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東北大、新考案のミラー光学系でEUVリソグラフィ用マスクの高分解能観察に成功

2012-12-11

新考案のミラー光学系でEUVリソグラフィ用
マスクの高分解能観察に成功
−新しい顕微鏡開発で16nm世代リソグラフィの実現に貢献−



<概要>
 東北大学多元物質科学研究所・豊田光紀助教らの研究グループは、独自に開発した多層膜ミラー光学系による顕微鏡により、16nm世代用のEUVリソグラフィ用マスクを高い空間分解能で観測することに成功しました。波長13.5nmの短波長の極端紫外線(EUV:Extreme Ultraviolet)を用いて、半導体ウエハ上に微細回路パターンを焼き付けるEUVリソグラフィでは、回路パターンの原盤に、Mo/Si多層膜ミラーを用いた反射型マスクが用いられます。反射型マスクの開発では、マスク上に存在する微細欠陥(直径数10nm)の検査技術の開発が強く求められていました。今回、新たに開発した顕微鏡は、マスクの動作波長である波長13.5nmで、欠陥の反射像を高い空間分解能(約30nm)で観察することができます。本顕微鏡により、16nm世代用マスクの上に僅かに残留する欠陥が、微細回路パターンの焼き付け時に与える影響の大きさを、定量的に評価することが初めて可能となります。
 本研究は、兵庫県立大学・木下博雄教授および、半導体産業界のコンソーシアムである株式会社EUVL基盤開発センターとの共同研究として行ったものです。また、本研究成果は、先に神戸市で開催された第25回マイクロプロセス・ナノテクノロジー国際会議(MNC 2012)および、応用物理学会の欧文誌Applied Physics Expressで発表されました。


1.研究の背景
 半導体デバイスの高性能化には、デバイスを構成する回路パターンの微細化が欠かせません。回路パターンの微細化には、リソグラフィ(回路の焼付け工程)の高解像力化が必要で、その解像力は、使用する波長に比例します。回路パターンの微細化を飛躍的に進める次世代技術として、波長13.5nmの短波長の極端紫外線(EUV:Extreme Ultraviolet)を用いるEUVリソグラフィが注目されています。EUV領域では、可視域でのガラスのような透明な物質は存在せず、レンズを使用することはできません。そのため、EUVリソグラフィでは、縮小露光用の光学系をはじめ、回路パターンの原盤となるマスクまで、全てミラーで構成する必要があります。
 反射型マスクの開発では、マスク上に僅かに存在する微細欠陥(直径数10nm)が大きな問題となっています。図1に示すように、マスク上に欠陥が残留すると、半導体デバイスに焼き付ける配線パターンが変形や断線してしまい、半導体デバイスが誤動作や故障してしまいます。欠陥の影響を正しく評価するには、マスクの動作するEUV領域でマスクの反射像を精密に顕微観察する必要があります。しかし、これまでに実現された検査用の顕微鏡システムは、像の分解能が不足して欠陥の影響がボケて観測されたり、一度に検査できる視野が数μm角程度と小さかったりして、150mm角程度の大きな面積をもつマスク上に僅か数個程度残留する欠陥を、正確に評価することが難しいという問題がありました。


2.研究の成果と今後の展開
 多元物質科学研究所・先端計測開発センターでは、波長2から30nm程度の軟X線やEUV領域で高い反射率を実現できる、多層膜ミラーの研究開発を20年以上に渡り続けていて、世界最高の反射率をもつ実用的なミラーを実現してきました。本研究は、東北大学のもつ、高いEUV用ミラーの技術をリソグラフィ用マスクの検査技術開発に応用したものです。今回開発したマスク検査用の顕微鏡システムでは、7枚のMo/Si多層膜ミラーを最適な配置で組み合わせることで、160μmを超える広い視野を、30nm程度の高い空間分解能で一度に観測することが可能となり、大面積マスクの、高速かつ高精細なEUV観察へのブレークスルーが実現します。図2および図3にEUVリソグラフィーマスク上に描画したテストパターンを波長13.5nmのEUV光で観察した例を示します。広い視野内で、次世代デバイスへの適用が予定されている22nm世代用パターン(線幅88nm)が明瞭に観察できることを確認しました。また、次々世代となる16nm世代以降のパターンの観察では、10nm世代(線幅40nm)のテストパターンも十分なコントラストで観察できることも既に確認しています。これは、本研究による顕微鏡システムが世界最高の結像性能を持っていることを示しています。
 今後は、本システムの優れた結像特性を生かして、マスク上に存在する種々の欠陥を観察し、EUVで見た欠陥像の定量的評価を、株式会社EUVL基盤開発センターおよび兵庫県立大学と共同で推進する予定です。これにより得られるデータは、16nm世代以降のEUVリソグラフィのための基礎データとして、産業界で活用されることになります。また、本研究では、光源に兵庫県立大学のNewSUBARU放射光施設を用いました。放射光光源は、強力なEUV光を安定して出力する優れた特性をもつ一方で、EUV光の発生には巨大な加速器が必要です。本システムの優れた結像特性を、実験室規模で手軽に利用するため、先端計測開発センターでは、光源を含めたシステムの小型化等、EUV顕微鏡の実用化のための研究開発を引き続き推進していきます。


 ※図1〜3は添付の関連資料を参照


【用語解説】
 EUV:波長10nmから20nm程度の電磁波で、真空紫外線(波長30〜200nm)、紫外線(波長200〜400nm)より短く、レントゲンで使用されるX線(波長0.6nm以下)より長い”光”。空気により吸収されるので被爆しない。ちなみに、眼で見える光(可視光)の波長はおおよそ400〜800nm。

 放射光(放射光光源):ほぼ光速で直進する電子が、磁石などによってその進行方向を変えられた際に発生する電磁波を放射光と呼ぶ。放射光は、電子のエネルギーが高いほど指向性の良い明るい光となり、また、電子のエネルギーが高く進む方向の変化が大きいほど、X線などの短い波長の光を含むようになる。特に真空紫外からX線領域にかけてのよい光源となるため、物質の基礎研究から物質開発、医療生物応用、半導体産業応用などに欠かせない光源である。国内ではSpring−8(JASRI兵庫県佐用郡)やPhoton Factory(KEK 茨城県つくば市)などがあり、先進各国に施設がある。

 多層膜ミラー:EUVは通常の物質により反射されないため、異なる物質を交互に積層した多層膜を反射材として利用する。多層膜内部で光の強め合いの干渉効果を利用することにより、EUVを反射する。多層膜のうち、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)の物質対を利用した多層膜は、特に反射率が高く、波長13nm付近での反射率は約7割に達する。
 このMo/Si多層膜を蒸着した鏡を組み合わせることで、軟X線を集めたり結像したりするレンズ作用を持たせることが出来る。一般に多層膜を蒸着したレンズなどの光学機器を多層膜光学素子、それぞれの機能を持つ光学素子を多層膜集光鏡、多層膜結像鏡などと呼ぶ。次世代の半導体露光装置に用いられる投影露光「レンズ」も、このMo/Si多層膜を蒸着した鏡が複数枚使用される予定である。

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