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東北大、八幡平に中国大陸からレアメタルが飛来し蓄積など研究成果を発表

2012-12-11

八幡平に中国大陸からレアメタルが飛来し蓄積、山岳湖沼では富栄養化も進行していることが判明


<概要>
 東北大学占部城太郎教授、愛媛大学加三千宣講師、槻木玲美研究員らの研究チームは、液晶パネルやLEDの生産に用いられるアンチモンインジウムなど、これまで耳慣れなかった微量金属(レアメタル)が中国大陸から大気降下物として飛来し、その蓄積速度がここ30年間で急激に増加していることを八幡平山岳湖沼の湖底堆積物分析から明らかにしました。また、中国大陸由来の大気降下物にはリンや窒素などの栄養塩が含まれており、手付かずの自然と考えられていた八幡平の山岳湖沼でも富栄養化が進行していることも明らかにしました。アンチモンインジウムは人に対する毒性も報告されており、今回の研究成果は我が国の生態系や人の健康に及ぼす中国大陸由来の大気降下物の影響解明が喫緊の課題であることを指摘するものです。
 本成果は、微量金属に関しては環境科学の国際誌Science of the Total Environment(2013年1月号)に、山岳湖沼の富栄養化に関しては生態学の国際誌Ecological Research誌(2012年6号:12月発刊)で発表されます。

【背景】
 100〜200年前までの過去を近過去といいます。この近過去の生態系の様子や現在に至る変遷や変化はモニタリングデータがないため知るすべはありませんでした。この問題を克服するために、東北大学大学院生命科学研究科の占部城太郎教授の研究チームは愛媛大学の加三千宣講師・槻木玲美研究員らと共同で、湖底から柱状堆積物を採集し、鉛放射性同位体及びセシウム放射性同位体を用いた年代測定と堆積物に含まれるプランクトン遺骸や化学物質の分析を詳細に行うことで過去100〜200年間の湖沼の生物相の復元や環境の変遷を解明するための技術開発を行なっています。今回、日本の山岳湖沼の現状の近年の変化を把握するモニタリング研究の一環として、それら技術を用いて八幡平の八幡沼と蓬莱沼の環境変化を解析しました。

【研究内容】
 研究の結果、八幡平の山岳湖沼でアンチモン(Sb)やインジウム(In)の他、錫(Sn),ビスマス(Bi)といった微量金属の堆積速度が1960年以後、急激に増加していることがわかりました。これら微量金属は日本での採掘は現在行われておらず、湖底での堆積速度増加は集水域や近隣から混入したとは考えられません。これら解析と平行して鉛の安定同位体比を調べたところ、1960年ごろから大陸起源の大気降下物が増加し湖底に堆積していること明らかとなりました。鉛の安定同位体比は石炭の産地を指標することが判っており、八幡平の湖沼堆積物の鉛同位体比は日本ではなく、中国の石炭燃焼の際に発生する鉛同位体比と一致したことから、中国大陸からこれら微量金属が飛来し湖沼の湖底に堆積していることが裏付けられました。
 近年の液晶パネルやLED(発光ダイオード)など半導体産業や技術発展により、様々な微量金属(レアメタル)が工業生産で使用されるようになっています。Sb、Inも同様であり、地表での濃度は低いが工業生産に必要なため採掘・精錬されています。Sb,In,Sn,Biは中国での生産が多く、また石炭燃焼とともに浮遊微粒子(エアロゾル)として大気に放出されます。今回、八幡平で明らかとなったこれら微量金属の堆積は中国大陸起源とする浮遊微粒子が広く飛散し、大気降下物として日本列島に飛来・蓄積してたものと考えられます。
 山岳地帯は住者も殆どいないため手付かずの自然が残されていると考えられてきました。しかし、今回明らかにした大陸からの大気降下物は窒素やリンなどの栄養物質も運んでいます。実際、八幡平の山岳湖沼ではこれら大陸からの大気降下物の影響で過去30年間に窒素やリンが増加し、植物プランクトンだけでなくそれを餌とするミジンコも増加するなど富栄養化が進行していることがわかりました。なお、幸いなことに、湿原土壌は栄養物質のなかでもリンを吸着する性質があるため、湿原に囲まれた八幡沼では富栄養化の進行は顕著ではありませんでした。この結果は、山岳地帯にある湿原は大気降下物の影響を緩和するうえで重要な機能を担っていることを示唆するものです。

【今後の展望】
 SbやInは人に対する毒性も報告されています。しかし、今回明らかとなったこれら微量金属の大気降下の増加が人の健康や生態系にどのような影響を及ぼしつつあるのかはよくわかっておらず、今後の研究が待たれます。また、八幡平では大気降下物により山岳湖沼で富栄養化が進行していることがわかりましたが、これは大陸起源の大気降下物が我が国の自然や生態系にも着実に影響を及ぼしつつあることを示しています。この研究成果は、生態系の保全には地域だけでなく大気降下物の発生地域を含めた広域的な取り組みが必要であることを示しています。大気降下物の起源・由来や降下量だけでなく、その生態系への波及効果の解明は人の健康や我が国の自然生態系保全のためにも喫緊の課題です。

【発表論文】
 八幡平湖沼でのアンチモンインジウムの蓄積に関して発表した論文
  Kuwae,M.,Tsugeki,N.K.,Agusa,T.,Toyoda,K.,Tani,Y.,Ueda,S.,Tanabe,S.,and Urabe,J.(2013) Sedimentary records of metal depositions in Japanese alpine lakes for the last 250 years:Recent enrichments of airborne Sb and In in East Asia.Science of the Total Environment,442,189.197

 八幡平湖沼の大気降下物による富栄養化について発表した論文
  Tsugeki,N.K.,Agusa,T.,Ueda,S.,Kuwae,M.,Oda,H.,Tanabe,S.,Tani,Y.,Toyoda,K.,Wang,W.L.,and Urabe,J.(2012) Eutrophication of mountain lakes in Japan due to increasing deposition of anthropogenically produced dust.Ecological Research,27:1041−1052.

【本研究の主な研究費】
 ・環境省 地球環境研究推進費(D−1002)「湖沼生態系のレトロスペクティブ型モニタリング技術の開発」(研究代表者 占部城太郎)
 ・文科省 科学研究費補助金 基盤研究A「地球・地域環境変化と生物進化:ミジンコ休眠卵を用いた分子古生物学的解析」(研究代表者 占部城太郎)


 ※参考画像は添付の関連資料を参照


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