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東大、がん細胞の細胞内環境に応答して抗がん剤を放出するインテリジェント型高分子ミセルを開発
「細胞内環境に応答するインテリジェント型高分子ミセル:細胞内薬物ターゲティングによる耐性がん治療」
・発表者:
片岡 一則(東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻/大学院医学系研究科疾患生命工学センター臨床医工学部門 教授)
・発表概要:
東京大学は、がん細胞の細胞内環境に応答して内包した抗がん剤を放出するインテリジェント型高分子ミセル(*1)の開発に成功した。
これは、昨年度より始まった最先端研究開発支援プログラム(*2)「ナノバイオテクノロジーが先導する診断・治療イノベーション(中心研究者:片岡一則教授、東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻/東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター臨床医工学部門)」の一環である。抗がん剤を内包した高分子ミセルは、現在、4種類の製剤が国内外で臨床治験に進んでおり、本邦発のDDS(*3)製剤として実用化が期待されている。これまでに高分子ミセルは、腫瘍血管の透過性の亢進と未発達なリンパ系の構築によって固形がんに選択的に集積することによって、治療効果の向上と副作用の低減がもたらされることが明らかになっている。本成果は、高分子ミセル型DDSの新たな可能性を示すと同時にその実用化を加速するものと期待される。
・発表雑誌:
Science Translational Medicine(オンライン発行1月6日)
[Science Translational Medicineについて:]
Science Translational Medicineは、2009年10月に創刊された米国科学雑誌「Science」の姉妹誌です。Scienceの発行者である非営利団体、米国科学振興協会(AAAS)により発行され、基礎研究の成果を医療現場で積極的に応用することを目指し、人々の健康と生活の質(QOL)の向上をもたらす可能性がある優れた科学に焦点を当てた新しい科学雑誌です。
(Science Translational Medicineのwebsiteより抜粋、改編)
参考URL:Science Translational Medicine (http://stm.sciencemag.org/)
・用語解説:
*1 高分子ミセル
親水性ポリマー(ポリエチレングリコールなど)と疎水性ポリマー(ポリアミノ酸誘導体など)の2つのブロックから成るブロック共重合体。水中では内側に疎水性ポリマー、外側に親水性ポリマーが拡がった2層構造を持つ球状に自己組織化したもの。
*2 最先端研究開発支援プログラム
平成21年度補正予算によって創設された「研究者最優先」の研究支援制度で、3〜5年間、世界のトップを目指した先端的研究を推進し、我が国の中長期的な国際的競争力、底力の強化を図るとともに、研究開発成果の国民及び社会への確かな還元を図ることを目的としている。565人の研究者からの応募がありその中から30人が選ばれた。
*3 DDS
Drug Delivery Systemの略で、薬物送達システムと訳される。薬の効果を上げ副作用を減らすために、ターゲットとなる細胞や組織だけに薬を到達させ、必要量をタイミングよく放出させるシステム。