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JSTなど4団体、ダイヤモンド半導体を利用した高耐圧の真空パワースイッチを開発

2012-12-13

真空を利用したパワースイッチを開発
― ダイヤモンド半導体を使うことにより世界で初めて成功 ―



<ポイント>
 ・優れた絶縁性と高効率な電流制御が可能な真空を絶縁体に利用
 ・ダイヤモンド固有の原理を電子放出源として応用
 ・スマートグリッドなどに大きく貢献する超高耐圧小型電力変換装置の開発に期待


 JST課題達成型基礎研究の一環として、産業技術総合研究所の竹内 大輔 主任研究員と物質・材料研究機構の小泉 聡 主幹研究員らのグループは、ダイヤモンド半導体(注1)の特長を利用することにより、真空を用いた高耐圧パワースイッチ(注2)を作製し、動作実証に世界で初めて成功しました。

 電力系統への再生可能エネルギーの導入やスマートグリッド(注3)構想を実現するためには、電圧・電流・周波数を変換、制御する小型大電力変換装置(複数のパワースイッチを組み合わせた装置)が必要です。しかし、これまで開発されてきたシリコンなどを用いたパワースイッチは、高電圧に耐えようとすると電力変換装置が巨大になってしまい、実用化に問題がありました。そのため、固体である半導体よりもさらに絶縁耐圧に優れる真空を利用した革新的な超高耐圧高効率小型パワースイッチの開発が期待されています。

 真空をスイッチ素子に用いるには、スイッチがオンのときに真空に電流を流す電子放出源が必要です。本研究グループは、ダイヤモンドの表面を水素原子で覆うと、真空中に自由に電子が飛び出すことを明らかにしました。そこで、電子放出源の素材にダイヤモンド半導体を採用した真空パワースイッチ(注4)を開発し、動作の検証を行ったところ、10kVの電圧でパワースイッチとして機能することを確認できました。今回の実験結果から100kVほどの高電圧に耐えられる真空パワースイッチを作ることができれば、理論的に従来の10分の1の大きさの大電力変換装置が可能になります。

 将来、日本近海の洋上風力エネルギー導入や日本列島間での効率的な送電などを行う際に、この技術を利用することで、新しいエネルギー戦略に貢献することが期待されます。

 本研究成果は、2012年のInternational Electron Devices Meeting(IEDM2012)のハイライトとしてオンラインで紹介され、2012年12月10日(米国東部時間)同会議で発表されます。


 本成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。
  戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)
   開発課題名 「超高耐圧高効率小型真空パワースイッチ」
   研究開発代表者 竹内 大輔(産業技術総合研究所 エネルギー技術研究部門 主任研究員)
   研究開発期間 平成24年10月〜平成30年3月(予定)

 JSTは本事業において、温室効果ガスの排出削減を中長期にわたって継続的かつ着実に進めていくために、ブレークスルーの実現や既存の概念を大転換するような『ゲームチェンジング・テクノロジー』の創出を目指し、新たな科学的・技術的知見に基づいて温室効果ガス削減に大きな可能性を有する技術を創出するための研究開発を実施しています。


<研究の背景と経緯>
 省エネルギーによって二酸化炭素の排出を抑制するためには、再生可能エネルギーを大量に導入したり、電力系統のスマートグリッド化によって電力をコントロールしたりする必要があります。例えば、日本近海の洋上風力エネルギーは膨大にあるといわれていますが、これを利用するためには洋上で100kV以上の高圧電力を安全で安定にコントロールできる超高耐圧高効率小型パワースイッチの開発が必須となります。さらに、得られた再生可能エネルギーを日本列島間で効率よく送電するためのスマートグリッド構想には超高電圧直流送電(注5)が不可欠で、ここでも超高耐圧のパワースイッチの創出が大きな課題となっています。

 従来のパワースイッチとして、シリコンなどを材料とする半導体デバイスが開発されていますが、高電圧に耐えるためには多数の素子を直列接続する必要があり、電力変換装置が巨大になってしまい、実用化に問題がありました。

 そのため、固体である半導体よりもさらに優れた絶縁体が求められていました。真空は変電所などの遮断機やX線発生装置に用いられている優れた絶縁体です。また、電子の動きを邪魔しないため、電子源から十分な電子放出が自由に得られれば、わずかな電圧でも電流がよく流れます。そのため、電子放出をしない「オフ」状態と、電子放出を伴った「オン」状態を利用してスイッチを構成することができ(図1)、さらに真空中では電子を固体内よりも早く動かせるため、高速でのオン・オフが期待できます。


<研究の内容>
 真空をパワースイッチに利用するためには、真空中に高効率かつ低電圧で大電流を流すための理想的な電子放出源(注6)を実現する材料が必要です。従来の真空管の電子放出源であるフィラメントは、大電流を素早くオン・オフすると切れてしまい、信頼性、効率、応答性の面から、真空パワースイッチに使用することはできません。この問題を解決するために、本研究グループは真空への電子放出源の材料にダイヤモンド半導体を採用しました。

 まず、ダイヤモンドの表面を水素原子で覆うと、外の真空よりもダイヤモンド中の自由電子のエネルギー位置が高くなり、真空中に自由に電子が飛び出すことができる「負の電子親和力(注7)」をもつ面となることを、実験で実証しました。水素で覆ったダイヤモンドは、水素原子と炭素原子の強い共有結合で安定化しており、大気中でも安定していて、真空中では800℃の高温まで安定していることも明らかになっています。今回の研究では水素で覆ったダイヤモンドのPN接合(注8)ダイオードを作製して、ダイオードをオンすると電子放出が起こる現象を発見しました。しかし、ダイヤモンドの誘電率は他の半導体材料に比べ小さいため、動き回れる電子の量が少なく室温動作で流れる電流はわずかであり、この段階では高耐圧真空スイッチとしての動作の検証は困難でした。

 そこで、ホウ素を添加したp層とリンを高濃度に添加したn+層との間に、不純物の混入を極力低くした真性形の層(i層)を入れたPIN接合形(注9)のダイヤモンドダイオードを開発し、電子放出源を作製しました(図2)。そして、このダイオードの真上から約100マイクロメートル離したところに陽極を置いて、真空パワースイッチとしての検証を行いました(図3)。ダイオードがオフのままであれば、真空は絶縁体として働くため、真空パワースイッチはオフ状態となって、陽極電圧を10kVまでかけても全く電流は流れません。一方、ダイオードに電圧をかけてオンにすると、ほぼ0V付近から電子放出電流が立ち上がって真空パワースイッチがオン状態になることを確認しました。

 さらに詳細に動作を確認するために10kV高圧回路に組み込んでダイオード入力のオン・オフを行い、出力となる高圧回路側の電流と、負荷にかかる電圧の変化を測定しました(図4)。ダイオードをオンにすると、10kV高圧回路に電流が流れ、負荷にほぼ10kVの電圧が加わったことが観測できました。ダイオードへの入力電力は、ダイオード電圧23.6V、電流7mA、駆動時間0.5秒の積で、82.6mWであるのに対し、負荷への出力電力は、負荷電圧(注10)9.64kV、電流48μA、駆動時間0.5秒の積で、231mWとなり、231/(82.6+231)=73.7%の電力伝達効率(注11)が確認できました。これは、真空管で固体素子同様のパワースイッチングが可能であることを世界で初めて実証したことを意味しています。理論的には、100kV以上の場合、電力伝達効率99.9%を超える設計が可能であることが期待されます。真空を用いることで、このような100kV以上の耐圧設計が十分可能であることは、従来の固体素子のパワースイッチに比べて大きな優位性になっています。

 なお、本研究のPIN接合ダイオード製作にあたっては、JST戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)における研究課題「超低損失パワーデバイス実現のための基盤構築」(研究代表者:山崎 聡 産業技術総合研究所 主幹研究員)からの協力を受けています。


<今後の展開>
 ダイヤモンド半導体の優れた物性を生かした、室温で動作する真空パワースイッチの動作実証ができたことは、再生可能エネルギースマートグリッド技術を十分に活用できる電力系統の実現への第一歩といえます。今後は、さらに真空パワースイッチの特性を向上させて絶縁耐圧性や電力伝達可能性などにおける優位性を確認し、従来の10分の1以下のサイズの超高耐圧高効率小型パワースイッチの具体的な実用化へつなげていきます。



※以下の資料は添付の関連資料「添付資料」を参照
 ・参考図
 ・用語解説
 ・論文名


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