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産総研、半導体炭化ケイ素(SiC)に微量添加された窒素ドーパントの格子位置を決定

2012-11-20

半導体炭化ケイ素(SiC)に微量添加された窒素ドーパントの格子位置を決定
−超伝導体で明らかにする半導体SiCのナノ微細構造−



【ポイント】
 ・超伝導X線検出器を搭載したX線吸収微細構造分光装置(SC−XAFS)の公開を開始
 ・炭化ケイ素中の微量窒素ドーパントの格子置換位置を実験と第一原理計算から決定
 ・低電力損失のパワーデバイスの実現などを通じて省エネルギー社会実現に貢献


<概要>
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)計測フロンティア研究部門 大久保 雅隆 研究部門長らは、大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構【機構長 鈴木 厚人】(以下「KEK」という)物質構造科学研究所、株式会社イオンテクノセンター【代表取締役社長 石垣 祐紀】(以下「イオンテクノセンター」という)と共同で、超伝導検出器を搭載したX線吸収微細構造分光装置(SC−XAFS)を開発し、ワイドギャップ半導体である炭化ケイ素(SiC)の機能発現に必要な、イオン注入された窒素(N)ドーパント(微量不純物原子)の微細構造解析に成功した。

 ワイドギャップ半導体パワーデバイスは、電力損失の低減により、二酸化炭素排出の抑制に貢献すると期待されている。代表的なワイドギャップ半導体材料であるSiCを使ってデバイスを作製するには、ドーパントをイオン注入により添加して、電気的特性を制御するドーピングを施す必要がある。注入されたドーパントは、結晶中で所定の格子位置を占める必要があるが、これまで格子位置を決定できる微細構造解析手法はなかった。今回、SC−XAFSにより、SiC結晶中の微量NドーパントのX線吸収微細構造(XAFS)スペクトルを測定し、第一原理計算との比較からNの格子位置を決定した。SC−XAFSは、従来不可能であったNなどの微量軽元素が計測できるので、SiC、窒化ガリウム、ダイヤモンドなどのワイドギャップ半導体、モーター用磁性体、スピントロニクスデバイス、太陽電池などの計測分析への応用が期待される。

 この成果は、2012年11月14日(英国時間)にNature出版グループの学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載される。

 ※参考画像は添付の関連資料を参照


<開発の社会的背景>
 SiCは、一般的な半導体よりバンドギャップが広く、化学的安定性、硬度、耐熱性などに優れているため、高温動作可能な次世代の省エネルギー半導体として期待されている。近年、大型の単結晶基板が作製できるようになり、ダイオードやトランジスタといったデバイスの市販が実現したものの、半導体をデバイスに仕上げるために必要なドーピングが不完全で、本来SiCがもつ省エネルギー特性を完全には活かせていない。

 ドーピングは、微量不純物を母材の結晶格子中に入れ(置換)、電子が主に電気伝導に寄与する半導体(n型半導体)あるいは正孔が主に電気伝導に寄与する半導体(p型半導体)にする工程である。SiCは化合物であるため結晶構造が複雑であり、シリコン(Si)よりはるかにドーピングが難しい。さらに、ドーパントはホウ素、窒素、アルミニウム、リンといった軽元素であり、それらがSiC結晶中のSiサイト、あるいは炭素(C)サイトをどのように占めているかを計測する手段がないという問題があった。例えば、透過型電子顕微鏡では、母材を構成する軽元素と微量軽元素ドーパントの区別が困難である。ドーパントの格子位置を決定するには、元素特有の特性X線から特定元素のX線吸収微細構造を測定し、その元素の周りの原子配置や化学状態を調べられるX線吸収微細構造分光法(XAFS分光法)が有効である。しかし、これまで、母材中に大量に存在するSi、Cと微量軽元素の特性X線を識別することはできなかった。微細構造解析手段がないことは、ワイドギャップ半導体開発における障害であった。


<研究の経緯>
 産総研は、工業製品の研究開発や科学の研究に使われる先端計測技術の開発、共用公開、標準整備を進めている。その一環として、超伝導計測技術を活用したSC−XAFSの開発に取り組み、2011年に装置を完成させた。Nは原子番号がCより1つ大きく、特性X線のエネルギーは392 電子ボルト(eV)であり、Cの277eVとの差は115eVである。最新の半導体X線検出器のエネルギー分解能は50eV程度であり、この差より小さい。しかし、この分解能では、軽元素の量が多い場合には区別できるが、ドーパントのような微量軽元素の特性X線は、母材を構成する多量の軽元素からのX線に埋もれて識別できない。これに対して、産総研の開発した超伝導X線検出器は、半導体X線検出器の理論限界を超える分解能をもち、SiC中のNドーパントのXAFSスペクトルを測定できる(産総研TODAY Vol.12 No.3)。

 このSC−XAFSは、KEKフォトンファクトリーのビームラインBL−11Aに設置し、2012年から、産総研先端機器共用イノベーションプラットフォームやナノテクノロジープラットフォーム事業 微細構造解析プラットフォームといった制度にて共用公開を始めている。ほかにこの種の先端計測分析装置をもつのは米国のAdvanced Light Sourceだけであり、主要な技術である超伝導検出器の開発まで行えるのは産総研だけである。イオンテクノセンターは、SiCなどへのイオン注入技術や熱処理技術を開発して、ユーザーに提供してきた。


<研究の内容>
 図1(a)は、超伝導アレイ検出器の各素子のエネルギー分解能値をヒストグラムにしたものである。半導体の50eVという限界を超える最高10eVの分解能を有する超伝導アレイ検出器により、大量にあるCと微量のNを識別し(図1(b))、第一原理計算との比較が可能な精度のXAFSスペクトルを取得することができた(図2(a))。

 500℃の温度でNドーパントをイオン注入したSiCウェハー、およびイオン注入後に1400℃と1800℃で熱処理したウェハーのXAFSスペクトルを測定した(図2(a))。実験結果は、NがCサイトを占めていると仮定したFEFFによる第一原理計算結果(図2(b))と一致しており、Nは、イオン注入された直後から、ほぼ完全にCサイトを占めていることが確認された。SiCへのドーピングでは500℃という高温でのイオン注入が必要であるという経験的事実は知られていたが、その理由は不明であった。今回明らかになったその理由は、高温での熱処理前にNがCサイトを占めておく必要があることである。さらに、400eV以下におけるスペクトル形状から、イオン注入直後の結晶構造が乱れた状態では、CとNの間に化学結合が生じていると考えられる。高温での熱処理によって結晶の乱れが回復するとともに、この化学結合は消失し、ドーピングに望ましいNとSiの化学結合のみが残るようになる。このように、SiCへのドーピングでは、熱処理によりドーパント原子の格子置換を促進するだけでよいSiの場合とは全く異なる微細構造変化をともなうことが明らかになった。

 今まで測定例がなかったSiCにイオン注入された微量Nドーパントの格子位置を決定することができた。また、Nドーパントと母材のSiやCとの化学結合状態の変化が明らかになった。SC−XAFSと第一原理計算を組み合わせることにより、これまで不可能であった、結晶中に存在する微量軽元素の検出と微細構造解析が可能なことを実証した。


 ※以下、図入りの<研究の内容>などリリースの詳細は添付の関連資料を参照


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