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ルネサスエレクトロニクス、高速信号の波形劣化を低減する設計技術を開発

2013-06-24

従来比3倍の信号配線密度で12.5Gbps以上の信号伝送を実現するパッケージ設計技術を開発
〜複数の分布定数回路を3次元的に組み合わせることで、高速信号の波形劣化を低減〜


 ルネサス エレクトロニクス株式会社(代表取締役社長:鶴丸 哲哉、以下ルネサス)はこのたび、LSIとそれを実装するプリント基板間のインピーダンス差(いわゆるインピーダンス不整合)により生じる信号波形の悪化を防ぐことを目的として、一般的なBGA(Ball Grid Array)タイプのパッケージ基板内に、複数種類の「分布定数回路」を3次元的に組み合わせることにより、信号伝送速度を向上させつつ、従来比3倍(当社比)の信号配線密度を実現できる設計技術を開発しました。
 新技術は、OIF(注1)が標準化した許容信号反射量規格のマイナス8デシベル以下を達成しているのが特長で、これにより、今後登場するPCI Express version4などの16Gbpsクラスの通信規格や、より高速な25Gbpsクラスのデータ転送が可能となります。
 さらに、信号線を高密度に配線する工夫により100チャンネルといった高速・多チャンネルデータ転送を行うルータやサーバ向けシステムLSIの小型化や、SiP(System in a Package)の様な高密度パッケージへの適用も可能となります。

 ルネサスは新技術を通して、モバイル機器やクラウドサービスの普及により急激に増加するネットワークトラフィックに対処する一方、通信機器の小型化・高密度化に貢献します。また、当社のマイコンが多く採用されているスマートメータ等により構成されるスマートグリッドや、スマートアナログによるセンサネットワークから刻々と取得される膨大なデータ(ビッグデータ)を、より高速に通信し処理することで、来るべきスマート社会の実現に貢献できると考えております。

 インピーダンスとは、LSIおよびプリント基板の構造・寸法、周波数依存性(注2)で決まる電気的特性値です。信号伝送回路において、送り側と受け側のインピーダンスが整合されている時に、受け側が受け取るエネルギー(電気信号)が最大になります。不整合の場合は、信号の反射が発生するため、受け側が受け取るエネルギーが減衰します。特に不整合が大きい場合は、電気信号が配線間で反射を繰り返すという現象が生じ、信号波形が乱れてしまいます。また通信スピードが速くなるに従い、チップパッドの端子容量が原因でインピーダンスが低下し、プリント基板上の配線との不整合の幅が大きくなります。
 そこで従来は、12.5Gbpsクラスのスピードに対応する為に、チップの各入出力チャネルにコイルを1個ずつ付加してインピーダンス整合回路を構成することにより、インピーダンスの差を縮めるといった手法が考えられてきました。しかしこの方法では、チップが大きくなり製造コストが高くなる一方、チップサイズ拡大を防ぐために、微細プロセスでコイルを作ると、静電ノイズ耐性が低下するという課題がありました。
 この課題を解決するために、受動素子をその内部に作り込んだ、特殊なプリント基板を使用する技術も発表されておりますが、製造信頼性やコストの面で実用化レベルにはまだ至らないのが現状であります。
 このような状況のもと当社は、インピーダンス不整合によって生じる信号反射を低減させる技術として、高周波分野で活用される分布定数回路的な設計手法を、2008年に半導体パッケージ設計技術の学会であるECTC(IEEE Electronic Components and Technology Conference)で発表し、高速なデータ伝送を必要とするLSIに応用してまいりました。これは、多層配線基板内に不可避的に存在するインダクタンスや容量などの寄生素子成分を積極的に利用して、電気信号の反射波を相殺することにより、信号波形劣化を最小にする技術です。

 今回開発した新技術は、2008年のECTCで発表した技術を発展させたものであり、複数種類の分布定数回路を密充填と成るように配置することで、信号速度の高速化と高密度化を同時に実現したものです。
 具体的には、12.5Gbpsを超える広い信号帯域を確保するために分布定数回路を多段構成としました。さらに、スルーホールまたはビアで構成された大きさの異なる2種類の分布定数回路を、パッケージ内で層を分けた上で、お互いの隙間を埋める様に配置する事により、密充填構造を実現しました。その上、分布定数回路では、信号の位相差が360度毎に同じ特性を有することを利用して、分布定数回路の分散配置を行い、およそ3倍の信号密度(当社比)と2倍の信号帯域をもつ分布定数回路を得ました。
 これにより、チップ内への回路追加や、パッケージ基板への特殊な追加加工を付加することなく、既存のパッケージ構造上でOIFが標準化したマイナス8デシベル以下という許容信号反射量規格をクリアしました。
 またルネサスは、新技術を用いたパッケージ設計を効率よく行うための設計環境として、ビア、スルーホールおよび配線などを、3次元形状の分布定数部品としてライブラリー化いたしました。パッケージ基板の配線設計を行う場合、これらあらかじめ準備された3次元形状の分布定数部品を活用することにより、従来の電磁界解析を行いながら設計する手法と比較して、1/1000以下の時間で行うことが可能となります。

 ルネサスは、新たに開発した設計技術を12.GGbpsから25Gbpsクラスの基幹ネットワーク向けだけでなく、今後登場するPCI Express version4などの16Gbpsクラスのデータ通信を行う通信規格にも応用可能なものと考えており、積極的に新技術の応用製品の品種拡充を推進する計画です。

 なお、当社は、本成果を本年4月11日から4月13日に大阪で開催されたパッケージ技術に関する国際学会「The 13th International Conference on Electronics Packaging(ICEP 2013)」で発表しました。


以上


 (注1)OIF:Optical Internetworking Forumの略。光伝送技術を使ったデータ通信の相互接続が保証された製品、サービスの発展を促すために光伝送装置内の各種インタフェースの標準規格を制定する団体。
 (注2)周波数依存性:インピーダンスの値は周波数の影響を受ける。例えば、周波数が上がれば容量成分のインピーダンス値は下がり、インダクタンス成分のインピーダンス値は上がる。


*本リリース中の製品名やサービス名は全てそれぞれの所有者に属する商標または登録商標です。

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