオロギング手法が広く用いられているが、仮説を検証するための操作実験はまだ例数が少なく、行動生態学における新たな手法の開発が必要である。
 本研究グループは、キタゾウアザラシ(注3)とバイカルアザラシ(注4)を対象に野外で重りや浮きの切り離し実験を行った。具体的には、キタゾウアザラシ3個体とバイカルアザラシ1個体に対して、重りを付けて放流しその後タイマーを使って重りを切り離す実験と、浮きと重りを付けて放流しその後重りだけを切り離す実験を行った。重りや浮きだけがついている状態では、アザラシの体密度は海水(キタゾウアザラシ)や淡水(バイカルアザラシ)から大きく外れ、重りを切り離した状態や重りと浮きがついた状況では中性浮力に近くなる。
 その結果、アザラシは体密度が水の密度から大きく異なる状態でも、中性浮力に近い状態でも、ストローク&グライド(注5)と呼ばれる泳法で断続的に尾ヒレを振って泳いでいた(図1)。先行研究(Gleiss et al.2011)ではストローク&グライド泳法で泳いでいる際に、ゾウアザラシの深度が同調して上下動していたが、本研究では深度の上下動は顕著ではなかった。
 先行研究(Gleiss et al.2011)では深度の上下動を伴う時と、伴わない時で遊泳努力量を比べ、前者の遊泳努力量が少ないという結果を得ていた。その結果より、中性浮力から外れる状況では密度差を利用してグライディングし、水平移動のコストを削減していると結論づけていた。しかし、体密度と海水密度の差が移動コストの削減に貢献しているかどうかを検証するためには、実際に体密度を変えて遊泳努力量を比較しなければならない。
 本研究では、体密度が海水や淡水に近い場合の条件と、中性浮力からより大きく外れる場合の条件で、アザラシの遊泳努力量を比較した。その結果、全個体において体密度が水の密度から異なるほど、遊泳努力量が増大することが明らかになった(図2)。これは、体密度が水の密度から外れることは、断続的遊泳を行う上での必須条件ではなく、移動コスト削減にも貢献していないことを示すものである。ストローク&グライド泳法で水平移動するアザラシの移動コストは、体密度が海水や淡水の密度に釣り合う中性浮力の際に最も少なくなることが示唆された。本成果は、バイオロギング手法と操作実験を組み合わせる手法は有効であることを実証するものであり、生物の生態や行動を理解する新たな手法として広く用いられるようになることが期待される。


5.発表雑誌:
 雑誌名:Scientific Reports 3:2205.(Nature Publishing Group)2013年7月16日
 論文タイトル:Neutral buoyancy is optimal to minimize the cost of transport in horizontally swimming seals.
 著者:*Katsufumi Sato,Kagari Aoki,Yuuki Y.Watanabe and Patrick J.O.Miller
DOI番号:10.1038/srep02205
 アブストラクトURL:無し


6.注意事項:特になし。

 ※用語解説・図は添付の関連資料を参照


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