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京大、ヒトiPS細胞から短期間で効率よく再現性高く筋肉細胞を作製することに成功

2013-05-01

効率よく、再現性高くヒトiPS細胞から筋肉細胞を作製
−筋肉疾患の創薬プラットフォームの開発に向けて−


 櫻井英俊 iPS細胞研究所(CiRA)講師、田中章仁 名古屋大学医学系研究科大学院生(CiRAにて学外研究)らの研究グループは、ヒトiPS細胞から、これまでの手法より短期間で効率よく、さらに再現性高く筋肉細胞を作製することに成功しました。


<要旨>

 これまで、ヒトiPS細胞やES(胚性幹)細胞から筋肉細胞を作製する試みはありましたが、効率が高くない上に再現性が低く、同じ手法を用いても、細胞株が変わると筋肉細胞の出来具合が変わってしまうという問題を抱えていました。

 本研究では、細胞の運命を骨格筋細胞へと変えることが知られている転写因子MyoD1を、ヒトiPS細胞に発現させ、約90%近くの効率で骨格筋細胞を作製することに成功しました。また、この手法により1人の三好型筋ジストロフィー患者さんのiPS細胞2株から筋肉細胞を作製し、シャーレ上で、細胞膜の修復異常の病態を確認しました。さらに、三好型筋ジストロフィー患者さんでは膜タンパク質の一種であるジスフェリン異常が知られていることから、三好型筋ジストロフィー患者さんのiPS細胞でジスフェリンを過剰発現させながら骨格筋細胞を作製すると、細胞膜の修復異常が緩和されました。

 今回確立した筋肉細胞への分化方法を利用することにより、安定的に筋肉細胞を得ることができ、細胞膜の修復を検出する系も確立できたことから、今後、創薬への応用が期待されます。

 この研究成果は2013年4月23日午後5時(米国東海岸時間)にオンライン科学誌「PLOS ONE」に掲載されました。


<ポイント>
 ・再現性よくヒトiPS細胞から筋肉細胞を作製する方法を開発した。
 ・三好型筋ジストロフィー患者さんのiPS細胞から筋肉細胞を作製し、病態を再現した。
 ・今後、筋疾患における創薬開発のプラットフォームとして期待できる。


<研究の背景>

 iPS細胞は、二つの大きな可能性があります。一つは、患者さんからiPS細胞をつくり、細胞レベルで病気の状態をシャーレ上で再現することです。これにより、さまざまな薬剤の効果を試し、治療法を開発することが期待されています。二つ目は、病気や怪我により失われた細胞の機能をiPS細胞から分化させた細胞により補うことです。細胞移植による再生医療も期待されています。これら二つの可能性を実現するための第一歩が、安定的に品質の良い分化細胞を得る方法の開発です。これまでに、報告されているヒトiPS細胞から骨格筋細胞を誘導する方法については、複雑で長期間を要したり、再現性に乏しかったり、効率が低いなどの問題を抱えていました。そこで、これらの問題を解決すべく、新たな骨格筋の分化誘導法開発に取り組みました。


<研究結果>

 ※添付の関連資料を参照


<まとめ>

 今回の研究成果により、iPS細胞から骨格筋細胞を安定的に、効率よく、短期間で、分化誘導する手法が確立できました。これまで、安定的にiPS細胞を骨格筋細胞へと分化誘導する手法がなかったため、筋疾患を再現するのは難しい状況でしたが、今回、三好型筋ジストロフィーの病態をシャーレ上で再現することに成功しました。iPS細胞を用いた筋疾患の病態再現は、世界で初めての成果です。今後、三好型筋ジストロフィーに対する創薬スクリーニングへ発展させるとともに、骨格筋細胞の分化誘導法を他の難治性筋疾患に用いることで、多くの筋疾患に対する新たな治療法の開発、創薬につながると期待されます。


 本研究は、以下の事業より資金的支援を受けて実施されました。

 ・文部科学省再生医療の実現化プロジェクト」
 ・内閣府「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)」
 ・文部科学省「科学研究費補助金 若手研究B」
 ・厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)


<論文名、著者およびその所属>
 [DOI]http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0061540

 [論文名]
  "Efficient and reproducible myogenic differentiation from human iPS cells:prospects for modeling Miyoshi Myopathy in vitro"

 [ジャーナル名]
  PLOS ONE 8(4):e61540

 [著者]
  Akihito Tanaka1,2, Knut Woltjen1, Katsuya Miyake3, Akitsu Hotta1, Makoto Ikeya1, Takuya Yamamoto1, Tokiko Nishino1, Emi Shoji1,4, Atsuko Sehara−Fujisawa4, Yasuko Manabe5, Nobuharu Fujii5, Kazunori Hanaoka6, Takumi Era7, Satoshi Yamashita8, Ken−ichi Isobe2, En Kimura8 and Hidetoshi Sakurai1(*) (*)責任著者

 [著者の所属機関]
  1.京都大学 iPS細胞研究所(CiRA)
  2.名古屋大学 大学院医学系研究科分子細胞免疫学
  3.香川大学 医学部組織細胞生物学
  4.京都大学 再生医科学研究所
  5.首都大学 東京人間健康科学研究科
  6.北里大学 理学部
  7.熊本大学 発生医学研究所
  8.熊本大学 大学院神経内科学


※用語説明は、添付の関連資料を参照

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