イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

東北大、マウス視神経挫滅モデルにおけるNrf2活性剤の神経保護作用を確認

2013-06-10

緑内障の神経保護治療への新しいアプローチ
マウス視神経挫滅モデルにおけるNrf2活性剤の神経保護作用



【概要】
 東北大学大学院医学系研究科の中澤徹教授、丸山和一講師、檜森紀子助教らは、酸化ストレス防御機構において中心的な役割を担う転写因子であるNrf2(NF−E2 related factor2)の網膜神経節細胞死に対する関与、Nrf2活性剤の神経保護作用を明らかにしました。今後、Nrf2は緑内障における新規治療ターゲット分子となる可能性が期待できます。
 本研究結果は、Journal of Neurochemistry(電子版)に5月30日に掲載されました。


【研究内容】
 緑内障(注1)は40歳以上の約5%が罹患し、日本人における失明原因の第一位の疾患である。現在のすべての緑内障治療は眼圧を下降させることを基本としており、それ以外の作用機序による治療法はない。しかし、視野の保持に有用とされる30%の眼圧下降を得ても緑内障の進行が止まらない患者は約20%存在する。また、日本人は諸外国の緑内障患者と病型が異なり、全緑内障患者の約7割は眼圧が正常範囲である正常眼圧緑内障であり、30%の眼圧下降を得ることが難しい患者もいる。したがって、日本人の緑内障治療において眼圧下降のみでは限界があり、眼圧以外の危険因子へ注目し、それに対応した治療が重要となる。
 緑内障の基本病態は「視神経乳頭陥凹(注2)に伴う網膜神経節細胞(注3)死」であることから、神経保護治療に繋がる研究が着目されている。網膜視神経を保護するためには、複雑な網膜神経節細胞死の機序を細胞レベルで解明することが必須である。眼圧以外の因子の中で、網膜神経節細胞死に酸化ストレスが関与すると考えられており、近年、酸化ストレスセンサーとしてKeap1−Nrf2システム(注4)が重要であることが報告された。そこで、本研究では、軸索挫滅(注5)によってNrf2ノックアウトマウス(Nrf2KO)(注6)の緑内障動物モデルを作成し、酸化ストレス防御機構において中心的な役割を担う転写因子であるNrf2(NF−E2 related factor2)の網膜神経節細胞死に対する関与を解析した。
 セルソーター(注7)によって分取した正常時網膜神経節細胞においてNrf2とKeap1のmRNA(注8)が発現していることを確認した(図1)。無処置の神経節細胞密度は2群(野生型とNrf2KO群)で差を認めなかったが、軸索挫滅7日後の神経節細胞密度はNrf2 KO群にて有意に減少した(図2)。また、軸索挫滅1日後網膜においてNrf2の核内移行が認められ、生体防御酵素(NQO1、HO−1、GSTA4、TXNRD)の発現も有意に上昇しNrf2が神経節細胞の保護に関与している事が確認された。さらに、Nrf2活性剤を前投与することで、網膜の生体防御酵素遺伝子(Nqo1、Ho−1、Gclm、Gclc、Gsta4、Txnrd)の発現上昇に成功し、軸索障害7日後の神経節細胞密度はNrf2活性剤投与群において有意な上昇を認めた(図2)。以上の結果より、Nrf2は神経節細胞障害時に抗酸化・解毒酵素の発現増加を誘導し、自己防御における神経保護作用に貢献することが明らかになった。また、本研究によって、Nrf2活性剤の神経保護作用が明らかにされ、今後Nrf2は緑内障における新規治療ターゲット分子となる可能性が期待される。
 本研究成果は、東北大学大学院医学系研究科山本雅之教授と田口恵子助教の協力、東北大学大学院医学系研究科中澤徹教授、丸山和一講師、檜森紀子助教らが文部科学省科学研究費「基盤研究C;研究課題番号23592613」の支援のもと共同研究で行われました。


【用語説明】
 注1.緑内障:古典的な緑内障は眼圧が正常値(10−21mmHg)を超えて視神経を圧迫し、視野が狭くなる疾患だが、正常眼圧緑内障は眼圧が正常範囲であるにも関わらず視神経の委縮が進行し、視野欠損が出現する疾患である。
 注2.視神経乳頭陥凹:視神経乳頭部の結合組織が減少し、くぼみが拡大すること。結果として視神経線維がだんだん委縮し、視野欠損となる。
 注3.網膜神経節細胞:光を感じる網膜から情報を受け取る、視神経を構成する細胞。網膜神経節細胞の長い軸索が束(視神経)になって、脳へ光の情報を伝える。
 注4.Keap1−Nrf2システム:非ストレス環境下ではNrf2活性は最小限に抑制されているが、酸化ストレスに暴露されるとKeap1によるNrf2の結合が減弱し、Nrf2は核に蓄積し生体防御遺伝子の発現は亢進される。
 注5.軸索挫滅:視神経を機械的に圧迫して破壊すること。緑内障の病態モデル。
 注6.Nrf2ノックアウトマウス:Nrf2が欠損しているため、酸化ストレスに対して脆弱なマウス。
 注7.セルソーター:細胞を小さな液滴の中に閉じ込め、それに主にレーザー光を利用した励起光を照射して生じる回折光や蛍光の大きさと波長から、特定の細胞の分布の解析、分取する。
 注8.mRNA:タンパク質に翻訳される塩基配列情報と構造をもったRNAのことであり、通常mRNAと表記される。


【論文題目】
 Critical role of Nrf2 in oxidative stress−induced retinal ganglion cell death
 (邦訳:酸化ストレスに誘導される神経節細胞死におけるNrf2の役割)
 Journal of Neurochemistry


【対象と方法】
 本研究には野生型マウス(WT、12週齢、雄、C57BL6)とNrf2ノックアウトマウス(Nrf2KO)を用い、神経節細胞をセルソーターで純化・回収し、正常時のNrf2とKeap1のmRNA発現を定性PCRにて検討した。また神経節細胞を逆行性染色し、緑内障動物モデルである軸索挫滅7日後の生存神経節細胞密度を計測した。軸索挫滅後、網膜における生体防御酵素群の遺伝子発現変化を解析し、Nrf2の核移行を蛋白レベルにて確認出来るかを検討した。またNrf2活性剤を投与し、軸索障害7日後の生存網膜神経節細胞密度を計測した。


※図1・2は、添付の関連資料を参照

Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版