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産総研と住友化学、夏季と冬季で太陽光を自動調節する省エネ調光シートを開発
夏季と冬季で太陽光を自動調節する省エネ調光シート
−透明にもかかわらず夏季は直射日光を大幅にカット−
■ポイント■
・太陽光の入射角の違いを利用して、自動で夏季は太陽光を遮り、冬季には透過させる。
・外部の景色に対しては常に透明で、外の景色をクリアに見ることができる。
・窓ガラスに貼るだけで自動調光作用が得られ冷暖房負荷軽減による省エネが期待される。
■概要■
独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)と住友化学株式会社【社長 十倉 雅和】(以下「住友化学」という)は、新しい自動調光型省エネシートを開発した。これは、産総研サステナブルマテリアル研究部門【研究部門長 中村 守】環境応答機能薄膜研究グループの吉村 和記 研究グループ長と住友化学基礎化学品研究所【所長 竹内 美明】を中心とする研究グループの成果である。
この調光シートは、夏季と冬季で太陽光の入射角が変化することを利用して、全反射現象によって夏は太陽光を遮蔽し、冬は透過させる。他の調光シートと異なり、外部の景色は常に見えるにもかかわらず、直達日射(※)の透過を制御できる。また、調光シート自身は何も変化しないにもかかわらず、季節によって自動的に調光できるという特徴を持っている。既存の窓にこのシートを貼るだけで調光ができるため、効率よく製造できれば、冷暖房負荷を大きく低減することのできる省エネシートとして期待される。
なお、この調光シートは、2013年5月22日〜24日にパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催される「自動車技術展:人とくるまのテクノロジー展2013」住友化学ブースで展示される。
※は【用語の説明】参照
自動調光シートの構造と機能
*添付の関連資料を参照
■開発の社会的背景■
産総研では、家庭や職場でのエネルギー利用による二酸化炭素(CO2)の排出量削減に役立つ材料として、「省資源型環境改善建築部材の開発」に取り組んでいる。家庭や職場でのエネルギー消費の中で、冷暖房の占める割合は約30%に達するが、その冷暖房によるエネルギー消費量に大きな影響を与える部材が窓である。窓の目的は光を取り入れることにあるが、通常の窓ガラスでは可視光以外に熱も透過させるので建物の断熱性を低下させる要因となっている。そのため、窓の断熱性を高めるだけでも大きな省エネルギー効果があり、最近では、断熱性の高い複層ガラスやLow−Eガラス(エコガラス)の普及が進んできている。断熱に加え、日射を効果的に遮ることでさらに省エネルギー効果を高めるために、ガラスそのものが光や熱の出入りを制御するのが調光ガラスである。
夏季には、日射をできるだけ遮る方が冷房負荷を下げることができるが、一方、窓としては外の景色からくる光は透過させたいという、相反する条件を満足することが求められる。そのため、可視光は通すが近赤外光は反射する低放射率ガラスや、遮蔽状態と透過状態をスイッチングできるエレクトロクロミック窓などが、省エネルギー用の調光ガラスとして実用化されている。
一方、太陽光の窓への入射角は季節によって変化し、夏季には、大きな入射角で入射する。大きな入射角の光だけを遮ることができれば、景色からくる光は取り入れつつ直達日射を遮蔽することが可能になると思われるが、そのような調光を行うガラスやシートはこれまで実現していなかった。
■研究の経緯■
産総研では、透明体の界面での全反射現象を用いることで、太陽光の入射角の違いで調光できるガラスが実現できると考え、太陽光の反射・透過を解析する専用のレイトレーシングプログラムを開発して構造の最適化を行い、景色からくる光はできるだけ透過させつつ、夏季の直達日射をできるだけ遮ることのできる調光シートの構造を見いだした。
この構造を持った調光シートを実用化するには、実際の透明シートをどのように加工するかが問題になるため、その加工技術について強みを持つ住友化学で開発を行い、プロトタイプの全反射調光シートの作製に成功した。
*以下、「研究の内容、用語の説明」などリリースの詳細は添付の関連資料を参照