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生理学研究所、パーキンソン病に対する脳深部刺激療法の作用メカニズムを解明

2013-01-18

パーキンソン病に対する脳深部刺激療法(DBS療法)の作用メカニズムを解明
―神経の「情報伝達を遮断」することで治療効果が生まれるという新しい説の提唱―



<内容>
 パーキンソン病ジストニアといった運動障害の外科的治療の一つとして、脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation、DBS療法)があります(図1)。この方法は、脳の大脳基底核淡蒼球内節と呼ばれる部分に慢性的に刺激電極を埋め込み、高頻度連続電気刺激を与えるというもので、これによって、運動障害の症状を改善することができます。しかし、これまで、この方法が、どのように症状を改善させるのか、その作用メカニズムは明確にはわかっていませんでした。今回、自然科学研究機構生理学研究所の知見聡美助教と南部篤教授の研究チームは、正常な霊長類の淡蒼球内節に電気刺激を与えたときのその部位の神経活動を記録しました。その結果、DBS療法による電気刺激は、淡蒼球内節の神経活動をむしろ抑え、神経の「情報伝達を遮断」することにより効果が生まれることを明らかにしました。本研究成果は、米国神経科学会雑誌ザ・ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス(The Journal of Neuroscience)のオンライン版で公開されました(1月16日号)。なお、本研究は、文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムの一環として、また文部科学省科学研究費補助金などの助成を受けて行われました。

 研究チームは、正常な霊長類(サル)の淡蒼球内節に電気刺激を与え、同時に、その付近の神経活動を記録しました(図2)。淡蒼球内節にDBS療法のような100 Hzの高頻度連続電気刺激を与えた場合には、神経活動が高まるのではなく、むしろ淡蒼球内節の自発的な神経活動が完全に抑えられました(図3)。次に、記録する電極付近の淡蒼球内節に、抑制性の神経伝達物質であるGABAの作用を抑える薬を微量投与したところ、「DBS法による神経活動の抑制」が見られなくなりました。このことから、GABAの作用によって淡蒼球内節の神経活動が抑えられていたことがわかります。通常は、運動情報の発信源である大脳皮質を電気刺激すると、淡蒼球内節で反応が見られるのですが、DBS療法によって淡蒼球内節の神経活動が抑えられると、このような反応も見られなくなりました(図4)。これは、DBS療法によって淡蒼球内節を経由する「情報伝達の遮断」が起きるからであると考えられました(図5)。

 これまでDBS療法の治療メカニズムとして、局所の神経細胞を刺激しているのか、抑制しているのかで、論争されてきました。今回の実験結果から、DBS療法は、淡蒼球内節の神経活動そのものを刺激するのではなく、淡蒼球内節に来ている他の神経細胞からのGABAの放出を促して、淡蒼球内節の神経活動をむしろ抑制することで、淡蒼球内節を経由する「情報伝達の遮断」が起きることによって効果が生まれていることを明らかにしました(図6)。

 南部教授は、「これまでの論争に決着をつけただけでなく、DBS療法は淡蒼球内節を経由する情報伝達を“遮断”することで治療効果を示すという新しいメカニズムを提唱することができました。そうであれば、例えば淡蒼球内節の神経活動を抑制するのに必要最小限の電気刺激を与えたりするなど、より効果的な刺激方法の開発につなげることが出来ると考えられます」と話しています。


<今回の発見>
 1.パーキンソン病ジストニアといった運動障害の治療法である脳深部刺激療法(DBS、図1)の作用メカニズムを明らかにするため、正常な霊長類(サル)の淡蒼球内節に電気刺激を与え、同時に、その付近の神経活動を記録しました(図2)。
 2.100 Hzの高頻度連続電気刺激を与えた場合には、神経活動が高まるのではなく、むしろ電気刺激付近の淡蒼球内節の自発的な神経活動が完全に“遮断”されました(図3)
 3.淡蒼球内節に、抑制性の神経伝達物質であるGABAの作用を抑える薬を微量投与したところ、「DBS法による神経活動の遮断」が見られなくなりました。このことから、DBS法による高頻度電気刺激は、淡蒼球内節へ情報を送るGABA作動性神経の軸索末端(線条体あるいは淡蒼球外節からの神経と考えられる)を刺激することによって、GABAの放出を促し、淡蒼球内節の神経活動を遮断することで効果を表すと考えられました。
 4.通常は、運動情報の発信源である大脳皮質を電気刺激すると、淡蒼球内節で反応が見られるのですが、DBS療法によって淡蒼球内節の神経活動が抑えられると、このような反応も見られなくなりました。


 ※図1〜5は添付の関連資料を参照


<この研究の社会的意義>
■DBS療法の作用メカニズムが「淡蒼球内節を介した情報伝達の遮断」とする新たな説を提唱
 これまで脳深部刺激療法(DBS)の作用メカニズムとしては、(a)局所の神経活動を抑制する、(b)局所の神経活動を興奮させる、(c)神経活動の発火パターンを正常化させる、などの説が提唱されてきました。しかしながら、今回の研究では、「淡蒼球内節を介した情報伝達の遮断」がDBS療法の作用の鍵である、という新しいメカニズムを提案しています。
 そうであれば、例えば淡蒼球内節の神経活動を抑制するのに必要最小限の電気刺激を与えたりするなど、より効果的な刺激方法の開発につなげることが出来ると考えられます。今後、さらに、この治療戦略にそった薬物治療など、新しい治療法の開発につながるものと期待されます。


 ※図6は添付の関連資料を参照


<論文情報>
 High−frequency pallidal stimulation disrupts information flow through the pallidum by GABAergic inhibition
 Satomi Chiken,Atsushi Nambu
 米国神経科学会雑誌ザ・ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス(The Journal of Neuroscience)
 オンライン速報版 1月16日号

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