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東北大、膵島移植に使用される細胞分離酵素でコラゲナーゼHの重要性を解明

2013-07-02

糖尿病治療のテーラーメード型膵島分離の実現へ向けて
糖尿病患者への膵島移植に使用される細胞分離酵素においてコラゲナーゼHが重要であり、そのターゲット基質の一つはコラーゲンIIIである


東北大学未来科学技術共同研究センター(大学院医学系研究科兼務)の後藤昌史教授、大学院医工学研究科の村山和隆准教授、大学院医学系研究科先進外科の大内憲明教授および藤尾淳医師、大学院医学系研究科生物化学分野の五十嵐和彦教授らのグループは、糖尿病を対象とする細胞移植治療である膵島(注1)移植において、膵島細胞を分離するために使用されている細胞分離酵素においてコラゲナーゼH(コラゲナーゼ(注2)のサブタイプ)が極めて重要であることを明らかにしました。これまで膵島分離におけるコラゲナーゼサブタイプの意義に関する統一見解は得られておらず、コラゲナーゼHは過消化を惹起するため悪玉とする報告も見受けられましたが、今回サブタイプ毎にクローニングした高純度なリコンビナント(注3)タイプのコラゲナーゼを用いる事により、コラゲナーゼHが膵島分離において決定的役割を果たしている事を明らかと致しました。さらに、質量分析法を導入する事により、膵組織上に発現しているコラーゲン(注4)IIIがコラゲナーゼHのターゲット基質の一つである事を見出しました。この結果は、コラーゲンIIIがコラゲナーゼHの必要量を最適化する有用なマーカーとなり得る事を示唆しており、現在の膵島移植の最大の課題の一つである低い膵島分離成功率の改善へ向けたテーラーメード(注5)型膵島分離法(図1)を構築する上で有用な知見になると思われます。
 この研究成果は、米国の国際学術誌Cell Transplantationに6月13日(米国東部時間)に掲載されました。


【発表のポイント】
 膵島移植は、糖尿病患者にとって理想的な低侵襲治療法ですが、臓器提供者から提供された膵臓から膵島細胞を分離する技術は容易ではなく、世界のトップレベルの医療機関においても膵島分離成功率はいまだ50%に満たないのが現状です。その理由の一因として、細胞分離酵素の使用法が挙げられます。提供された膵臓の組織構成は年齢や肥満度により大きく異なることが判明しておりますが、現在、臨床現場で使用される細胞分離酵素剤であるコラゲナーゼはいくつかの異なる種類(サブタイプ)が混ざった組成のものであり、1種類のみの純品を使用することは不可能です。そのため、たまたま細胞分離酵素の組成に合致する範囲の組織組成をもつ膵臓が提供された場合のみ、膵島細胞の分離が成功しているのが現状です。実際、若年者や痩せ型の提供者由来の膵臓からの膵島分離成功率は極めて低い事が、これまでの多くの研究論文により明らかとなっております。コラゲナーゼサブタイプの組成を変動させ提供された膵臓の組織構成に至適化するためには、各コラゲナーゼサブタイプの作用対象となるターゲット基質の同定が不可欠ですが、これまで全く同定されておりませんでした。そこで、本研究におきましては以下の取り組みを行い、貴重な新知見を得ることができました。

(1)提供膵臓の組織構成にあわせて、異なる組成のコラゲナーゼを使用することを可能にすべく、これまでの市販細胞分離酵素剤と異なり、サブタイプ毎にクローニングした高純度なリコンビナントタイプのコラゲナーゼを産生した。これにより、現在の市販品が抱えているもう一つの大きな課題であるロット格差の問題も一気に解決できることとなった。

(2)産生したリコンビナントタイプのコラゲナーゼを使用し、膵島分離においてコラゲナーゼHが極めて重要である事を明らかとした。

(3)産生したリコンビナントタイプのコラゲナーゼHを使用し、膵組織上に発現しているコラーゲンIIIがコラゲナーゼHのターゲット基質の一つである事を見出しました。


【研究内容】
 膵島移植は、重症1型糖尿病に対する治療法として既に臨床応用が開始されています。この新しい細胞移植療法は、全身麻酔や開腹手術を必要としない、患者にとって理想的な低侵襲治療法でありますが、臓器提供者から提供された膵臓から膵島細胞を分離する技術は容易ではなく、世界のトップセンターにおいてもいまだ50%に満たないのが現状です。その理由の一因として、膵島分離の際に使用される細胞分離酵素の問題が挙げられます。現在臨床現場で主に使用されている細胞分離酵素は、Clostridium histolyticum由来のコラゲナーゼを主成分とし、さらに中性プロテアーゼといくつかの未知なプロテアーゼによって構成されております。Clostridium histolyticum由来のコラゲナーゼは、コラゲナーゼG(ColG)とコラゲナーゼH(ColH)の二つのサブタイプに分類されます。二つのコラゲナーゼの役割につきましては、これまでにいくつかの報告が散見されますが、いまだ統一見解は存在しません。その原因の一つが、研究に使用されてきたコラゲナーゼサブタイプの精製法です。これまでのほとんどの研究におきましては、陰イオン交換クロマトグラフィーによってColGとColHを分離精製しておりましたため、対象以外のコラゲナーゼサブタイプやClostridium histolyticum自体に由来する未知のプロテアーゼの混入が不可避でありました。そこで本研究におきましては、サブタイプ毎にクローニングした高純度なリコンビナントタイプのコラゲナーゼを使用することにより、膵島分離におけるColGおよびColHの役割の解明を試みました。また、免疫組織化学染色分析、コラーゲン消化試験、および質量分析法を用いて、コラゲナーゼサブタイプの作用対象となる細胞外マトリックスに関しても検討を行いました。
 まず、リコンビナントタイプのColG、ColH、またはその両方に、中性プロテアーゼを全ての群に加えて調合し、それぞれの群の分離膵島の収量と機能を測定しましたところ(各n=9)、膵島収量はColG/ColH群で最も高値を示しましたが(4,101±153 islet equivalents)、ColH群におきましても十分量の良質な膵島を回収することが可能でした(2,811±194islet equivalents)(図2)。一方、ColG群におきましては、全く膵島が分離されませんでした(p<0.01)(図1)。さらに、質量分析により、ColHがコラーゲンIおよびIII(特にIII)を分解していることが示唆されました。また、免疫組織化学染色分析におきましても、コラーゲンI、IIIはいずれも膵臓の外分泌組織に発現しており、特にコラーゲンIIIがより多く発現している事が判明致しました。コラーゲン消化試験におきましても、コラーゲンIIIがColHにより効果的に消化されることが判明致しました。
 本研究により、ラットの膵島分離におきまして、ColGは補助的な役割に限局されるものの、ColHは極めて重要な役割を担っていることが明らかとなりました。また、ColHが作用する膵臓の細胞外マトリックス(注6)の一つがコラーゲンIIIであることが示唆されました。したがいまして、今後、膵組織におきまして発現されているコラーゲンIIIを半定量化し、それに対するColHの量を至適化することにより、膵島分離の成功率が飛躍的に高まる可能性があると推察されました。

 本研究は文部科学省橋渡し研究加速ネットワークプログラム、科学技術振興機構研究シーズ探索プログラム、科学技術振興機構地域産学官共同研究拠点整備事業(TAMRIC)、および東北大学大学院医学系研究科共通機器室によってサポートされました。

 ※以下、リリースの詳細は添付の関連資料を参照

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