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JAXA、銀河系における高エネルギー粒子生成に関して新しい知見を発表

2013-02-21

銀河宇宙線の加速の謎に土星探査機のデータで迫る
―定説を覆す結果を「ネイチャー・フィジックス」に発表―



 土星探査機カッシーニのデータ解析から、われわれの銀河系においてどのように高エネルギー粒子が作り出されているのかという問題に関して、新しい知見が得られました。


※参考画像は、添付の関連資料を参照


 われわれの銀河系は高エネルギー粒子(宇宙線)で満たされており、大気層を貫いて地球表層にも降り注いでいます。宇宙線強度は地球が置かれている宇宙環境を決める重要な量であり、その宇宙線粒子がどのようにして作りだされているのかという問題は、宇宙物理の最重要課題のひとつに位置づけられています。最有力の学説は、宇宙空間ガス中にある強い(マッハ数の高い)衝撃波における加速というものです。特に、重い星がその一生の最期に超新星爆発を起こすと強い衝撃波が発生するので、超新星残骸が宇宙線生成の場であると考えることができます。

 宇宙空間の衝撃波は、超音速機の前面に見られるものと同様に、音速よりも速い速度で衝突が起きるときに発生します。ただし、宇宙空間でのそれがわれわれの身の回りで起きているものと大きく異なるのは、宇宙ガスはイオンと電子からなる電離状態にあり、磁場の効果がきわめて重要であるという点です。したがって、宇宙線加速の問題解決にも磁場の効果を理解することが必須です。ところが、磁場の効果を地上の常識から予想することは不可能で、実際の測定データに基づいてのみ、われわれの理解を確実に深めることができます。

 あいにく、遠方で起きる超新星爆発に伴う強い衝撃波に関しては、充分に詳細な磁場の情報を得ることはできません。一方で、より身近な宇宙空間である太陽系にも電離ガスの超音速流は存在するので、太陽系を飛翔する探査機が衝撃波を、磁場の効果も含めて、「その場」で詳細観測することはできます。ただし、太陽系内の衝撃波は弱いものがほとんどで、そこから超新星残骸における強い衝撃波に関する知見を得ることは困難でした。

 2007年2月3日、土星を周回するカッシーニは、太陽風とよばれる太陽からの粒子の流れが土星の磁気圏に衝突することにより生じた強い衝撃波を詳細に観測することに成功しました。きわめて希な強い衝撃波が発生した際に、幸運にもカッシーニによって「その場」観測が実施され、はじめて実証に基づいて強い衝撃波が粒子を加速させる現場をとらえることができたのです。

 観測されたことは、従来の常識を覆すものでした。

 太陽系における観測史上最高のエネルギーを持つ電子(相対論的電子)が、確かに強い衝撃波に伴って観測されました。しかし、その時の磁場の状態は、磁力線と流れの向きがほぼ平行で、これまでは電子加速を起こさない条件だと考えられてきたものでした。太陽系での過去の観測結果によると、電子加速は磁力線と流れの向きがほぼ平行な場合には起きないとされていましたが、今回の条件はその対極にあったのです。これまでの観測対象が弱い衝撃波だったの対し今回の事例は強い衝撃波であることが、この相違の原因だと考えられます。

 詳細を知ることのできない超新星残骸における磁場の状態は、論争の的となることがあります。その意味で、今回の成果は大きな意味を持っています。強い衝撃波による相対論的電子加速のための条件が実証に基づいて把握され、かつ、それは従来考えられていたものとは逆だとわかったからです。

 この研究成果は、2013年2月17日発行の英科学誌「ネイチャー・フィジックス」オンライン版に掲載されました。研究を主導したのはJAXA インターナショナルトップヤングフェローとJAXA 宇宙科学研究所の研究者です。国際的で恵まれた研究環境で最先端の科学研究を実行することを狙いとする若手フェロー・プログラムが、宇宙科学における普遍的課題の解決への大きな貢献を可能にしたともいえるでしょう。

 NASA、ESA、イタリア宇宙機関の共同計画である土星探査機カッシーニは、1997年10月15日に打ち上げられ、2004年に土星を周回しての観測を開始しました。現在も観測継続中です。

 より詳しい解説はhttp://sprg.isas.jaxa.jp/main.htmlを参照ください。

 論文名:Electron acceleration to relativistic energies at a strong quasi−parallel shock wave
(強い準平行衝撃波による相対論的電子加速)

 著者:Adam Masters(アダム マスターズ)(JAXA 宇宙科学研究所)、L. Stawarz(JAXA 宇宙科学研究所)、藤本正樹(JAXA 宇宙科学研究所/東工大ELSI)、S. J. Schwartz(インペリアル・カレッジ・ロンドン)、N. Sergis (アテネアカデミー)、M. F. Thomsen(ロスアラモス国立研究所)、A. Retino(フランス国立科学研究センター)、長谷川洋(JAXA 宇宙科学研究所)、B. Zieger(ボストン大学)、G. R. Lewis、A. J. Coates(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)、P. Canu(フランス国立科学研究センター)、M. K. Dougherty(インペリアル・カレッジ・ロンドン

 掲載日:2013年2月17日、Nature Physicsにオンライン出版

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