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生理学研究所、周囲の温度で「冷たさセンサー」の冷たさの感じ方が変わる仕組みを解明

2013-04-09

周囲の温度で“冷たさセンサー”の冷たさの感じ方が変わる仕組みを解明


<内容>
 皮膚近くにまで広がっている末梢の感覚神経には、TRPM8(トリップエムエイト)と呼ばれるタンパク質でできた冷受容体があり、“冷たさセンサー”として冷たさを感じています。ある温度以下になるとこの“冷たさセンサー”は冷たさを感じ、それを脳に伝えて脳が「冷たい」と感じるのです。その一方で、こうした冷たさの感じ方は、周囲の温度によって変わることが以前より知られています。たとえば、温かいお湯に手をつけておいてから室温の水につけると室温よりも冷たく感じられますが、低い温度の水に手をつけておいてから室温の水につけると温かく感じられます(「ウェーバーの3つのボウルの実験」Weber’s three−bowl experimentと呼ばれています(図1))。今回、自然科学研究機構生理学研究所(岡崎統合バイオサイエンスセンター)の富永真琴教授は、株式会社マンダムとの共同研究により、周囲の温度によってTRPM8の冷たさを感じる温度が変化することを明らかにしました。環境温度が変化しやすい状況(入浴、運動後など)において有効に働く冷感剤を開発できるようになることが期待されます。米国神経科学会誌(ザ・ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス)の2013年4月3日号に掲載されます。


 上記の「ウェーバーの3つのボウルの実験」は、脳での温度情報統合機構の変化(慣れなど)によって説明されてきましたが、研究チームは感覚神経の温度センサーの機能変化でも説明ができるのではないかと考えました。研究チームが注目したのは、皮膚に伸びる末梢の感覚神経に分布するTRPM8と呼ばれる冷たさセンサー。このTRPM8を発現させた細胞の周囲温度を30度から40度まで変化させた時に、どの温度で冷たさを感じるようになるかを調べたところ、周囲の温度が高ければ高いほど、冷たさを感じ始める温度も高くなることがわかりました(図2)。また、この働きは、細胞内の特定のリン脂質(ホスファチジルイノシトール4,5−二リン酸,PIP2)とTRPM8の相互作用によって制御されていることを明らかにしました(図3)。

 富永教授は、「様々に変化する環境温度へ適応する際には、温度感覚の制御は脳だけでなく皮膚の温度受容体そのものが行っていることを初めて明らかにしました。温暖化で熱帯化しつつある地球環境において、エネルギーを使わずに涼しく過ごすための外用剤などの開発に役立つ情報と考えられます。たとえば、環境温度が変化しやすい状況(入浴、運動後など)において有効に働く冷感剤を開発できるようになると期待されます」と話しています。

 本研究は文部科学省科学研究費補助金の補助を受けて行われました。


<今回の発見>
 1.末梢の感覚神経終末に発現する冷受容体TRPM8の活性化温度閾値が周囲の温度によって変化しうることを証明しました。
 2.上記現象が細胞内で特定のリン脂質(ホスファチジルイノシトール4,5−二リン酸)とTRPM8の結合によって制御されている可能性を見出しました。


 ※以下の資料は添付の関連資料を参照
  ・図1 ウェーバーの3つのボウルの実験(Weber’s three−bowl experiment)
  ・図2 細胞周囲の温度が高いとTRPM8が冷たさを感じる温度も上がる
  ・図3 細胞内の特定のリン脂質の働きによってTRPM8の温度の感じ方が変わる


<この研究の社会的意義>
■周囲の温度に適応し冷たさの感じ方を変える仕組みを解明
 様々に変化する環境温度へ適応する際には、温度感覚の制御は脳だけでなく皮膚の温度受容体そのものが行っていることを初めて明らかにしました。温暖化で熱帯化しつつある地球環境において、エネルギーを使わずに涼しく過ごすための外用剤などの開発に役立つ情報と考えられます。たとえば、環境温度が変化しやすい状況(入浴、運動後など)において有効に働く冷感剤を開発できるようになると期待されます。


<論文情報>
 Ambient temperature affects the temperature threshold for TRPM8 activation through binding of phosphatidylinositol 4,5−bisphosphate.
 米国神経科学会誌(ザ・ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス)2013年4月3日号
 1.藤田郁尚(Fumitaka Fujita)岡崎統合バイオサイエンスセンター(生理学研究所)、株式会社マンダム
 2.内田邦敏(Kunitoshi Uchida)岡崎統合バイオサイエンスセンター(生理学研究所)、総合研究大学院大学
 3.高石雅之(Masayuki Takaishi)岡崎統合バイオサイエンスセンター(生理学研究所)、株式会社マンダム
 4.曽我部隆彰(Takaaki Sokabe)岡崎統合バイオサイエンスセンター(生理学研究所
 5.富永真琴(Makoto Tominaga)岡崎統合バイオサイエンスセンター(生理学研究所)、総合研究大学院大学

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