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富士通研究所、小型・高出力なミリ波帯送受信モジュール技術を開発

2013-06-10

窒化ガリウムHEMTを用いた小型・高出力なミリ波帯送受信モジュール技術を開発
複数チップを1つのパッケージに統合し、レーダー機器や無線通信機器の小型化に貢献


 株式会社富士通研究所(注1)は、窒化ガリウム(GaN)(注2)高電子移動度トランジスタ(HEMT)(注3)を用いて、ミリ波帯(注4)まで適用可能な、10ワット(以下、W)出力の送受信モジュール技術を開発しました。

 従来、ミリ波帯に対応した高出力のモジュールを実現するには、発熱を逃がすために部品ごとにパッケージ化してモジュールを構成する必要があるため小型化が難しく、また、高周波化に伴いモジュール内の端子接続部での損失が増大するため、ミリ波帯まで対応することが困難でした。

 今回、発熱を効率よく逃がすヒートシンクを埋め込んだ多層セラミックス技術を用い、モジュール内の端子接続部の損失を低減する独自構造によりミリ波帯まで適用可能な高出力の送受信モジュールを実現しました。また、送受信モジュールの大きさを12mm×36mm×3.3mmと従来のパッケージを組み合わせた場合に比べ1/20以下に小型化しました。

 本技術により、複数のチップを1つのパッケージに統合できるようになり、レーダー機器や無線通信機器の小型化に貢献します。


 本技術の詳細は、6月2日から米国シアトルで開催されるマイクロ波の国際学会「IEEE MTT 2013 International Microwave Symposium(IMS2013)」にて発表します。


<窒化ガリウム(GaN)高電子移動度トランジスタ(HEMT)とは>
 GaNは、青色LEDとして信号機に使われており、シリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)といった従来の半導体材料と比較して、電子の移動速度が高速で、かつ、電圧による破壊に強いという特長を持っています。このため、GaNを用いたトランジスタであるGaN−HEMTは、高出力で高効率の動作が期待されています。


<開発の背景>
 ネットワーク社会の進展に伴い、様々な無線システムの電波需要はさらに増加することが見込まれます。例えば、スマートフォンをはじめとする無線通信では割り当て周波数が逼迫しており、ミリ波帯を用いた大容量化が検討されています。また、レーダーでは、周波数が高いほど物体を精密に測定できます。航空機では10ギガヘルツ(以下、GHz)帯を利用していますが、さらなる高周波化が進むと考えられます。

 現在のミリ波帯高出力送受信モジュールは、送信部、受信部ごとにパッケージ化された部品で構成されています。送受信機能を1つのパッケージで実現できれば、機器を小型化できます。


〔図1 ミリ波帯の利用シーン〕

 ※添付の関連資料を参照


<課題>
 ミリ波帯通信やレーダーを実現するために必須となる送受信モジュールには、ミリ波帯まで動作する広帯域特性と、広いエリアをカバーするための高出力特性が求められています。10Wクラスの高出力の送受信モジュールを実現するためには、高出力であればあるほど発熱する送受信モジュールの放熱性を向上することが重要です。

 また、送受信モジュールでは高い周波数において信号を伝送する配線とチップとの接続部分で損失が大きくなるため、接続部分の損失を低減することも必要となります。


<開発した技術>
 今回、GaN−HEMTを用いて、ミリ波帯において、高出力で小型の送受信モジュールを実現しました(図3)。

 開発した技術の特長は以下の通りです。

 1.ヒートシンクによる放熱性の向上
   高出力化に伴う発熱を効率よく逃がすヒートシンク埋め込み構造を開発し、多層セラミックス基板の送受信モジュール内に作り込みました。これにより、放熱性が従来に比べ5倍に向上し、10Wクラスの出力を扱うことが可能となりました。

 2.信号入出力接続部の損失低減
   ヒートシンク部の高周波での損失を低減する広帯域接続構造を考案しました。この接続構造は、モジュール内を伝わる高周波の信号を、従来に比べ2倍の周波数40GHzまで伝送可能です。

 今回開発した技術により、ミリ波帯に対応した送受信モジュールの大きさを12mm×36mm×3.3mmに小型化し、従来のパッケージを組み合わせた場合に比べ1/20以下に小型化しました。


〔図2 ミリ波帯GaN送受信モジュールの構成〕

 ※添付の関連資料を参照


〔図3 ミリ波帯GaN送受信モジュール写真と断面模式図〕

 ※添付の関連資料を参照


<効果>
 本技術を用いることで、単一のパッケージで高出力な送受信機能を実現することが可能となり、広帯域通信やレーダーなどの機器の性能向上と小型・軽量化が可能となります。


<今後>
 本技術を、広帯域にわたって高出力で小型化が要求される無線機器やレーダーなどに幅広く適用する予定です。


<商標について>
 記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。


以上


「注釈」
 注1 株式会社富士通研究所:
     代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市。

 注2 窒化ガリウム(GaN):
     ワイドバンドギャップ半導体で、シリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)など従来の半導体材料に比べ、電圧による破壊に強いという特長あり。

 注3 高電子移動度トランジスタ(HEMT):
     High Electron Mobility Transistor。バンドギャップの異なる半導体の接合部にある電子が、通常の半導体内に比べて高速で移動することを利用した電界効果型トランジスタ。1980年に富士通が世界に先駆けて開発し、現在、衛星放送用受信機や携帯電話機、GPSを利用したナビゲーションシステム、広帯域無線アクセスシステムなど、IT社会を支える基盤技術として広く利用。

 注4 ミリ波帯:
     30GHzから300GHzの周波数帯の総称。大容量無線通信や自動車レーダーなどに利用。

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