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東工大など、層状コバルト酸化物の高イオン伝導度の原因を解明

2013-06-29

層状コバルト酸化物の高イオン伝導度の原因を解明
−燃料電池などの性能向上へ威力−


【要点】
 ○層状コバルト酸化物PrBaCo2O5+δ(*1)における酸化物イオンの高速移動経路を可視化
 ○酸化物イオンの高速移動経路が、プラセオジム(Pr)とバリウム(Ba)の規則化により生じる理由を原子スケールで解明
 ○新しいイオン伝導体の開発や固体酸化物形燃料電池などの性能向上につながる

 *1「PrBaCo2O5+δ」の正式表記は添付の関連資料を参照


【概要】
 東京工業大学理工学研究科の八島 正知教授ら及び英国インペリアル・カレッジ・ロンドンのキルナー ジョン教授らの研究グループは、層状コバルト酸化物の「プラセオジム・バリウム・コバルト酸化物(PrBaCo2O5+δ)」が高い酸化物イオン伝導度を持つ仕組みを解明した。従来、陽イオンが不規則に配列した方が酸化物イオン伝導度は高いとされているにもかかわらず、規則配列している「PrBaCo2O5+δ」が高イオン伝導度を示していた謎を、結晶構造(原子配列)と核密度(※1)の空間分布を中性子回折などで詳細に解析して解き明かした。
 この成果は酸化物イオン伝導度が高いイオン伝導体の設計に新しいコンセプトを示すもので、新しいイオン伝導体の開発につながる。高いイオン伝導度を示すイオン伝導体は、空気中から酸素を効率良く取り込めるため、固体酸化物形燃料電池(※2)などの性能向上と研究開発の加速が期待される。
 研究は東京工業大学の八島 正知教授らが、英国 インペリアル・カレッジ・ロンドンのキルナー ジョン(Kilner John)教授とスペイン マドリード・コンプルテンス大学(共同研究時はインペリアルカレッジロンドンのポスドク研究員)のペーニャ フアン(Pena Juan(*2))助教と共同で行った。また、この成果は米国化学会の学術誌「ケミストリー・オブ・マテリアルズ(Chemistry of Materials)」のオンライン版に掲載され、冊子版は印刷中である。

 *2「Pena Juan」の正式表記は添付の関連資料「オリジナルリリース」を参照


【研究の背景】
 エネルギー・環境問題を解決するには燃料電池や酸素濃縮器などの高効率化が必要である。そのためにはイオン伝導度が高いイオン伝導体や、高いイオン伝導度と電子伝導度を有する混合伝導体(※3)の開発が必要である。近年、高いイオン伝導度を示す混合伝導体として層状ペロブスカイト型構造(※4)を有する酸化物が発見され、注目を集めているが、その原子スケールでの仕組みは未解明であった。
 層状ペロブスカイト型酸化物の中でも、プラセオジムとバリウムが規則配列したPrBaCo2O5+δの酸化物イオン伝導度は特に高い。通常、プラセオジムやバリウムなどの陽イオンが不規則に配列した方が、酸化物イオン伝導度が高いと期待されるが、プラセオジムとバリウムが規則配列しているのに、酸化物イオン伝導度が高い理由は謎であった。キルナー教授のグループでは拡散係数や計算機シミュレーションによりPrBaCo2O5+δのイオン伝導機構を研究してきたが、実験による原子スケールでの高イオン伝導度の発現機構の研究が渇望されていた。


【研究内容と成果】
 同研究グループはこの層状コバルト酸化物の結晶構造(原子配列)と核密度の空間分布を中性子回折などで詳細に解析した結果、プラセオジム近くの頂点酸素と、コバルト−酸素面上の酸素を介して酸化物イオンが移動することを突き止めた(図1の矢印で示すO2−O3経路)。バリウムとプラセオジムがc軸に沿って交互に配列すると、静電エネルギーを低くするためにコバルト−酸素面上の酸素原子がプラセオジム側にシフトして、コバルト−酸素面上の酸素とプラセオジム近くの酸素のO2−O3距離が短くなる(図2)。そのためプラセオジムの近くの酸素空孔濃度が高い頂点酸素席O2とコバルト−酸素面上の酸素O3を介して酸化物イオンが移動し易くなることが判明した。
 具体的には、層状ペロブスカイト型構造を有する混合伝導体PrBaCo2O5+δを合成し、その酸素濃度を熱重量分析により調べた。また、結晶構造と酸化物イオンの高速移動経路を、日本原子力研究開発機構・東海研究開発センター・原子力科学研究所の研究用原子炉JRR−3に設置されている東北大学・金属材料研究所の中性子回折装置HERMES(エルメス,装置責任者 大山研司准教授)を用い、八島研究室で開発した試料高温加熱装置により空気中1000℃と596℃で調べた。
 中性子回折実験の一部は大強度陽子加速器施設J−PARC(ジェイパーク)の物質・生命科学実験施設に設置された中性子粉末回折計iMateria(アイマテリア)を用いて、また放射光X線回折実験の一部は大型放射光施設SPring−8(スプリングエイト)のビームラインBL02B2とBL19B2および高エネルギー加速器研究機構・放射光科学研究施設のビームラインBL−4B2において実施した。
 その結果、同酸化物PrBaCo2O5+δには大量の酸素空孔がプラセオジムの近くの頂点酸素O2席に存在していることが分かった(図2,O2における酸素空孔の割合=62.5%)。このプラセオジム近くの頂点酸素O2と、コバルト−酸素面上の酸素O3を介して酸化物イオンが移動することを解明した(図1)。移動する方向は<110>方向であることもわかった(図1の矢印)。
 サイズが大きな二価のバリウムBa2+とサイズが小さい三価のプラセオジムPr3+がc軸に沿って交互に配列すると、静電エネルギーを小さくするためにコバルト−酸素面上の酸素原子(図2のO3)がプラセオジム側にシフトして、コバルト−酸素面上の酸素とプラセオジム近くの酸素のO3−O2距離が短くなる。そのためプラセオジムの近くの酸素空孔濃度が高い頂点酸素席O2とコバルト−酸素面上の酸素O3を介して酸化物イオンO2−が移動しやすくなることが判明した。
 さらに、温度を596℃から高温(1000℃)まで上昇させると、596℃で局在していた、Co−O3層上の酸素O3と頂点酸素O2の空間分布が1000℃では連結して酸化物イオンが移動する様子が確認された(図3)。この温度上昇に伴う酸化物イオンの空間分布の広がりは、酸化物イオン拡散係数の増加と対応する。


【今後の展開】
 本研究により、層状ペロブスカイト型コバルト酸化物PrBaCo2O5+δの高い酸化物イオン伝導度の構造的要因を解明するとともに、「価数とサイズが異なる陽イオンの規則配列により酸化物イオンの高速移動経路をつくる」というイオン伝導体をデザインするための新しいコンセプトを示した。今後はこのデザインコンセプトに基づいて、新しいイオン伝導体を開発していく。また、本研究で活用した材料評価技術を応用して、他のイオン伝導体のイオン伝導メカニズムを解明していく。


 論文名:Experimental Visualization of the Diffusional Pathway of Oxide Ions in a Layered Perovskite−type Cobaltite PrBaCo2O5+δ」(層状ペロブスカイト型コバルト酸塩PrBaCo2O5+δにおける酸化物イオン拡散経路の実験による可視化)
 雑誌名:Chemistry of Materials
 著者:Y.−C.Chen,M.Yashima,J.Pena−Martinez(*3)and J.A.Kilner(チェン イーチン(東京工業大学 大学院生)、八島 正知(東京工業大学 教授)、ペーニャ フアン(インペリアル・カレッジ・ロンドン ポスドク研究員(*)、現在マドリード・コンプルテンス大学 助教)、キルナー ジョン(インペリアル・カレッジ・ロンドン 教授))
 *研究を実施した当時の所属と肩書

 *3「J.Pena−Martinez」の正式表記は添付の関連資料「オリジナルリリース」を参照


 ●以下、用語説明・図1〜3と化学記号の正式表記は添付の関連資料「オリジナルリリース」を参照

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