イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

IHMEと東大など、日本の健康寿命の危機などに関する研究成果を発表

2013-03-09

世界一の日本の健康寿命の危機


■発表者:
 クリストファー・マレー(米国ワシントン大学保健指標評価研究所 所長)
 渋谷 健司(東京大学大学院医学系研究科 国際保健学専攻 国際保健政策学分野 教授)


■発表概要:
 米国ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)と東京大学などによる共同プロジェクトである「2010年の世界の疾病負担研究(Global Burden of Diseases 2010、GBD 2010)(注1)」では、世界21地域での分析に加えて、今回新たに、世界187か国における死亡と障害の原因を性・年齢階級別に詳細に分析し、データビジュアル化オンラインツールを公表した。

 これにより、今回の研究では、現在の日本人の健康寿命を取り巻く状況が複雑で、死亡と障害の主な原因は脳卒中と腰痛であること、最大の危険因子が栄養の偏った食事であること、また、若年層での自殺の増加を明らかにした。

 本研究成果により、これまで20年の間世界第一位を誇ってきた日本人の健康寿命は、偏った食習慣や心の健康の問題、喫煙、高齢化の課題に取り組まなければ、トップの座を維持できない可能性があること、また日本人は世界で最も長寿だが、長く生きた分だけ病気や障害に苦しむ年数も増大していることを明らかにした。


■発表内容:
 過去20年間世界第一位を誇った日本人の健康寿命は、偏った食習慣や心の健康の問題、喫煙、高齢化の課題に取り組まなければ、トップの座を維持できない可能性があること、また日本人は世界で最も長寿だが、長く生きた分だけ病気や障害に苦しむ年数も増大していることが明らかになった。

 これらは、2013年3月5日にシアトルのビル&メリンダ・ゲイツ財団(ゲイツ財団)で、ワシントン大学保健指標評価研究所所長のクリストファー・マレー氏とゲイツ財団の共同議長兼理事のビル・ゲイツ氏が公表した2010年の世界の疾病負担研究(Global Burden of Disease Study 2010,GBD2010)の新たな研究成果の一部である。

 GBD2010は、ワシントン大学保健指標評価研究所と東京大学などによる共同プロジェクトであり、世界187か国における死亡と障害の原因を性・年齢階級別に詳細に分析し、データビジュアル化オンラインツールを公表した。GBD2010には、50か国から303の団体が参加した。この研究はゲイツ財団からの支援を受けて、大小様々な健康課題について10億件の推定値を生み出した。

 日本や他の国に関する結果はGBD 2010の新たな成果であり、その概要がランセット誌電子版並びにウェブサイト(http://www.healthmetricsandevaluation.org/gbd)に掲載された。同時に、ワシントン大学保健指標評価研究所からは、”The Global Burden of Disease:Generating Evidence,Guiding Policy.“というレポートも刊行される。

 クリストファー・マレー氏(ワシントン大学保健指標評価研究所所長)は、「我々の目的は、政府や一般市民が、常にアップデートされた充分かつ正確な情報を手にすることで、保健医療に関する政策や投資に関しての正しい判断をするために支援することだ。」と述べている。「この新しいツールによってデータへの理解はより容易になり、世界中の人々が初めて保健分野における素晴らしい進歩や今後の大きな課題を見ることができる。」

 日本人の疾患や死亡の多くは、限られた病気によるものである。GBDの研究者たちは、300以上の疾病や傷害、危険因子を検討した結果、障害や早死により失われた年数で計った日本人の健康上の負担の半分以上は、たった16の原因で説明されることを明らかにした。健康への最大の脅威は脳卒中で、腰痛や虚血性心疾患、下気道感染症、その他の筋骨格疾患がその後に続いた。自殺も、健康上の負担の原因のトップ10に入っている。自殺は、自殺は、1990年から30%増加し、他の原因に比べて順位を上げた。1990年以降、交通事故による傷害はトップ10から脱落し、転倒は健康にとってより重大な脅威となった。

 死亡の原因となっている疾病や傷害のタイプは変化している。1990年から2010年の間、脳卒中や下気道感染症、虚血性心疾患は日本人の三大死因としてとどまったが、トップ10の他の多くの順位は変化した。下気道感染症、肺がん、結腸直腸がん、慢性閉塞性肺疾患が順位を上げた一方で、胃がんは順位を下げ、慢性腎疾患が初めてトップ10入りした。

 GBD2010から明らかになった最も厄介な傾向の一つは、史上最多の自殺が主因となり、日本の若者が危険にさらされているということだ。2010年において、15〜49歳の日本人の死亡の約27%が自殺によるもので、1990年の16.5%から上昇した。これは世界中のどこよりも高い値で、自殺は日本人の若者の第一位の死因となっている。うつ病や不安神経症といった関連危険因子も、若い世代の間で増加傾向にある。

 日本における健康度がほとんどの国々よりも高いことは、驚くまでもない。日本は、平均寿命も健康寿命も世界で最も高い。しかし、長く生きてもますます多くの病気や障害を持ち、しかも、上記の疾患に注意を払わなければ、日本のほぼ非の打ちどころのない健康の記録は危険にさらされるかもしれない。日本人女性の平均寿命は1990年の82歳から2010年には85.9歳まで伸びたが、そのうち健康に生きることができるのは75.5 年しかない。同様に日本人男性は、2010年には平均で79.3歳まで生き、1990年の76歳から上昇したが、そのうち健康なのは70.6年しかない。

 日本は、高齢化の健康影響を受けている。長く生きることによって、下気道感染症や転倒、変形性関節症、うつ病、その他の筋骨格障害といったさらなる疾患が発生する。注目に値する傾向は、アルツハイマー病が及ぼす健康負担が驚異的に増加していることだ。アルツハイマー病は、今や日本人の障害の第8位の原因であり(1990年は23位)、2010年に初めてトップ10に入った。アルツハイマー病が及ぼす健康影響は、この20年で深刻化している。アルツハイマー病によって失われた健康的生存年数は157%増加し、これは他の疾患よりはるかに大きい。

 また、日本人は健康を脅かす生活習慣を選択している。広く称賛されている国民の食習慣であるが、驚くべきことに健康への脅威の一つとなっている。伝統的な日本食は、低脂肪だが塩分が多く、果物やナッツ、全粒穀物といった重要な要素が欠けている。加えて、日本は欧米の不健康な食習慣の影響を受けてきている。

 喫煙は、肺がんや慢性閉塞性肺疾患、その他の病気を引き起こし、日本では栄養の偏った食事や高血圧に次いで三番目に危険な脅威だ。アルコールや薬物使用は引き続き日本人の健康の主要な因子だが、それらに関連する健康への負担は、運動不足や高肥満度指数(BMI)といった因子に比べて低下した。

 世界の多くの国々と同様に、日本は人口動態や疫学の発展に伴い増大する障害の負担に苦しんでいる。障害の主要な原因のほとんどすべて、つまり背中や首、その他の筋骨格痛、うつ病、転倒、変形性関節症は、1990年から2010年の間に健康への脅威として重要性を増した。これらの障害の原因は、死亡の原因ではないことが多いが、健康に多大な悪影響を及ぼす。

 渋谷健司氏(東京大学大学院医学系研究科 国際保健政策学専攻分野 教授)は、「日本は、国民の新しい健康課題に効果的に取り組んでいるように見えない。」と言う。「GBDは、高齢化と政治不安、景気低迷の時代において、こうした課題に取り組むための最善の策に関する議論を引き起こす貴重な機会を提供している。」

 今日の国別研究結果とデータビジュアル化ツールのリリースは、12月15日にランセット誌特別号に掲載されたGBDの全世界と地域別の結果に続くものだ。同特別号では、ランセット誌では初めて、一つの研究に3つの号全体を割いた。7本の学術論文と付随論評により、世界で最も大きな健康課題に取り組み、最善の方法を見つけるための新しい土台を提供している。

 GBD2010は、日本や他の国々におけるさまざまな新しい研究プロジェクトや的を絞った政策決定に有用なエビデンスを提供する。また、GBD2010は、世界の国々が自国の国民の健康負担を詳細に研究する機会を切り開くものである。

 保健指標評価研究所(IHME)は、ワシントン大学の独立したグローバルヘルス研究センターで、世界の最も重要な健康問題について厳密で比較可能な測定を行い、それらに取り組むための戦略の評価を行っている。IHMEは、政策立案者がエビデンスに基づいて人々の健康を改善するための最適な資源配分を行うことができるように、情報を無料で提供している。


【論文情報】
 発表誌:ランセット(The Lancet)電子版 2013年3月5日号
 論文題目:GBD 2010 Country Results:a Global Public Good.
 著者:GBD 2010 Country Collaboration


■用語解説:
 (注1)世界の疾病負担研究(GBD 2010):GBD2010は2007年に開始した国際共同研究。IHMEが事務局として、6つの他の中心的な共同研究機関(東京大学、クイーンズランド大学、ハーバード公衆衛生大学院、ジョーンズ・ホプキンス・ブルームバーグ公衆衛生大学院、インペリアル・カレッジ・ロンドン、世界保健機関)とともに作業を行った。これまでの推計方法を大幅に見直し、また、最新の統計技術を活用し大量のデータ解析が可能となり、1990年から2010年までの世界の21地域の疾病負担および危険因子が寄与する疾病負担の推計を実施した。今回は、さらに187ヶ国に関して国別の詳細な結果を発表することになった。


Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版