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東大と理化学研究所、制御性T細胞を誘導するヒトの腸内細菌の同定と培養に成功

2013-07-18

制御性T細胞を誘導するヒトの腸内細菌の同定と培養に成功−炎症性腸疾患やアレルギー症に効果−


<発表概要>
 東京大学大学院新領域創成科学研究科(武田展雄研究科長)附属オーミクス情報センターの服部正平教授と理化学研究所統合生命医科学研究センター(小安重夫センター長代行)消化管恒常性研究チームの本田賢也チームリーダーらを中心とする共同研究グループ(#)は、免疫反応を抑制する働きのある制御性T細胞(Treg細胞:ティーレグ細胞)(※1)を誘導するヒトの腸内細菌の同定に世界で初めて成功しました。
 今回同定されたヒト腸内細菌は、17種類のクロストリジウム属菌(※2)からなり、健康なヒトの糞便から分離されました。同グループは同様な活性を持つマウスの腸内細菌を既に同定していましたが、本研究では、ヒト糞便から分離した腸内細菌叢(※3)からクロストリジウム属菌を濃縮し、さらに数回にわたる希釈とマウスへの投与実験を経て、Treg細胞を増やす効果のある17菌種の混合物を同定しました。さらに、個々の菌を分離して個別に培養することにも成功しました。
 培養した17菌種の混合物をマウスに投与すると、大腸のTreg細胞の数が増加して腸炎や下痢が有意に抑制されました。また、17菌種の多くが、健常者群に比べて炎症性腸疾患患者群の糞便で有意に減少していました。
 今回の成果は、アレルギーや炎症性腸疾患などの過剰な免疫反応が原因となっている病気の治療や予防への応用が期待されます。


 本研究成果は、科学雑誌『Nature』(7月10日online版)に掲載されます。
 論文タイトル:Treg induction by a rationally selected Clostridia cocktail from the human microbiota.


#共同研究グループ
 理化学研究所統合生命医科学研究センター(本田賢也(*)、新幸二、田ノ上大、永野勇治、成島聖子、大野博司、長谷耕二)
 東京大学大学院新領域創成科学研究科(服部正平、須田亙、大島健志朗(*))
 大阪大学免疫学フロンティア研究センター(坂口志文、西川博嘉)
 慶応大学先端生命科学研究所(福田真嗣)
 ルクセンブルク大学(Joelle V. Fritz、Paul Wilmes)
 東京大学大学院医学研究科(谷口維紹、松島綱治、上羽悟史)
 PureTech Ventures(Bernat Olle)
 麻布大学獣医学部(森田英利(*))
 *科学技術振興機構CREST「生体恒常性維持・変容破綻機構のネットワーク的理解に基づく最適医療実現のため技術創出」


<発表内容>

1. 背景
 アレルギーや炎症性腸疾患は過剰な免疫反応に起因する病気であり、その発症にはT細胞が関与しています。リンパ球の一種であるT細胞には、様々な種類の分化したT細胞が存在しています。これらの分化T細胞は免疫を活性化するものと、抑制するものに大別できます。その中で、制御性T細胞(Treg細胞)は免疫を抑制する機能をもっています。免疫疾患や自己免疫疾患(※4)では、過剰な免疫反応に対して、Treg細胞による抑制がうまく働かない(Treg細胞の数が少ない)ことが、その発症の要因と考えられています。そのため、Treg細胞の数を人為的にコントロールできれば、様々な免疫系疾患の治療や軽減、予防につながると期待されています。
 今回の研究に先だって2011年に共同研究グループの本田博士らは、マウスを用いた実験により、腸内細菌の存在と他の臓器と比べて腸管内ではTreg細胞が3倍以上存在することとは関連があることを突き止めていました。さらに、腸内細菌のうち、グラム陽性菌で芽胞(※5)を形成するクロストリジウム属菌がTreg細胞の誘導に必須であることが明らかになっていました(Science, 2011 Induction of colonic regulatory T cells by indigenous Clostridium species., http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21205640)。
 しかしながら、同定された腸内細菌はすべてマウス由来であり、ヒトの病気への応用には、ヒト由来の腸内細菌を同定する必要があります。加えて、ヒトの消化管にもクロストリジウム属菌は多く存在しており、Treg細胞を誘導するヒト腸内細菌の探索が求められていました。


2.研究手法と成果
 本研究では、健康な大人の糞便を無菌マウス(※6)に投与し、ヒト腸内細菌叢をもつマウスを作成しました(図1)。このマウスの大腸では、無菌マウスよりも多くのTreg細胞が出現し、Treg細胞を誘導する働き(誘導能)を持ったヒト腸内細菌の存在が強く示唆されました。その後、クロロホルム処理(※7)したヒト糞便をマウスに投与したところ、より強力なTreg細胞の誘導(Treg誘導)がみられました。菌種を絞り込むため、Treg誘導が見られたマウスの盲腸から腸内細菌を丸ごと分離し、それを2万倍に希釈して無菌マウスに投与しました。この菌種を絞り込むための一連の作業を再度繰り返したのち、Treg細胞の誘導が検出されたマウスから最終的に少なくとも23種類からなるTreg誘導能をもつ細菌混合物を分離することができました。
 つぎに、このTreg誘導能をもつ細菌混合物から個々の菌を分離培養することを試み、最終的に17菌種の培養に成功しました。この分離して培養した17菌種を混合し、無菌マウスに投与したところ、そのTreg誘導能は23菌種の混合物とほぼ同程度のTreg誘導能が認められました。一方で培養した17菌種のうち5菌種からなる混合物、3菌種からなる混合物、1菌種のみをそれぞれマウスに投与したところ、そのいずれの場合も17菌種に比べて半分または半分以下の誘導能しか認められませんでした。これらの結果は、フルのTreg誘導(23菌種の混合物と同程度のTreg誘導)には17種程度の菌の混合物が必要であることを示唆するものです。
 今回発見した17菌種の全ゲノム配列を解析したところ、17菌種はすべてがクロストリジウム属菌であり、うち5菌種は既知の菌種と系統的に遠縁にあたる新菌種であることが遺伝子情報からわかりました。さらに、17菌種すべてがクロストリジウム属菌のサブグループXIV、XVIII、IVに属していました。これらのサブグループに属する既知のヒト由来菌種のいくつかが、炎症性腸疾患患者の腸内で減少していることが知られています。本研究では、17菌種の多くが、健常者群に比べて炎症性腸疾患患者群の糞便で有意に減少していることも確認しました。
 また、17菌種を投与したマウスは、17菌種をもたないマウスに比べて腸炎及び下痢を有意に抑制することも分かりました。


3. 今後の展開
 本研究の成果は、アレルギーや炎症性腸疾患などの過剰な免疫反応が原因となっている病気の予防や治療に役立つと期待されます。今後は、17菌種のクロストリジウム属菌がTreg細胞を誘導する分子機構およびそれに関わる分子種を明らかにすることが重要です。


※参考図・用語解説は、添付の関連資料を参照

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