東北大、免疫抑制剤タクロリムスが血管網の新生構築を阻害することを解明

細胞移植治療に使用される免疫抑制剤タクロリムスが
血管網の新生構築を阻害する
細胞移植治療の成績向上へ向けて


　東北大学未来科学技術共同研究センター（大学院医学系研究科兼務）の後藤昌史教授、大学院医学系研究科先進外科の大内憲明教授、西村隆一医師らのグループは、糖尿病を対象とする細胞移植治療である膵島移植において、臨床現場で比較的安全とされ頻用されているタクロリムスという免疫抑制剤が、移植後の膵島周囲の栄養血管網の新生構築を阻害することを明らかにしました。これまでに、副作用が多いことで知られるシロリムスには血管構築阻害効果があることが知られておりましたが、現在も臨床現場で頻用されているタクロリムスに同様の作用がある事が判明したのは初めてです。この結果は、今後の細胞移植治療の成績向上へ向けた戦略を構築する上で有用な知見になると思われます。
　この研究成果は、米国の国際学術誌The　Public　Library　of　Science　ONE（PLOS　ONE）に４月１７日（米国東部時間）に掲載されました。


【発表のポイント】
　細胞移植治療の効果が臓器移植治療より弱い一因として、臨床現場で頻用されている免疫抑制剤の新生血管構築阻害が関与していることが示唆された。よって、この阻害効果を考慮した免疫抑制療法の至適化が、膵島移植などの細胞移植治療の成績を改善すると考えられる。

【研究内容】
　膵島（注１）移植などの細胞移植療法は、重症糖尿病などの様々な疾患に対する治療法として既に臨床応用が開始されている。この新しい治療法は、通常全身麻酔や開腹手術を一切必要とせず、点滴の要領で短時間に終えることが可能である。そのため、従来行われてきた膵臓移植などの臓器移植療法と比べ、安全・簡便・低侵襲などの利点が着目され、次世代の中心的移植医療になると大きく期待されているが、まだまだ克服すべき課題も多い。その一つの課題として、移植細胞の生着率の低さが挙げられ、その原因は未だ十分に解明されていない。
　これまでの報告より、細胞移植の中でも、同種細胞移植（お亡くなりになった他人からの細胞移植）は自家細胞移植（自分の細胞を自分に戻す細胞移植）に比べて長期的な細胞生着率が低いことが明らかとなっている。この細胞生着率に影響を及ぼす因子はいくつか考えられ、同種細胞移植で使用される免疫抑制剤もその１つに挙げられる。膵島移植において、当初頻用されていた免疫抑制剤であるラパマイシンは血管新生抑制効果を有することが最近明らかになったが、現在標準的に使用されており比較的安全性が高いとされている免疫抑制剤であるタクロリムスが移植膵島の血管新生に及ぼす影響に関しては、これまで全く検討が実施されていなかった。そこで本研究においては、dorsal　skinfold　chamberモデル（注２）と二光子顕微鏡（注３）を組み合わせた高感度イメージングシステムを用いて、タクロリムスが移植膵島の血管新生に及ぼす影響について検証した。また、レーザーマイクロダイセクション（注４）で得た移植膵島において遺伝子発現の変化を解析した。
　その結果、移植膵島に対する血管新生は移植後１４日以内に完了することが明らかとなった。また、タクロリムスを投与したマウスでの移植膵島に対する新生血管体積は、投与しないマウスに比べて減少していた（図１）。移植膵島の遺伝子発現に関しては、タクロリムス投与により血管誘導因子Vegfaの上昇が確認されたが、細胞周期への影響は確認されなかった。
　本研究により、タクロリムスは移植膵島からの血管誘導因子の放出制御を介さずに血管新生を抑制することが明らかとなった。したがって、移植細胞の血管新生への影響を考慮した免疫抑制療法の至適化が、同種細胞移植療法の成績を改善することが示唆された。また、本研究において確立した高感度イメージング法と細胞の分子情報を同時に取得するシステムは、細胞移植療法のみならず、癌細胞や各種幹細胞の血管新生や生着の研究にも有用な手法となり得ると考えられる。
　本研究は経産省産業技術研究開発施設整備費補助金、科学技術振興機構地域産学官共同研究拠点整備事業（TAMRIC）、および東北大学大学院医学系研究科共通機器室によってサポートされた。


　※図１、用語説明は添付の関連資料を参照