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東大とJSTなど、ありふれた永久磁石にマルチフェロイックの特性を持たせる技術を開発

2010-12-16

ありふれた永久磁石をマルチフェロイック磁石に
(強磁性体と強誘電体の性質を持つ多能材料に一歩前進)


 JST 課題解決型基礎研究の一環として、東京大学 大学院工学系研究科の十倉 好紀 教授とJST 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「十倉マルチフェロイックスプロジェクト」の徳永 祐介 研究員らの研究グループは、室温でのマルチフェロイック材料につながる新しい材料を開発しました。

 「マルチフェロイック材料」とは、磁石の性質(強磁性)と誘電性(強誘電性)の性質を併せ持つ材料のことです。電場(電圧)により磁石の強度を制御でき、また、磁場によっても電気分極の強度を制御できるという、今までにない画期的な機能を持っており、世界中で激しい競争が始まっています。このような機能は、磁石の力を担う電子のスピンが円錐状に回転している構造を取る「円錐スピン磁石」注1)の場合に現れます。これまで、室温でその構造を取る物質はほとんどなく、さらに、マルチフェロイックの特性を持つという報告はありませんでした。

 本研究グループは今回、家庭やモーターに使われているごくありふれた永久磁石(フェライト磁石)に特殊な元素を微量に添加することで、室温においても円錐スピン磁石の構造を保つ物質の合成に成功しました。また、この物質は、低温で磁場により電気分極の大きさや方向を制御することが可能であり、マルチフェロイック材料としての特性を示すことも確認されました。

 さらに、研究用原子炉JRR−3における中性子散乱実験によって、この円錐スピン磁石構造は90℃以上まで保持されていることが明らかになったことから、今後の研究により室温でもマルチフェロイック特性を示すことが期待できます。この結果は、マルチフェロイック特性の室温動作に向けた重要な設計指針を与えるもので、将来的には低消費電力でさらなる高集積メモリデバイスなどへの応用が期待されます。

 本研究は、理化学研究所日本原子力研究開発機構東京大学と共同で行われました。


 本研究成果は、2010年12月17日(米国東部時間)発行(予定)の米国物理学会誌「Physical Review Letters」に受理され、オンライン版で近日中に公開されます。

 本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究

  研究プロジェクト:「十倉マルチフェロイックスプロジェクト」
  研究総括:十倉 好紀(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
  研究期間:平成18〜23年度

 JSTはこのプロジェクトで、磁化と電気分極の強い相関を持つマルチフェロイック物質の創製と、その物性を説明する学理の構築を総合的に行うことで、材料の新たな設計指針を見いだしつつ、新規材料群の開拓を行っています。


<研究の背景>
 強磁性体(磁石)と強誘電体は、それぞれの特性を生かしてハードディスクやメモリデバイスなどのエレクトロニクス材料をはじめとして幅広く応用されています。近年、この強磁性体としての性質と強誘電体としての性質を併せ持つ「マルチフェロイックス」と呼ばれる物質群が注目されています。これらの物質の中には強磁性体と強誘電体としての性質がお互い強く結び付いているものがあり、これらの物質を用いれば磁場によって電気分極の方向を、また、電場によって磁化の方向を制御できる可能性を秘めています。なかでも強磁性体としての性質と、らせん磁性体注2)としての性質を併せ持った「円錐スピン磁性体」と呼ばれる特殊な種類の磁石では、強磁性体としての性質と強誘電体としての性質が特に強く結びつくことが知られています。これまで、円錐スピン磁性体構造を取る転移温度が室温を超える物質はほとんどなく、さらにマルチフェロイックの特性を持つという報告はありませんでした。

 本研究で対象とした六方晶バリウムフェライト(BaFe12O19)注3)は、モーター用や家庭用マグネットなどの永久磁石として工業的に量産(70万トン@2004年)使用されているありふれたフェライト磁石です。これまでに、この物質の鉄(Fe)イオンの一部をスカンジウム(Sc)イオンに置き換えると、極低温(液体窒素温度:−196℃)で円錐スピン磁性体としての性質を示すようになることは確かめられていましたが、円錐スピン磁性体への転移温度がスカンジウムイオンの置換量によってどのように変わるのか、この物質が実際にマルチフェロイックス物質としての性質を示すかどうかなどは詳しく調べられていませんでした。


<研究の成果>
 本研究では、鉄イオンの一部を、スカンジウムイオンと少量のマグネシウム(Mg)イオンで置き換えたBaFe12O19の単結晶試料作製に成功し、その磁気特性の評価を精度よく詳細に実施することが可能になったことから、この物質が室温を超える転移温度を持つ円錐スピン磁性体となることを確かめました。さらに低温(−173℃以下)で電気的な特性を調べることで、この物質が磁場により大きさや方向を制御可能な電気分極を発生するなど、実際にマルチフェロイックス物質としての性質を示すことも確かめました。本研究で得られた主な成果を以下に示します。

(1)高圧浮遊溶融帯単結晶作製法を用いて、鉄イオンの一部をスカンジウムイオンとごく少量のマグネシウムイオンで置換したBaFe12O19の単結晶を合成することに成功しました(図1、図2)。

(2)理化学研究所において、スカンジウムイオンの量を変えながら磁気的な性質を調べると同時に、日本原子力研究開発機構 東海研究開発センター 原子力科学研究所の研究用原子炉JRR−3に設置された中性子散乱計測装置TAS−1を使用してこの物質の磁性のもとになるスピンの並びを調べ、円錐スピン構造への転移温度が最大で97℃まで上昇することを突き止めました。

(3)低温で電気分極の磁場依存性を調べた結果、これらの物質が磁場により大きさや方向を制御可能な電気分極を発生するなど、マルチフェロイックス物質としての性質を示すことを確かめました(図3)。さらに強磁性モーメントの方向を磁場で反転した際の電気分極の振る舞いが、温度やスカンジウムの濃度によって異なることも明らかになりました。温度によって変化する典型例を図3に示しています。磁場により誘起される電気分極の符号が、らせんの巻き方(右巻き・左巻き)とスピンの作る円錐形が傾く方向とで決まっているというすでに知られている事実を考慮に入れると、この振る舞いの変化は、強磁性モーメント(スピンの作る円錐の方向)が磁場によって反転する際に、らせんの巻き方が右巻きと左巻きとの間で入れ替わるか、それとも保存されるかが、温度によって変わっていると考えられます。このように、この物質においては、磁場と温度を変えることによってらせんの巻き方(右巻き・左巻き)と磁気モーメントの方向(プラス・マイナス)の関係が制御可能であることが明らかになりました(図4)。


<今後の展開>
 本物質は室温では絶縁性が十分でないため、室温での電気分極発生を確認することはできませんでした。今後は、室温動作に向けて試料の絶縁性の向上などの改善を目指すほか、室温で磁場を加えなくても強磁性体としての性質と強誘電体としての性質の両方を示す物質の開発を目指します。


※以下、参考図・用語解説などは添付の関連資料を参照

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