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東北大、ナノガラス粒子が単結晶ドメインに寄生することで「透明ガラスセラミックス」の作製に成功

2013-02-01

ナノガラス粒子が単結晶ドメインに寄生する
〜究極の“透明ガラスセラミックス”の開発に成功〜


 東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻の当時大学院生だった山崎芳樹博士(現在は産業技術総合研究所研究員)、高橋儀宏助教、藤原 巧教授らは、単結晶ドメイン中にナノサイズのガラス粒子が寄生することで実用レベルに達する高い透明性を有するガラスセラミックス(結晶化ガラス)の作製に成功しました。これは、従来単結晶の独壇場であった光波制御材料分野に、特異な分極配向や屈折率構造を有する新しい透明フォトセラミックス材料ならびに光学デバイス応用へ大きな進展をもたらす成果と期待されます。本研究成果は、英国ネイチャー系オンライン科学誌「Scientific Reports」(1月28日)に掲載されました。


【研究の背景】
 セラミックスは主に酸化物の機能性結晶から成る多結晶体であり、構造材料から光・電子デバイスまで広く利用されています。デバイスの小型化・高性能化に伴い、結晶のナノサイズ化に向けたナノ結晶の形成メカニズムの研究が精力的に行われています。その中で酸化物ガラスから熱処理などにより機能性結晶を析出させる「結晶化ガラス法」は析出結晶の種類や結晶サイズの制御が可能なことから、強誘電体や固体電池材料の合成法として注目されています。通常は結晶の組成そのものではガラス化することは困難なために、安定なガラスを得るために網目形成酸化物(1)を添加する必要があります。この添加成分は機能性結晶にとって異質/過剰であることから、目的結晶以外の結晶(副相)の析出や過剰なガラス成分からなる海島構造などの形成が避けられません。これらは不均一構造や光散乱による不透明化(失透)など結晶化ガラスの材料特性を大きく低下させる要因となります。そこで結晶の機能性を十分に発揮するためには、従来とは全く異なる組織構造を有する結晶化ガラスの創製が必要となります。


【研究内容】
 典型的な網目形成酸化物であるSiO2から構成されるフレスノイトBa2TiSi2O8結晶は優れた誘電および光学特性を有することが知られています。本研究室ではその派生結晶であるSr2TiSi2O8に対して、SiO2が過剰となる組成35SrO.20TiO2.45SiO2を有するガラス(非化学量論組成ガラス)を前駆体とすることで完全表面結晶化ガラスの開発に成功し、その形成メカニズムの解明を行いました。ここで完全表面結晶化とは、ガラス試料外側の各表面から結晶化が起こり、それらの結晶成長が試料内部で衝突するまで進行することを意味します(図1右参照)。結晶化後に残存するガラスによって表面近傍で結晶成長が停止する通常の表面結晶化に対して、この完全表面結晶化は極めて特異な現象であるといえます。

  図1.左:フレスノイト型Sr2TiSi2O8 単相からなる完全表面結晶化ガラスおよびその前駆体ガラスの外観、右:完全表面結晶化ガラスの断面の光学顕微鏡写真.柱状ドメインの幅はおよそ10μm.

  ※図1は添付の関連資料を参照

 この完全表面結晶化ガラスはフレスノイト型Sr2TiSi2O8のみが結晶化していますが、前述のように前駆体ガラスの組成はSiO2過剰であることから、結晶化後は残存ガラスと析出結晶の界面による光散乱が試料の透明性を低下させると考えられます。しかしながら、得られた完全表面結晶化ガラスは1mm厚で99%以上の透過率に相当する高い透明性を有することが実証されており、緻密かつ高度に配向したドメイン構造が実現しました(図1)。
 過剰なSiO2の行方を突き止めるため、完全表面結晶化ガラスの結晶ドメイン領域を透過型電子顕微鏡により精査しました。その結果、およそ10.20nmの大きさを持つ粒子を単結晶ドメイン中に多数発見し、さらにこれら粒子は電子回折などによりSiO2過剰の非晶質(ガラス)体であることを見出しました(図2)。前駆体のガラス形成能向上のために添加されたSiO2はこのように単結晶ドメインに“寄生”することで、過剰なSiO2が試料内部の結晶成長を阻害することなく、たとえ非化学量論組成であっても緻密なドメイン組織が形成可能となることを明らかにしました。
 従来の結晶化ガラスによる透明セラミックス作製においては、可視光波長よりも小さいナノサイズの結晶をガラスマトリックス中に析出させる方法がとられていました。しかし本研究の完全表面結晶化ガラスでは、逆に、網目形成酸化物であるSiO2をナノガラス粒子化し、かつ結晶の屈折率と整合するように調整することで光散乱が最小化されています。

 このことから完全表面結晶化ガラスは“逆結晶化ガラス”とも呼ぶことができます。

  図2.完全表面結晶化ガラスの断面の透過型電子顕微鏡写真(a;遠視野像)および左右の領域(明暗の部分)の電子回折パターン(bとc).それぞれの領域が単結晶ドメインであることが判明した(aの写真中の矢印はドメイン境界に相当).顕微鏡写真(d;近視野像)およびナノ粒子内部の電子回折パターン(e).ナノ粒子はガラス特有のブロードかつ不明瞭な回折パターンを示した.

  ※図2は添付の関連資料を参照


【今後の展開】
 本研究で見出された完全表面結晶化ガラスは「高い光透過性」と「緻密な配向組織」とを兼備するセラミック材料であり、析出結晶であるSr2TiSi2O8は大きな二次光非線形性(2)を有します。このことよりLiNbO3など一部の光学単結晶でのみでしか具現化されていない電気光学(EO)効果光スイッチへの応用も可能であり、実際にこのフレスノイト型完全表面結晶化ガラスを用いたEO効果光スイッチの基本動作も確認されています。ガラスは低コストで量産性に優れ、さらにはファイバー/薄膜など高い形態制御性を有することから、光学単結晶にはない多くの実用上のメリットを持っており、今回新たに開発された完全表面結晶化ガラスは、ガラスの特徴と結晶由来の機能性を同時に併せ持つ革新的な機能材料として、高性能な光・電子制御デバイスの創出に寄与するものと期待されます。


 ※用語解説などは添付の関連資料を参照


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