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理化学研究所、がんの死細胞を食べてがん免疫を活性化する新マクロファージを発見

2011-01-12

がんの死細胞を食べ、がん免疫を活性化する新マクロファージを発見
−効率的にがん免疫を誘導する新しい免疫治療への応用に期待−



◇ポイント◇
 ・新マクロファージは、がんの死細胞を効率よく取り込む
 ・食べたがん細胞の情報をキラー細胞(細胞傷害性T細胞)に伝え免疫機能を発揮
 ・新マクロファージの効率的な活性化が、がん免疫の治療に道


 独立行政法人理化学研究所野依良治理事長)は、がんの死細胞を貪食し、がん免疫を活性化する新しいマクロファージを発見しました。これは、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)自然免疫研究チームの田中正人チームリーダー、浅野謙一研究員らによる研究成果です。

 がん細胞は、体の免疫監視をかいくぐり、免疫系の攻撃を受けずに増殖していきます。しかし、放射線照射などによってがん細胞を殺すと、死んだがん細胞を免疫系が認識し、がんに対する免疫が活性化する場合があることが知られ、この現象を利用した治療法が応用されつつあります。これまで、このがん免疫を誘導する具体的なメカニズムは不明のままでした。

 マクロファージは、死んだ細胞を食べて処理する免疫細胞です。これまでの研究で、マクロファージの役割は、体に侵入した異物や自己の死細胞の掃除だけのようにとらえられていましたが、最近、食べた死細胞を有効活用して、多種多様な免疫反応を制御していることが分かってきました。研究チームは、マウスを用いた実験で、がんの死細胞を食べると、がん免疫を活性化するマクロファージの一種(CD169陽性マクロファージ)を発見しました。このマクロファージは、リンパ節の入り口で待ち構え、リンパ流に乗ってやってきたがんの死細胞を食べてしまう、門番のような働きをします。さらに、この門番のようなマクロファージの一部(CD169陽性CD11c陽性マクロファージ)は、がん細胞を直接攻撃するキラー細胞(細胞傷害性T細胞)に食べたがん細胞の情報を伝え、がん細胞を殺すよう指令を出す、重要な役割を持つことが分かりました。

 今後、このマクロファージを効率的に活性化することによって、がん免疫を誘導する新たな治療につながる可能性があります。

 本研究成果は、米国の科学雑誌『Immunity』(1月27日号)に掲載されます。


1.背景
 がん細胞は、体の免疫監視をかいくぐるさまざまな仕組みを持ち、免疫系に認識されず、攻撃も受けずに増殖していきます。しかし、放射線照射や化学療法などによってがん細胞を殺すと、死んだがん細胞を免疫系が認識し、がんに対する免疫が活性化する場合がある(がん免疫)ことが知られています。このがん免疫では、マクロファージなどの食細胞が、がんの死細胞を取り込み、死細胞に含まれるがん抗原を提示して、リンパ節にいるがん細胞を殺すキラー細胞(細胞傷害性T細胞)を活性化します。最近では、この現象を利用した治療法が応用されつつありますが、がん免疫が誘導される詳細なメカニズムは不明のままでした。

 研究チームは「どのようにして食細胞は死んだがん細胞を認識して取り込むのか」、「どの食細胞がどのようにしてリンパ節にいるキラー細胞にがん抗原の情報を提示し、がん細胞を殺すよう指令を出すのか」の2点に着目しました。

 食細胞ががんの死細胞を認識して取り込む方法には、2つの可能性があると考えました。1つ目は、がん細胞が殺されると、食細胞がその場でがんの死細胞を認識して食べ、リンパ節へ持って行く方法です。この場合、樹状細胞という移動性の食細胞が関わっていると考えられます。樹状細胞は、体に侵入した異物を常に監視し、異物を察知すると食べて取り込み、リンパ節へ移動して免疫応答を誘導する、免疫監視の中心的な役割を担う細胞です。2つ目は、死んだ細胞がリンパ節へ流れていって、リンパ節にいる食細胞が認識し取り込む方法です。この場合、マクロファージという貪食細胞が関わっている可能性があります。マクロファージは、死んだ細胞を食べて処理する免疫細胞です。これまでの研究で、このマクロファージの役割は、体に侵入した異物や自己の死細胞のごみ掃除だけと思われていましたが、最近、いろいろな種類のマクロファージが、多種多様な免疫反応を制御していることが分かってきました。

 研究チームは、この樹状細胞とマクロファージに焦点をあて、がん免疫を誘導する仕組みの解明に取り組みました。


2.研究手法と成果
 まず、がんの死細胞を使って、がん免疫を誘導したマウスを作製しました。具体的には、放射線照射により殺したがんの死細胞をマウスの皮下に注射した後、このマウスに生きたがんを植えて、がんの大きさの変化を調べました。その結果、あらかじめがんの死細胞を投与したマウスは、投与していないマウスに比べ、がんの発育が抑えられている、つまり、がん免疫が誘導されていることが確認できました(図1)。

 このマウスを使って、最初に、移動性の樹状細胞の関与について調べました。皮膚からリンパ節へ移動してくる樹状細胞の数は、がんの死細胞を注射しても変化しませんでした。また、がんの死細胞の断片は、数日かかってリンパ節へ移動してくる樹状細胞よりずっと早く、接種後3時間程度で近くのリンパ節にとどまり始めました。さらに、リンパ節に存在する樹状細胞を解析したところ、がんの死細胞を貪食している樹状細胞は5%程度と非常に少ないことが分かりました。以上の結果から、樹状細胞はがん免疫にあまり関わっていないことが分かりました。

 次に、マクロファージの関与について調べました。リンパ節のマクロファージ(CD169陽性マクロファージ)は、リンパ節の表面付近の、リンパ流が流れ込む場所(リンパ洞)に、わずかに存在しています。しかしその役割は重要で、リンパ節の入り口で異物を待ち構え、リンパ流に乗ってやってきた死細胞を食べてしまう、いわば門番のような働きをしています。がんの死細胞を皮下注射した後、注射部位近くのリンパ節を調べると、CD169陽性マクロファージの27%が、がんの死細胞を取り込んでいました(図2)。

 そこで、CD169陽性マクロファージの役割を確かめるため、誘導的にCD169陽性マクロファージを欠失する遺伝子改変マウス(CD169−DTRマウス)を作製しました。
 CD169−DTRマウスのCD169陽性マクロファージには、ヒトのジフテリア毒素受容体が発現しているため、このマウスにジフテリア毒素を投与すると、CD169陽性マクロファージが一時的に欠失します。このマウスでCD169陽性マクロファージを欠失させると、がんの死細胞を取り込むことができず、がん免疫が誘導されないことが分かりました(図3)。

 さらに、がんの死細胞を取り込んだCD169陽性マクロファージについて、がん抗原を細胞表面に提示しているかどうかを調べました。その結果、CD169陽性マクロファージの一部の細胞(CD169陽性CD11c陽性マクロファージ)が、効率的にがん抗原を提示し、キラー細胞を活性化することが判明しました。

 これらのことから、CD169陽性マクロファージは、がんの死細胞を貪食して抗原提示し、がん免疫を誘導する重要な役割を持つことが分かりました(図4)。


3.今後の期待
 これまで死んだ細胞を掃除するごみ処理係ととらえられていたマクロファージですが、近年、マクロファージにはいろいろな種類があり、多種多様な免疫反応を制御することが分かってきています。今回研究チームは、リンパ洞という、リンパ節の特殊な部位に存在するわずかなマクロファージが、意外にも、がん免疫に重要な役割を果たすことを明らかにしました。

 これまで、がん免疫には樹状細胞が重要ではないかと推測されてきました。がんの死細胞を貪食してがん免疫を誘導する、新たなマクロファージを発見した今回の成果は、がん免疫のメカニズムを明らかにする上で非常に重要です。今後、このマクロファージを効率的に活性化することによって、がん免疫を誘導する新たな治療につながると期待できます。



※以下の資料は添付の関連資料「図1〜4」を参照
 ・図1 がんの死細胞を使ったがん免疫誘導実験の手法と結果
 ・図2 がんの死細胞を食べるマクロファージ
 ・図3 CD169陽性マクロファージによるがん免疫の強化
 ・図4 がん細胞の死とがん免疫


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理化学研究所 ジフテリア 野依良治 リンパ節 放射線 理研

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