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京大、ヒトのミトコンドリアでNADPを合成する酵素を特定しNADPの供給源を解明

2012-12-11

ヒトのミトコンドリアにおけるNADP供給源の特定とその意義



 村田幸作 農学研究科教授、河井重幸 同助教らの研究グループは、ヒトのミトコンドリアでNADPを合成する酵素を特定し、NADPの供給源を明らかにしました。

 本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」の12月4日付オンライン版にオープンアクセス誌として掲載されました。


<研究のトピックス性>
 ヒトを含めた真核細胞は、分裂し、増殖するオルガネラ:ミトコンドリア(Mt)をもちます。Mtは糖や脂肪酸を燃焼させ、エネルギー(ATP)を産生する重要な機能を担っています。そのため、Mtでは、NADやNADPを補酵素とする酵素によって多様な酸化還元反応が進行しています。しかしながら、ヒトMtにおいてはNADPの供給源が不明であり、Mtの機能解析の大きな障害となっていました。本研究では、ヒトMtに酵素NADキナーゼを発見し、NADPの供給源を明らかにしました。これにより、Mt機能の理解を深める大きな端緒を与えました。


<研究の背景と目的>
 Mtでは多種多様な酸化還元反応が稼働していますが、その酵素反応に必要なNADPの供給源が不明でした。ヒトと同じ真核生物である植物では細胞質、葉緑体、ぺルオキシソームに、酵母では細胞質とMtにNADキナーゼが存在し、その反応によってNADPが供給されます。しかし、ヒト細胞では、細胞質に1個のNADキナーゼ(「ヒトNADキナーゼ」と称される)の存在が知られているのみで、NADキナーゼの遺伝子も1個しかないとされてきました。これでは、MtにおけるNADP(H)供給源がなく、Mtの機能を説明することができません。そこで、ヒトMtに局在するNADキナーゼの特定とその機能に関する研究を進めました。


<研究の成果>
 ヒトのタンパク質C5orf33が、Mtに局在するNADキナーゼであることを証明しました。実際、C5orf33はMt標的配列をもち、そのMt局在性も免疫学的手法で確認しました。また、C5orf33はMt内の生理条件下で高活性を示し、ほとんどの臓器で(上記の細胞質性「ヒトNADキナーゼ」よりも)強く発現していることが確認できました。さらに、C5orf33は、ATPよりもポリリン酸[Pi]nに高い活性を示す原核細胞型の酵素であり、ヒトのMtが原核細胞由来であることを示唆しました。これらの成果により、ヒトMtの機能と起源を研究する基礎が築かれました。


<学術的/社会的重要性と波及効果>
 ヒトMtの機能と起源を理解する学術的に重要な成果が得られました。また、Mtの機能低下(特に、Mtで発生する活性酸素やそれに起因したATP生産能の低下)は、アルツハイマー病、パーキンソン病、老化、糖尿病、動脈硬化、心不全、癌など、多くの疾病「ミトコンドリア病」を引き起こします。NADP(H)は、エネルギー生産反応や活性酸素消去反応にも関与しており、かかる疾病に対する新たな予防・治療法の開発が期待されます。

 ヒト細胞のミトコンドリア(Mt)は、外膜と内膜に囲まれ、内膜は複雑なクリステ構造をとります(図1)。独自のDNA(mtDNA)を数コピー持ち、分裂し、増殖します。細胞質に数千個存在するMtは、糖や脂肪酸からエネルギー(ATP)を産生する重要な機能をもちます。したがって、Mt内では多種多様な酸化還元反応が稼働していますが、その酵素反応に必要な補酵素(NADとNADP)の中、NADPの供給源が不明なため、Mt機能の解析の妨げになっていました。

 ※図1は添付の関連資料を参照

 NADPは、酵素NADキナーゼが触媒する反応(NAD+ATP→NADP+ADP)で合成されます。しかし、ヒト細胞では細胞質に1個のNADキナーゼがあるのみで、Mtでの存在は不明でした(図2)。真核生物細胞では、細胞質と各種オルガネラにNADキナーゼが存在しています(図2)。Mtの機能を考えた場合、ヒト細胞のMtにNADキナーゼが存在しないということは想定し難いです。

 ※図2は添付の関連資料を参照

 そこで、ヒト細胞のNADキナーゼを詳細に調べた結果、C5orf33がMtのNADキナーゼと特定されました。実際、C5orf33はMt輸送配列をもち、Mt局在性も証明されました。つまり、C5orf33は細胞質で合成された後、Mtに輸送されます(図3)。また、C5orf33はMt内の生理的条件下で機能し、ほぼ全ての臓器での発現が確認されました(図4)。C5orf33は、ATPに加えてポリリン酸(リン酸重合体)も利用する原核細胞型の酵素であり、ヒトMtの起源に関しても新たな視座を提供しました。以上の結果、MtにおけるNADPの供給源が明確になり、Mtの機能を明らかにする基盤が築かれました。

 ※図3・図4は添付の関連資料を参照

 Mtの機能低下(ATP産生能の低下、活性酸素種の生成)は、多くの疾病(ミトコンドリア病)を引き起こします。本研究成果により、Mt内の酸化還元反応や活性酸素消去反応のより詳細な解析が可能となり、これら疾病の新しい予防・治療法の発展が期待されます。


<注釈>
 ◆NADキナーゼ
  NADP合成反応(NAD+ATP→NADP+ADP)触媒する。

 ◆高い活性
  NAD+[Pi]n→NADP+[Pi]n−1


  ・京都新聞(12月5日 28面)に掲載されました。


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