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理化学研究所など、塗るだけできれいに配列する半導体ポリマーを開発

2013-06-10

塗るだけできれいに配列する半導体ポリマーを開発
−塗布型有機薄膜太陽電池の高性能化に向け大きな一歩−


<ポイント>
 ・高結晶性・高配向性と高溶解性を実現した塗布可能な半導体ポリマーを開発
 ・溶解性を高めるアルキル基を使うと配向性も向上
 ・8.2%のエネルギー変換効率を達成、有機薄膜太陽電池の高効率化に道


<要旨>
 理化学研究所(理研、野依良治理事長)と高輝度光科学研究センター(白川哲久理事長)は、塗布型有機薄膜太陽電池[1]で重要なエネルギー変換効率向上に欠かせない結晶性と配向性、さらに、印刷プロセスへ適用するための高い溶解性を併せ持った半導体ポリマー[2]を開発しました。これは、理研創発物性科学研究センター(十倉好紀センター長)創発分子機能研究グループの尾坂格上級研究員、瀧宮和男グループディレクター、高輝度光科学研究センターの小金澤智之研究員らによる共同研究グループの成果です。

 半導体ポリマーを用いた塗布型有機薄膜太陽電池は、軽量で柔軟、かつ印刷プロセスで作製できるという特徴を持ち、次世代太陽電池として研究開発競争が激化しています。実用化への最大の課題はエネルギー変換効率の向上です。これを実現するには、半導体ポリマーをより密に配列させ(高結晶性)、配列の方向をそろえる(高配向性)必要があります。しかし、塗るだけでポリマーの結晶性と配向性を制御するのは非常に困難なうえ、印刷プロセスで使用するため有機溶媒にポリマーを溶かさなければなりません。しかしポリマーの結晶性と溶解性は、結晶性を高めると溶解性は低下するという二律背反の関係にあり、これを両立できる材料の開発が望まれています。

 共同研究グループは、2012年に開発した技術に基づいて、ナフタレンを基本構造に持つ結晶性の高い半導体ポリマーに、直列に炭素原子が並んだアルキル基を導入して溶解性を高めることに成功しました。さらに、ポリマーの配向性も向上することを見いだし、高い結晶性、溶解性、配向性を実現しました。実際に太陽電池素子のエネルギー変換効率は従来の5%から8.2%に改善し、モデル素子で電荷移動度を評価したところ1桁の向上を確認しました。今後、塗布型有機太陽電池の開発に重要な分子設計指針をもたらし、エネルギー変換の高効率化に貢献すると期待できます。

 本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の一環として行われ、研究成果は米国の化学会誌『Journal of the American Chemical Society』オンライン版に近日掲載されます。


<背景>
 半導体ポリマーを用いた塗布型有機薄膜太陽電池は、軽量で柔軟という特徴を持ち、さらに、印刷という安価なプロセスで大量に作製できることから、次世代の太陽電池として注目されています。実用化に向けては、エネルギー変換効率の向上が重要な課題で、吸収した光エネルギーを効率よく電荷に変換し、発生した電荷を効率よく輸送することが求められています。それには、半導体ポリマーの結晶性と配向性の向上が必要です。

 塗布型有機薄膜太陽電池では、通常、正孔を流す半導体ポリマーと電子を流すフラーレン誘導体を有機溶媒に溶かして混合し、この溶液を塗布して発電層となる膜を作ります。ポリマーとフラーレンという異物が混在した状態では、ポリマーの結晶を成長させることが困難です。ポリマーの結晶性を向上させるためには、ポリマー同士が強い相互作用を持つ必要があります。2012年に尾坂、瀧宮らの研究チームは、2個のベンゼン環からなるナフタレンを基本構造に持つナフトジチオフェンとナフトビスチアジアゾールを組み合わせた半導体ポリマー(図1左:ポリマー1)を開発しました。ポリマー1は分子同士の相互作用が非常に強く、フラーレンと混合しても結晶を形成します。しかし、高結晶性のため溶解性が低くなり、印刷プロセスを適用しにくいという課題がありました。


<研究手法と成果>
 共同研究グループはポリマー1の溶解性を改善するために、尾坂、瀧宮らの研究チームが開発した置換基導入手法を用いて、ポリマー1のナフトジチオフェンに炭素12個が直列に並んだアルキル基を2本導入しました(図1右:ポリマー2)。合成したポリマー2は溶媒への溶解性が格段に改善し、印刷プロセスへの適性も格段に向上しました。また、大型放射光施設SPring−8[3]でX線回折測定を行ったところ、ポリマー2はポリマー1と同様の結晶性を保つだけでなく、アルキル基を導入しただけで、ポリマーの配向が基板と垂直な方向を向いた「エッジオン(edge−on)」から、基板と平行な方向の「フェイスオン(face−on)」へと変化することも分かりました(図1下)。フェイスオンでは、電流が流れる方向とポリマーの向きがそろっているため、塗布型有機薄膜太陽電池で効率的な電荷輸送を行うための理想的な配向状態といえます。

 実際に、ポリマー2を用いた塗布型有機薄膜太陽電池を作製し評価したところ、電流密度は上昇し(図2a)、ポリマー1では5%程度であったエネルギー変換効率は8.2%と著しく向上することが分かりました。さらに、太陽電池材料の性能評価として広く使用されるモデル素子でも評価したところ、同様にポリマー2の電流密度は上昇(図2b)、電荷移動度はポリマー1に比べて1桁高い値を示すことも確認しました。つまり、フェイスオン状態による電荷輸送性の向上が、変換効率改善の大きな要因であると分かりました。


<今後の期待>
 今回、塗るだけで理想的な結晶・配向状態を実現し、良好な電気特性を示す半導体ポリマーを開発しました。今後、塗布型有機薄膜太陽電池により適した基本構造を持つ半導体ポリマーを開発し、そこにアルキル基を導入して最適化できると、大幅なエネルギー変換効率の向上が期待できます。また、このような分子の結晶・配向状態を制御するための分子設計・合成技術はさまざまな新機能発現につながり、デバイスに展開可能な新たな有機材料の開発にも貢献すると期待できます。

 本研究はJST戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「太陽光と光電変換機能」研究領域(研究総括:早瀬修二九州工業大学大学院生命体工学研究科教授)における研究課題「高効率有機薄膜太陽電池を目指した新規半導体ポリマーの開発」(研究者:尾坂格)の一環として行われました。


<原論文情報>
 ・Itaru Osaka,Takeshi Kakara,Noriko Takemura,Tomoyuki Koganezawa,Kazuo Takimiya."Naphthodithiophene-Naphthobisthiadiazole Copolymers for Solar Cells:Alkylation Drives Polymer Backbone Flat and Promotes Efficiency".Journal of the American Chemical Society,2013,doi:10.1021/ja404064m


<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 創発物性科学研究センター 超分子機能化学部門 創発分子機能研究グループ
 グループディレクター 瀧宮 和男(たきみや かずお)
 上級研究員 尾坂 格(おさか いたる)


 ※補足説明、図1、図2は添付の関連資料を参照

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