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理化学研究所、環状mRNAを用いたエンドレスなタンパク質合成に成功

2013-05-28

環状mRNAを用いてエンドレスなタンパク質合成に成功
−ローリングサークルタンパク質合成手法を開発−

<ポイント>
 ・終止コドンの無い環状mRNAを考案、リボゾームが永久的にタンパク質合成
 ・タンパク質合成効率は、直鎖状mRNAに比べて200倍アップ
 ・新しい長鎖タンパク質合成法として期待

<要旨>
 理化学研究所(野依良治理事長)は、大腸菌が通常持っているタンパク質合成過程において、タンパク質合成終了の目印となる終止コドン[1]を除いた環状のメッセンジャーRNA(mRNA)[2]を鋳型に用いてエンドレスにタンパク質合成反応を起こすことに成功しました。通常の直鎖状RNAを鋳型とするタンパク質合成反応に比べ、反応の効率は200倍に増大しました。これは、理研伊藤ナノ医工学研究室 阿部洋専任研究員、阿部奈保子技術員、伊藤嘉浩主任研究員、佐甲細胞情報研究室 廣島通夫研究員(理研生命システム研究センター 上級研究員)、佐甲靖志主任研究員、北海道大学薬学部 丸山豪斗大学院生(ジュニアリサーチアソシエイト)、松田彰教授らによる研究グループの成果です。

 大腸菌のタンパク質合成反応は、通常直鎖状のmRNAを鋳型として起きます。まず、リボソーム[3]がmRNAの先頭に結合し、開始コドン[1]からタンパク質合成が始まります。そして、終止コドンに到達してタンパク質合成が終わります。リボソームが終止コドンに達すると、リボソームはmRNAから離れ、次の新しい反応サイクルに向かうため同じあるいは別のmRNAの先頭に再び結合します。このリボソームの解離から次の結合までのサイクルがタンパク質合成において最も時間のかかる過程です。

 研究グループは、高効率に目的のタンパク質を合成する手法を開発するために、この最も時間のかかる過程に注目しました。もし、終止コドンを除いた環状mRNAで合成ができれば、リボソームがいったん結合するとエンドレスで合成可能になります。今回、実際に終止コドンを除いた環状mRNAを作製して、大腸菌がもつタンパク質合成過程を用いて評価しました。その結果、直鎖状mRNAと比較して、環状mRNAを用いたタンパク質合成反応は単位時間当たり200倍ほど高効率で進行することを確認しました。本手法は、長鎖タンパク質コラーゲンやシルクなどを人工合成する手法として多様な応用が期待できます。

 本研究成果は、ドイツの化学会誌『Angewandte Chemie International Edition』に近くオンライン掲載されます。


<背景>
 生物の体を構成しているタンパク質は、細胞核内にあるDNAの一部の遺伝情報をもとに合成されています。その合成過程は、DNAがmRNAに変換され、続いてmRNAの一部の配列がアミノ酸に変換されて複数のアミノ酸が連なって1つのタンパク質が完成します。mRNAからタンパク質を合成する時には、リボゾームと呼ばれる複合体が働き、mRNAの連続した3つの塩基を1つのアミノ酸に置き換えます。この連続した3つの塩基をコドンと呼び、合成を開始するコドンを「開始コドン」、終了を「終止コドン」と呼びます。

 分子生物学的研究において、DNAはPCR技術[4]で細胞外でも簡単に合成できます。しかし、タンパク質を人工的に合成することは技術的に制限があるため、どんなタンパク質でも簡便にかつ多量に合成できる手法の開発が望まれていました。

 近年、細胞核を持たない原始的な原核生物でのタンパク質合成過程の研究が進み、合成に関わるさまざまな因子の役割が解明されました。その結果、試験管内で合成に関わる酵素を入れて効率的にタンパク質合成する「無細胞系」と呼ばれる手法が確立しています(注1)。

 原核生物の1つである大腸菌がもつタンパク質合成過程では、直鎖状のmRNAを鋳型として合成が行われます。大まかに(1)開始、(2)伸長、(3)終止の過程があります(図1)。まず、リボソームが直鎖状のmRNAの先頭に存在するシャイン・ダルガノ配列(SD配列)[5]に結合し、開始コドンからタンパク質合成を開始します。その後、アミノ酸が連なってできるタンパク質の伸長反応が起こり、リボソームが終止コドンに到達し、mRNAから解離します。タンパク質合成では、この一連の過程が繰り返されます。タンパク質を多量に生産するためには、リボソームがmRNA上で端から端まで結合と解離を繰り返す必要がありますが、反応過程において、この解離から次の結合までが最も遅い過程(律速段階)になります。もし、この過程をスキップできればタンパク質合成の効率が飛躍的に増大することが予想されていました。

 注1)Shimizu Y, Inoue A, Tomari Y, Suzuki T, Yokogawa T, Nishikawa K, Ueda T. Nature Biotech. 2001, 751


<研究手法と成果>
 研究グループは、大腸菌の直鎖状mRNA鋳型上から終止コドンを除き、開始コドンを残した環状RNAを考案しました(図2)。この環状mRNAを用いてタンパク質合成反応を行った場合、リボソームが一度環状mRNAに結合してタンパク質合成を開始すると、終止コドンがないので原理的にはエンドレスにタンパク質合成を続けることになります。また、直鎖状mRNAを鋳型としたタンパク質合成と比較して、リボソームが解離して結合するまでの律速段階がないので、効率よくタンパク質合成ができます。

 そこで、大腸菌の中からタンパク質合成過程を取り出した無細胞系タンパク質合成システムを使って、以下のような手法で実際に環状mRNAや直鎖状mRNAのタンパク質合成の効率を評価しました。まず、mRNAの先頭に開始コドンを有し、8つのアミノ酸から構成されるFLAGタンパク質[6]を繰り返しコードし、終止コドンが存在しないmRNA配列を設計しました(図3)。次に、FLAGタンパク質の繰り返し数を変えることで、塩基配列の長さが84塩基、126塩基、168塩基、252塩基の、それぞれ直鎖状と環状のmRNAを作製しました(図4)。これらを用いてタンパク質合成反応を行い、ポリアクリルアミドゲル電気泳動[7]で解析しました(図5A)。直鎖状mRNAでは、それぞれの長さに応じて少量のペプチド断片が観察されました。それに対し、環状mRNAを用いた場合、84塩基では環のサイズが小さすぎて長鎖のペプチドは観測されませんでした。一方、126塩基、168塩基では長鎖でかつ大量のペプチドが観測され、FLAGタンパク質が連続的に合成され連なっていることが推測できます。ただ、252塩基では若干ペプチドの量が減少しました。これはmRNAの高次構造による影響であると示唆されます。続いて、終止コドンありと終止コドンなしの126塩基の環状mRNAを用いてタンパク質合成反応を解析しました(図5B)。その結果、終止コドンありの環状mRNAは短いペプチド断片を産出するのに対して、終止コドンがない環状mRNAは長鎖のタンパク質を大量に産出しました。


<今後の期待>
 mRNA配列から終止コドンを除き、3の倍数の塩基数を有する環状mRNAを作ると、高効率で長鎖のタンパク質を合成できることが明らかになりました。本手法を用いて特定のタンパク質を大量調製することが期待できます。例えば、長鎖のタンパク質であるコラーゲンや、シルク、クモの糸などの人工合成に応用できる可能性があります。また、リピートタンパク質を作って切断することで単量体タンパク質を効率よく作ることができるようになります。今後、さまざまなタンパク質材料合成への応用が期待できます。


<原論文情報>
 ・Naoko Abe, Michio Hiroshima, Hideto Maruyama, Yuko Nakashima, Yukiko Nakano, Akira Matsuda, Yasushi Sako, Yoshihiro Ito,* and Hiroshi Abe*“Rolling circle amplification in a prokaryotic translation system using small circular RNA”. Angewandte Chemie International Edition, 2013


<発表者>
 独立行政法人理化学研究所
 主任研究員研究室 伊藤ナノ医工学研究室
 専任研究員 阿部 洋(あべ ひろし)


※補足説明・図1〜5は、添付の関連資料を参照

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