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産総研、完全閉鎖型の虫こぶ内のアブラムシ集団存続の謎を解明

2012-11-20

昆虫が植物の性質を改変し、究極の「巣ごもり」生活を実現
−完全閉鎖型の虫こぶ内のアブラムシ集団存続の謎を解明−


<ポイント>
 ・植物組織からなる虫こぶがアブラムシの液体排泄物を吸収除去するという生物機能を発見
 ・昆虫が植物の形態や生理状態を変化させて生存に有利な生息環境を実現
 ・外部要因による植物機能の操作機構の理解に光を当てる新しい知見


<概要>
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)生物プロセス研究部門【研究部門長 鎌形 洋一】生物共生進化機構研究グループ 沓掛 磨也子 研究員、深津 武馬 研究グループ長らは、ある種のアブラムシが植物組織に形成する虫こぶ(巣)では、内部に蓄積すると致命的になり得る液体排泄物が、虫こぶの内壁組織によってすみやかに吸収除去されるという新しい現象を発見した。

 植物の汁を唯一の食物源とするアブラムシは、大量の液体排泄物(甘露)を排出する。アリが甘露を摂食するかわりにアブラムシを外敵から守るという共生関係はよく知られている。アブラムシの中には植物に寄生して虫こぶをつくり、その中で集団生活を営む種があるが、その多くは兵隊幼虫が虫こぶの開口部から甘露を捨てて処理している。ところが開口部のない完全閉鎖型の虫こぶをつくる社会性アブラムシもおり、それらの閉ざされた虫こぶ内部で甘露がどのように処理されているかはわかっていなかった。今回の研究成果は、ある種のアブラムシが植物の形態や生理状態を巧妙に操作して、虫こぶが甘露を吸収する能力をもつように誘導することを示唆しており、植物の形態形成や機能改変の理解に新たな光を当てる知見である。

 なお、この研究成果は、2012年11月14日(日本時間)に英国の学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載される。

 〔図1 さまざまなアブラムシの虫こぶ〕

  ※添付の関連資料「図1」を参照


<研究の社会的背景>
 昆虫類は長い進化の過程でさまざまな環境に適応するため、巧妙な生物機能を獲得してきた。人類はこのような優れた生物機能に着目し、これまでにカイコやミツバチなどの昆虫について産業利用に成功している。しかし、地球上には100万種をはるかに超える多種多様な昆虫が存在しており、数多くの興味深い生物現象、新しい生物機能、それらの基盤となる遺伝子資源はいまだほとんど手つかずのままである。

 一方、ほとんどの生物は単独で存在しているわけではなく、生物間で複雑かつ巧妙な相互作用を及ぼしあいながら、現在のような姿に進化してきた。このような生物間相互作用は密接なものから緩やかなものまでさまざまであるが、昆虫のような生物が、植物のようなほかの生物の生理状態に影響を及ぼし、自分に都合の良いようにその形態や性質を変えてしまう場合がある。このような現象は基礎生物学的に興味深いだけでなく、生物の形態や発生、機能を外部要因によって制御するという応用面での展開も想定されるため、その解明が待たれている。


<研究の経緯>
 産総研ではさまざまな昆虫類を対象に、密接な生物間相互作用をともなう興味深い生物現象に着目して研究を展開している。虫こぶを形成する社会性アブラムシについては、これまでにも新規かつ複雑で巧妙な生物機能の解明に取り組んできた(2004年7月27日、2009年2月25日産総研プレス発表)。今回の発見は、これらの研究の一環として得られた。なお、本研究で実施した野外実験は、産総研の規程に従い、正式な承認を得て行ったものである。

 モンゼンイスアブラムシは、イスノキという常緑樹に中空の虫こぶを形成して、時には2,000匹を超えるアブラムシが集団生活を営んでいる。アブラムシにとって虫こぶは、外敵や環境変動から身を守ってくれる防護壁であるだけでなく、内壁に口針を刺すだけで植物の汁を吸うことができる食物の供給源でもある。

 虫こぶの形は、それをつくるアブラムシの種によって大きく異なるため(図1)、植物の特殊な形態形成へのアブラムシの関与が推測される。モンゼンイスアブラムシは、開口部のない完全閉鎖型の虫こぶを形成する(図1a)。虫こぶが成熟して開口部が形成され、有翅型のアブラムシが飛行分散を始めるまで、少なくとも2年以上にわたり完全閉鎖のまま外部の環境から隔離されている。ここで問題となるのは、このアブラムシは排泄物である甘露をどのように処理しているのかという点である。一般にアブラムシ類は糖分を多く含む液状の甘露を大量に排泄する。出口のない完全閉鎖型の虫こぶの中での長期にわたる集団生活で、アブラムシが自らの甘露の蓄積でおぼれ死ぬような危険性がないか、またどのような仕組みで回避されているかなどはわかっていなかった。



※以下、「研究の内容」などリリースの詳細は添付の関連資料を参照


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