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昭和電工と北大、バイオマスを高効率で分解する新しい触媒を開発
身近な活性炭を用いてバイオマスを高効率で糖化
<研究成果のポイント>
・活性炭を触媒(※1)として用いることにより,バイオマスの高効率糖化に成功。
・活性炭がセルロースを加水分解できる機構を解明。
・バイオマスの新規かつ簡便な糖化方法として実用化が期待される。
<研究成果の概要>
北海道大学触媒化学研究センターの福岡淳センター長と昭和電工株式会社の研究グループは,バイオマスを高効率で分解する新しい触媒の開発に成功しました。バイオマスは再生可能な資源として注目されていますが,これまで有効な利用方法は確立されていませんでした。今回,同グループは身近にある活性炭をアルカリ処理した触媒を用い,サトウキビの搾りかすであるバガスから高い効率で糖(グルコース(※2),キシロース(※3))を合成しました。分解困難なセルロースを変換できる点がポイントです。これらの糖からはバイオエタノールや生分解性プラスチック,虫歯予防に有効なキシリトールを作ることができます。
<論文発表の概要>
研究論文名:High−Yielding One−Pot Synthesis of Glucose from Cellulose Using Simple Activated Carbons and Trace Hydrochloric Acid(ありふれた活性炭と微量の塩酸を用いたセルロースからのグルコースの高収率ワンポット合成)
著者:小林広和(*),藪下瑞帆(*),駒野谷将(*),原賢二(*),藤田一郎(**),福岡淳(*)(*北海道大学触媒化学研究センター・大学院総合化学院,**昭和電工株式会社)
公表雑誌:米国化学会論文誌「ACS Catalysis」
公表日:米国東部時間 2013年3月1日
<研究成果の概要>
(背景)バイオマスは,再生可能な資源であり,燃やして二酸化炭素として排出しても二酸化炭素の総量を増加させないことから,近年高い関心が寄せられています。バイオマスの中でも特に重要なのが,木や稲わら,サトウキビの搾りかすなどの木質系・草本系のものです。バイオマスは最も豊富な資源であることに加え,人間にとっては食料とならないため食料生産と競合しないという利点があります。その一方で,バイオマスは,木が長年の風雪に耐えることからも分かるように,大変頑丈です。そのため,バイオマスを分解して使いやすい糖に変換することは困難でした。実際,これまで酵素や硫酸などを触媒として利用するなど様々な方法が試されてきましたが,バイオマスの効率的な分解方法は確立されていませんでした。
(研究手法)バイオマスを効率的に分解するため,バイオマスとして,バガスと呼ばれるサトウキビの搾りかすを使いました。バガスは水に溶けない固体です。また,アルカリ処理した活性炭も固体です。そこで,お互いが上手く接触できるように一緒に混ぜて粉砕しました。次に,弱酸性の水中でよく混ざり合った活性炭によりバガスを分解し,糖に変換しました。また,様々な科学的な方法を使って活性炭というありふれた材料が,何故化学処理すると触媒として機能するのかを明らかにしました。
(研究成果)バガスの主成分は,グルコースが多数繋がってできたセルロースという物質と,キシロースが同様につながったキシランという物質です。活性炭でバガスを分解することにより,セルロースのうち80%をグルコースとして,キシランのうち90%以上をキシロースとして取り出すことに成功しました。また,活性炭の表面に存在するカルボキシル基やフェノール基がお互いに助け合ってバガスを分解していることが分かりました。この触媒は耐久性も備えています。
(今後への期待)グルコースはバイオエタノールなどの燃料やポリ乳酸などの生分解性プラスチックの原料として大変有用です。また,キシロースはそれらの用途に加え,虫歯予防効果のあるキシリトールに容易に変換できます。活性炭という身近にある安価な材料を使ってバイオマスからこれらの化合物を効率的に合成できたため,その利用が進むと期待されます。さらに,活性炭が触媒としてどのように機能しているか解明できたため,新しい触媒反応への応用が可能となります。
<参考図>
※添付の関連資料を参照
<用語解説>
※1)触媒:反応により自分自身は変化しないが,反応を加速する物質のこと。化学反応を大幅に効率化させる。
※2)グルコース:6個の炭素が繋がった糖(C6H12O6)のひとつ。人間にとっても脳細胞の唯一のエネルギー源になるなど,身近な化合物である。発酵法や化学的な方法を使って様々な製品に転換できる。
※3)キシロース:5個の炭素が繋がった糖(C5H10O5)のひとつ。キシリトールの原料。近年の技術の進展により,グルコースと同様にエタノールや生分解性プラスチックへの変換が可能になってきた。