東北大学、ヒト細胞でのＤＮＡ切断の修復に必要な新しいタンパク質群を発見

ヒト細胞でのＤＮＡ切断の修復に必要な新しいタンパク質群を発見
−−−新しい癌の原因とその治療法の発見−−−



【概要】
　活性酸素や喫煙などでＤＮＡには色々な傷ができますが、その傷が原因で癌や細胞死が起きます。傷の中でもＤＮＡの二本鎖が同時に切れて生じる二重鎖切断は最も深刻な傷で、この傷が修復されないと最も高頻度に癌や細胞死をもたらします。これまでヒト細胞ではＫＵ（クー）と呼ばれる有名なタンパク質が二重鎖切断部位に直接くっつき、切れた二重鎖ＤＮＡを再結合する修復を始めると考えられていました。この研究は、世界で初めて、多数の二重鎖切断のみをヒト細胞のＤＮＡの一カ所に作り、そこに集るタンパク質を可視化して解析できるヒト細胞を作ることに成功しました。この新しい方法を使って、ＫＵタンパク質が切断部位にくっつくには、ＤＮＡの周りのタンパク質（クロマチン）を動かすクロマチンリモデリング因子と呼ばれる多数のタンパク質群が、まず二重鎖切断を見つけて集まり、そこにＫＵタンパク質と結合して修復を開始する必要があることを発見しました。これらの因子を無くした癌細胞が多く見つかっていますので、二重鎖切断を作り出す化学療法や放射線療法が効果的な癌治療法となることが期待されます。
　本研究成果は、米国の分子生物学術誌「Ｍｏｌｅｃｕｌａｒ　Ｃｅｌｌ」に１２月２１日（ｏｎ　ｌｉｎｅ　米国時間）に掲載されます。


【背景】
　ＤＮＡの二本鎖切断はヒト細胞当り一日に１０個程度しか生じませんが、修復されないと細胞は増殖できず死んでしまいます。ヒト細胞では、二本鎖切断は切断部位を直接に再結合する末端結合修復が主な修復方法で、この機構がうまく働かないと、細胞は癌化し易くなり、免疫機構が働かなくなり、同時に放射線などに高感受性になります。これまで、下図にあるように、修復は、まずＫＵ７０とＫＵ８０と呼ばれる二つのタンパク質が輪のようになって切断部位を見つけてくっつき、そこに他の修復タンパク質を呼び込み修復が行なわれると思われていました。しかし、今回、東北大学・加齢医学研究所・加齢ゲノム制御プロテオーム寄附研究部門・安井明教授の研究グループは東京がんセンター研究所河野博士のグループの協力を得て、ＫＵタンパク質が働く前に大きな出来事があることを発見し、癌の原因究明のみならず癌治療に役立つことが明らかになり、米国の分子生物学術誌　Ｍｏｌｅｃｕｌａｒ　Ｃｅｌｌに発表されます。


【本研究成果】
　細胞の中のＤＮＡはクロマチンと呼ばれるタンパク質とのかたまりになっていて、ＤＮＡの情報を取り出す為には、クロマチンを動かす必要があります。今回、クロマチンを動かすＡＣＦ１というタンパク質が、新しく開発した方法でヒト細胞内に作った二本鎖切断に直ちにくっつく事を発見しました。さらに、ＫＵタンパク質は二本鎖切断が出来るとＡＣＦ１に結合し、ＡＣＦ１がなければ二本鎖切断にくっつくことが出来ず、修復もできないことが分りました。ＡＣＦ１と共にクロマチンを動かす多数のタンパク質もこの修復に必要であることが分りました。つまり、これらのクロマチンを動かす因子も二本鎖切断の修復に必須のタンパク質だったのです。これらのタンパク質は癌細胞で欠損が見つかりますが、そのような癌細胞は二本鎖切断が修復できないことが分りましたので、放射線などの効果的な癌治療が選択できます。今後は、この機構に関わる全てのクロマチン因子を見つけて、それを欠損する癌を効果的に細胞死させる癌治療に役立てる計画です。


【解説図】
　※添付の関連資料を参照


【発表論文】
　発表雑誌：Ｍｏｌｅｃｕｌａｒ　Ｃｅｌｌ
　発表予定日：２０１０年１２月２２日（ｏｎ　ｌｉｎｅ　ｉｎ　ＵＳＡ　１２月２１日）
　発表論文名：Ｔｈｅ　ＡＣＦ１　ｃｏｍｐｌｅｘ　ｉｓ　ｒｅｑｕｉｒｅｄ　ｆｏｒ　ＤＮＡ　ｄｏｕｂｌｅ−ｓｔｒａｎｄ　ｂｒｅａｋ　ｒｅｐａｉｒ　ｉｎ　ｈｕｍａｎ　ｃｅｌｌｓ
　著者名：Ｌａｎ　Ｌ，　Ｕｉ　Ａ，　Ｎａｋａｊｉｍａ　Ｓ，　Ｈａｔａｋｅｙａｍａ　Ｋ，　Ｈｏｓｈｉ　Ｍ，　Ｗａｔａｎａｂｅ　Ｒ，　Ｊａｎｉｃｋｉ　ＳＭ，　Ｏｇｉｗａｒａ　Ｈ，　Ｋｏｈｎｏ　Ｔ，　Ｋａｎｎｏ　Ｓ，　ａｎｄ　Ｙａｓｕｉ　Ａ