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東大と島津製作所、質量分析計を用いた冠動脈狭窄症の血液検査法を開発

2013-05-22

新開発 冠動脈狭窄症の血液検査法
−質量分析技術を用いた新しいバイオマーカー開発−


 動脈硬化などにより狭くなった冠動脈(注1)をカテーテルで治療した後に、その治療部位が完治したかどうか確認する手段は心臓カテーテル検査(注2)が標準となっていますが、この検査は身体への負担が大きく、費用も高額です。そのため、心臓カテーテル検査に代わる簡易な検査法が求められていました。
 このたび、東京大学医学部附属病院 循環器内科・ユビキタス予防医学講座 特任准教授 鈴木亨、東京大学大学院医学系研究科 循環器内科学教室 前教授 永井良三、教授 小室一成は、株式会社 島津製作所 基盤技術研究所 主任研究員 藤本宏隆と共同で、質量分析計(注3)を用いて新しい血液検査法を開発しました。これにより、冠動脈カテーテル治療後の再狭窄の診断において、心臓カテーテル検査を受ける必要があるかどうかを簡単に検出することができるようになり、身体への負担を軽減できる新しい検査方法となることが期待されます。本研究開発の成果は、クリニカル・ケミストリー(Clinical Chemistry)電子版にて5月13日(米国東部夏時間)に発表されました。今後、当院ではこの診断法の実用化を目指します。
 なお、本成果は、厚生労働科学研究費、科学研究費(文部科学省)、最先端研究開発支援(FIRST)プログラム(日本学術振興会)、イノベーションシステム整備事業(先端融合領域イノベーション創出拠点形成)プログラム(文部科学省)の支援を受けて行われました。


【発表者】
 東京大学医学部附属病院 循環器内科・ユビキタス予防医学講座
  特任准教授 鈴木亨
 株式会社島津製作所 基盤技術研究所 ライフサイエンス研究所
  主任研究員 藤本宏隆


【研究の背景】
 狭心症の原因となる冠動脈狭窄の治療にはステント(注4)やバルーン(注5)を用いた心臓カテーテル治療(注6)が行われます。しかし、治療後約半年が経過した時点で約1割〜3割程度、治療部位が再度狭窄を生じることが問題となっています。これは「再狭窄」とよばれています。そのため、日本では、カテーテル治療後約半年経過時に、通常、再狭窄が生じていないかどうかを確認するためにカテーテル検査が行われています。この検査は狭窄を生じている患者さんにとっては必要な検査ですが、造影剤を使用したり、太い注射針を血管に刺したりするため身体への負担が大きく、放射線被曝の問題もあり、さらに費用も高額であることからも、あらかじめカテーテル検査を受ける必要があるかどうかを簡単にスクリーニングすることが可能な血液検査が求められていました。
 当院 循環器内科・ユビキタス予防医学講座 特任准教授 鈴木亨および株式会社島津製作所 基盤技術研究所 ライフサイエンス研究所 主任研究員 藤本宏隆は2006年より、質量分析計を用いて、上記を診断することが可能なバイオマーカーの新規診断法開発の共同研究を行ってきました。
 なお、世界の体外診断薬市場は2012年に524億米ドル規模に達し、今後も年平均成長率7%が見込まれています。また、日本における2011年の市場規模は7,711億円規模であると報告されています。


【研究の内容】
 すでに一般臨床現場で心不全のバイオマーカー(注7)として利用されているB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)(注8)が、冠動脈の狭窄の診断にも応用可能かどうかはこれまで明らかではありませんでした。また、このペプチドは32個のアミノ酸がつながってできたペプチドですが、実際の血液中では32個のアミノ酸がつながった形態以外の形状で存在しているらしいことも近年世界中で報告されてきました。
 研究チームはまず、MALDI−TOF型質量分析計(注9)を用いて、患者さんの血液中のBNPの形状を調べ、実際に4種類の形状からなるBNPが存在していることを示しました。これらは本来のBNPが持つアミノ酸32個からなるもの以外に、端から2つのアミノ酸がとれた断片、3つのアミノ酸がとれた断片、さらに4つのアミノ酸がとれた断片でした。
 さらに、これらの4種類のBNPを、冠動脈の再狭窄を生じた患者さんの血液と生じなかった患者さんの血液で詳細に分析したところ、この病状とBNP断片(具体的には端から4つのアミノ酸がとれた断片と2つのアミノ酸がとれた断片との比)との間に相関のあることがわかりました。臨床検体の分析数を増やしてさらに検討したところ、適切なカットオフ値(注10)を設定することで、再狭窄の除外診断(再狭窄が生じていないことの診断)が可能であることがわかり、このBNP断片が冠動脈カテーテル治療後の再狭窄のバイオマーカーとなり得ることが明らかになりました。
 また、これまでのさまざまな研究から狭窄を生じさせるリスクとなる因子として、性差、喫煙、糖尿病、肥満等の病歴が報告されていますが、今回、統計解析を行ったところ、再狭窄が生じるかどうかの因子は、狭窄治療に使用したステントの種類と、今回判明したBNP断片の2つだけであることがわかりました。
 現在、診断だけではなく将来の予測の診断も可能であるかどうかについて追跡調査を進めているところであり、この成果を社会に還元するべく実用化を目指しているところです。


【用語解説】

 ※添付の関連資料を参照


【発表雑誌】
 雑誌名:クリニカル・ケミストリー(Clinical Chemistry)電子版
 掲載日時:5月13日(米国東部夏時間)
 論文タイトル:Processed B−type natriuretic peptide is a biomarker of postinterventional restenosis in ischemic heart disease


【参照URL】
 ユビキタス予防医学講座ホームページ
 http://plaza.umin.ac.jp/upm/index.html


※参考図は、添付の関連資料を参照

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