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慶大、大腸癌に対する分子標的治療薬セキシマブの新しい効果予測法を開発

2013-06-25

分子標的治療薬セキシマブの大腸癌に対する新しい効果予測法を開発
―進行・再発大腸癌患者一人ひとりに最適な治療法の実現に期待―


 慶應義塾大学医学部外科学(一般・消化器外科)教室の北川雄光(きたがわ ゆうこう)教授らの研究グループは、切除が不可能な進行・再発大腸癌治療に頻用される分子標的治療薬(がん細胞が増殖するために必要なタンパク質を標的とした抗がん剤)(注1)の一つであるセツキシマブの治療効果の予測に関連する新たな手法を開発しました。
 セツキシマブは、大腸癌細胞の表面に位置する上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor、以下、EGFR)に結合し、EGFRからの細胞増殖・転移に関与するシグナル伝達を阻害して、がん細胞の機能を抑制する分子標的治療薬です。
 本研究グループは、分子標的治療薬であるセツキシマブ自体を一次抗体(注2)として用いてEGFRを検出する方法を新しく開発し、この新しい手法により測定した、大腸癌の細胞膜の表面のEGFR発現量と腫瘍の増殖を抑制する効果の相関を示すことに成功しました。
 本研究の結果をふまえて、臨床検体を用いた検証を重ねることで、セツキシマブ治療群の中でもより感受性(注3)の高い症例の抽出が可能となります。また、薬剤選択に新しい指針を与えることで、進行・再発大腸癌の患者一人ひとりに最適な治療法の実現が期待されます。

 本研究成果は、米国時間6月18日付、日本時間6月19日付、科学誌PLOS ONE オンライン版に掲載されます。


1.研究背景
 切除が不可能な進行・再発大腸癌の化学療法では、従来の細胞毒性(注4)を持った抗がん剤に加えて、細胞内シグナル伝達を制御する分子標的治療薬が、大腸癌患者の生命予後(注5)の延長に重要な役割を担っています。
 分子標的治療薬の一つであるセツキシマブは、上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor、以下、EGFR)を標的として結合し、EGFRの活性化を阻害して効果を発揮します。このセツキシマブは、KRASというタンパクの遺伝子が変異した大腸癌に対しては、十分な治療効果が得られないことが臨床試験の結果から証明されています。そのため、現在はKRAS遺伝子の変異の有無を調べることにより、セツキシマブによる治療効果がまったく見込めない患者への不必要な投与を回避することができます。一方でKRAS遺伝子の変異がなく、セツキシマブにより治療効果が見込まれる場合でも、実際に治療効果が認められる患者は40−60%と報告されています。これを100%に近づけるためには、より高い治療効果が見込める患者を選別する、新たなバイオマーカー(注6)が必要であると考えられています。

 EGFRはセツキシマブの標的分子であるにもかかわらず、現在までの研究から、このEGFR発現量と治療効果に関連がないことが示されています。この矛盾の原因は、従来用いられているEGFRの測定方法では、セツキシマブが作用することのない余計なEGFRも同時に検出してしまうためであると我々は考えました。
 北川雄光教授を中心とする本研究グループは、分子標的治療薬であるセツキシマブそれ自体を一次抗体として用いたフローサイトメトリー法(以下、FCM法)(注7)により、大腸癌の細胞膜表面に存在するEGFR発現量を測定する新しい手法を開発し、セツキシマブが腫瘍の増殖を抑制する効果との相関を検討することに取り組みました。


2.研究手法と成果
 本研究グループは、抗体であるセツキシマブに特殊な加工を施し、FCM法で使用可能とすることにより、セツキシマブ自身が結合することのできるEGFRのみを検出する方法を新しく開発しました(図1)。
 実験対象として、ヒト大腸癌由来の細胞株であるCaco−2、WiDR、SW480、HCT116の4種を選定し、これらから限界希釈法(注8)によりEGFR発現量の異なる複数のサブクローンを作成しました。本研究により開発した新しいEGFR検出法を用いて、作成した各ヒト大腸癌由来の細胞株サブクローンのEGFR発現量を測定することにより、EGFR高発現および低発現を示す細胞株を抽出することに成功しました。
 この手法により得られたEGFR高発現または低発現を示す細胞株をシャーレ上で増殖させて、セツキシマブの治療効果を評価する実験を行いました。また、作成した細胞株を免疫不全マウスに移植し、この移植マウスにセツキシマブを投与することで、治療効果を検証しました。その結果、どちらの実験系においてもEGFR 高発現細胞株は低発現細胞株と比較して、明らかに強い腫瘍の増殖を抑制する効果が観察され、セツキシマブ自身により検出されたEGFR発現量がセツキシマブ感受性と有意に相関することが示されました。


3.今後の展開
 本研究は、初めて大腸癌細胞のEGFR発現量とセツキシマブの効果が相関することを示し、治療効果を予測する新しいバイオマーカーとしての可能性を提示することに成功しました。
 今後は臨床検体を用いた検証を重ねることで、KRAS遺伝子に変異のない大腸癌患者の中から、特に高い治療効果が見込める症例の抽出が可能となり、薬剤選択に指針を与えることで、進行・再発大腸癌患者一人ひとりに最適な治療法の実現が期待されます。


4.特記すべき事項
 本研究は主に以下の事業・研究領域・研究課題によって遂行されました。

 ○文部科学省科学研究費助成事業(科学研究費補助金)(若手研究(B))
  研究課題名:大腸癌細胞膜表面EGFR 検出によるCetuximab 感受性予測法の開発
  研究代表者:茂田浩平
  研究機関:平成23年4月〜平成25年3月


5.論文題名
 “Expression of epidermal growth factor receptor detected by cetuximab indicates its efficacy to inhibit in vitro and in vivo proliferation of colorectal cancer cells”
 PLOS ONE(2013) DOI: 10.1371/journal.pone.0066302
 「セツキシマブを一次抗体として用いて検出された大腸癌細胞のEGFR発現量とin vitro 及び in vivoにおける腫瘍増殖抑制効果の検討」

 著者名:
 茂田 浩平、林田 哲(*)、星野 好則、岡林 剛史、遠藤 高志、石井 良幸、長谷川 博俊、北川 雄光
(*責任著者)


 ※参考図・用語解説は添付の関連資料を参照


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