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東大、新旧バージョンのOpenFlowが共存できるプラットフォームを開発

2013-06-10

新旧バージョンのOpenFlowが共存できるプラットフォームを開発
〜ネットワーク仮想化技術を使ってOpenFlow1.3と1.0のスイッチロジックを共存〜


 国立大学法人東京大学大学院情報学環(以下、東大情報学環)中尾 彰宏 准教授らの研究グループは、ネットワークの制御をソフトウェアプログラムにより行うSDN(Software Defined Networking)技術(*1)と共にSDNのプログラム性を更に拡張するDPN(Deeply Programmable Networking)技術の研究を進めてきました。SDN技術は、従来のネットワーク制御技術に比べ、固定的であった通信制御をプログラミング可能とすることで自動化による制御コスト削減が可能である点で優れているため、世界的に期待が高まっています。DPN技術は、SDNを拡張し、データプレーン機能を改変可能とするプログラム性を備えるための技術です。

 同研究グループは、メニーコアプロセッサ(*2)上に仮想化技術(*3)を適用することにより、ソフトウェアで構成した複数のネットワークスイッチングロジック(*4)を独立に共存させつつ、状況に応じてネットワークの機能を再構成可能な柔軟性と、高速処理性能を確保する技術の開発を行いました。今回、この技術を適用して、現在多くのベンダーが対応しているOpenFlow(*5) 1.0の仕様と対応ベンダーの少ない最新のOpenFlow1.3の仕様をソフトウェアにより同時に動作するスイッチを実現しました。

 この技術を利用することにより、OpenFlowだけではなく、任意の複数のSDNロジックが機能するネットワークを構築することが可能になり、ハードウェアの変更なしに最新仕様のSDNへの移行をシームレスに行うことができるようになります。また、スイッチロジックの移行期にありがちなトラブルに対し発生時に即座に従来仕様への切り戻しも対応可能になります。

 なお、2013年5月27日から31日にかけてベルギー・ゲントにて行われた国際会議IM2013の基調講演にて本技術の紹介を行い、2013年5月30日と31日、KDDI大手町ビルで開催された国際会議iPOP2013にて、OpenFlow1.0とOpenFlow1.3の同時実行により本技術の成果の展示を行いました。また、6月4日国連下部組織ITU−Tにおいて本技術を含むDPN技術の標準化に向けた講演発表を行います。


【背景】
 ネットワークの制御をソフトウェアプログラムにより行うSDN(Software Defined Networking)技術は、従来のネットワーク制御技術に比べて制御コストを下げる可能性があるため世界的に期待が高まってきています。従来のネットワークスイッチのコントロールプレーン(*6)をオープン化しソフトウェアでネットワーク制御するSDNを実現するプロトコルの代表格であるOpenFlowは多くのネットワーク機器ベンダーが競ってOpenFlow装置開発を行っています。OpenFlowの最初の仕様は、スタンフォード大学で開発されましたが、現在はネットワーク機器ベンダーの集まりであるONF(Open Network Foundation)がOpenFlow仕様の策定を行っています。最新の仕様は昨年2012年5月に策定されたOpenFlow1.3で、最近になって仕様に対応する装置の発表が行われています。しかし、現在、導入されているOpenFlow装置は1.0仕様のものがいまだに多数を占めています。SDNに急速展開する上で、ネットワーク装置も最新仕様に随時適応していくことが重要です。それには、従来ハードウェアに頼っていたスイッチロジック部分もソフトウェア改変できることが望ましいと考えられます。今後、OpenFlow以外のSDNプロトコルの開発が進むことが予想されますが、そのような要求にも適応可能な、最新仕様のスイッチロジックを迅速に開発し、共存するためのプラットフォームが必要とされています。


【今回の成果】
 東大情報学環では、スイッチロジック(データプレーン(*6)機能)もプログラム可能で、かつ従来のハードウェア処理に劣らない性能が得られるメニーコアプロセッサを使用し、さらにネットワーク仮想化技術を適用し複数のスイッチロジックが平行して動作するプラットフォーム FLARE(*7)を開発してきました。従来のSDN技術がOpenFlowを中心としたスイッチロジックをAPI(*8)を通じてプログラムするという主にコントロールプレーンのプログラム性だけを対象としていたのに対し、FLAREでは、SDNを拡張し、データプレーン機能を改変可能とするプログラム性を備え、更に複数の独立なプログラム環境を提供可能なDPN技術を提唱しています。今回、同プラットフォームを使用しOpenFlow1.0のスイッチロジックとOpenFlow1.3のスイッチロジックを共存して動作させることに成功しました。
 この結果、同じネットワーク基盤上にOpenFlow1.0と1.3を同時にサポートするネットワークを構築することが可能になり、従来のサービスを継続しながら新しいサービスも提供できることが可能になりました。すなわち持続的にネットワークを発展することができるようになりました。とくに従来サービスから新サービスへの移行期に発生するトラブルに対し、このような共存環境では、従来技術への切り戻しができるという点が大きな特徴になります。
 加えて、開発プラットフォームのスイッチロジックは、ソフトウェア改変可能であるため、最新仕様の導入が短期間で行うことができます。次に新しい仕様が策定されたとき、ハードウェア実装の開発がスキップできるため実ネットワークへの導入時期を早めることが可能になります。


【今後の展望】
 SDNはネットワーク機器のコントロールプレーンのオープン化とソフトウェア改変により、柔軟なネットワーク構築と制御が可能になった点が挙げられますが、従来固定的であったハードウェアベースのスイッチロジックがプログラミング可能となったことと、同一プラットフォーム上で複数スイッチロジックが共存させることが可能になった点から、さらに一歩進んだSDNを構築できると考えています。


<用語解説>
 *1 SDN(Software Defined Networking)
  ネットワーク機器における通信制御の仕組みを、従来のように機器内に一体化した形で実現するのではなく、機器の外部からソフトウェアにより通信制御をプログラムすることを可能にする技術。SDNは、従来固定的であった通信制御をオープンにしプログラミング可能とすることにより、個々のサービスに合わせた独自のネットワーク制御や、あるいは全く新しいネットワーク制御を実現できる手法として注目されている。

 *2 メニーコアプロセッサ
  計算処理を計算クロック周波数を上げないで、多数のCPUを1チップの集積し並列処理により計算能力を向上させるアーキテクチャを実装した演算処理回路。

 *3 ネットワーク仮想化(技術)
  仮想化技術等を用いてネットワークを構成するルータやサーバ等のハードウェアのCPU処理能力や記憶容量等の物理資源を論理的に分割し、これらの資源を任意に組み合わせることで、独立で自由に通信プロトコルを書き換え可能な論理ネットワークを複数共存させる技術。

 *4 スイッチングロジック
  定義されたパケットのフレームフォーマットにしたがってパケット切替を行う手順。ネットワーク機器に実装し、コントロールプレーンからの制御により定義した切替動作を実現する。

 *5 OpenFlow
  Open Networking Foundation(ONF)により業界標準化仕様策定が進められているSDN技術の1つで、多くの対応製品がリリースされている。OpenFlowにおける通信制御は、外部コントローラからフローエントリと呼ばれる情報をスイッチに対して送り、スイッチはその情報に基づいてパケット処理を行う。フローエントリには、制御対象となるパケットを特定するための情報(パケットの受信物理ポート情報とパケットヘッダ情報)とパケットに対する処理の内容(ヘッダ書き換えや特定物理ポートからの送信など)が記述される。

 *6 データプレーンとコントロールプレーン
  ネットワーク機器は、機器を流れるデータパケットをスイッチングする機能と、パケット内容に応じてスイッチング先の物理ポートを選択制御する機能に分けることができ、前者をデータプレーン、後者をコントロールプレーンと呼ぶ。

 *7 FLARE
  東京大学で開発したネットワーク仮想化ノードアーキテクチャ。高速処理を行うメニーコアネットワークプロセッサと高機能処理を行う汎用プロセッサを組み合わせたハードウェア上にネットワーク仮想化技術を適用することで、それぞれを論理的に分割し、独立にスイッチロジックをプログラムすることができる。http://netseminar.stanford.edu/10_18_12.html

 *8 API(Application Programming Interface)
  一般には、基本ソフトやアプリケーションソフトが自ら持つ機能の一部を外部のアプリケーション・ソフトから簡単に利用できるようにする機能の呼び出し手順を定めた仕様あるいは命令や関数の集合を指す。ここでは、ネットワーク機器の各種機能を外部からソフトウェア制御するために用意された規約を意味する。APIが提供されている機能は独自に開発する必要がないため、プログラム開発の効率化が図れる。


 ※補足資料は添付の関連資料を参照

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