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東大、太陽系外の複数惑星系で惑星同士の食を初めて発見

2012-11-17

太陽系外の複数惑星系における惑星同士の食を初めて発見


<発表者>
 平野 照幸(東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 博士課程3年)
 増田 賢人(東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 修士課程1年)
 須藤 靖(東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 教授)


<発表のポイント>
>太陽系外の複数惑星系における2つの惑星がほぼ同一平面上を公転しており、かつそれが(太陽系の太陽に当たる)中心星の自転軸と直交している初めての観測的証拠を得た

>中心星の前を惑星が通過するトランジット現象が2つの惑星に対して同時に起こり、かつその最中に2つの惑星同士もまた食を起こすという極めてまれな現象を初めて発見し、2つの惑星の公転面がよく一致していることを示した

>数多くの太陽系外の木星型惑星は、まず中心星から遠く離れた場所で誕生し、その後中心星に向かって徐々に落ち込んで来たものと考えられている。複数の惑星の公転軸と中心星の自転軸が揃っているという事実は、その軌道進化モデルに対して数少ない直接的な観測的制約を与える


<発表概要>
 東京大学大学院理学系研究科 博士課程大学院生の平野照幸氏らのグループは、太陽系外にある4重惑星系候補であるKOI−94(Kepler Object of Interest カタログの94番)を2012年8月10日にすばる望遠鏡で観測し、内側から3番目に位置する惑星の公転軸と中心星の自転軸がほぼ平行であることを発見した。
 米国のケプラー衛星(注1)によって定期的にモニター観測・公開されているこの中心星の明るさの変化のデータから、この系には周期的に中心星の前を横切る「トランジット現象」を起こす惑星(トランジット惑星)が4つ存在していることはすでに知られていた。平野氏は、この公開データを再解析することで、2010年1月14日から15日にかけて、内側から3番目(公転周期約22日)と4番目(公転周期約54日)に位置する2つの惑星が同時にトランジットを起こし、かつさらにそれら同士もまた互いに食を起こすという極めてまれな現象が起こっていることを見いだした(添付図3、4参照)。

 これは2つの惑星の公転軌道面がほとんどぴったり一致していない限り説明できないことが推測できる。そこで、実際に観測データを詳細に解析した結果、この2つの惑星は同じ向きに公転しており、それらの公転軌道面は2度以下の精度で一致していることがわかった。さらにすばる望遠鏡の観測結果と組み合わせれば、太陽系と同じく、中心星の自転軸と、複数の惑星の公転軸が高い精度で揃っていることが結論づけられた。

 この発見は、複数惑星系の形成・進化モデルに対する重要な観測的制約である。また、今から約14年後(西暦2026年)に、この系において惑星同士の食が起こるものと予想される。


<発表内容>
 1995年に初めて発見された太陽系外惑星は、今や800個近くを数える。その主な検出法は2つ、ドップラー法(惑星が中心星の回りを公転する反作用で中心星が周期的にふらつく速度をドップラー効果で観測(注2)とトランジット法(惑星が中心星の前面を通過する際に、中心星の一部が周期的に暗くなることを観測(注3)である。トランジット法は、観測者がほぼ惑星の公転面上にないと観測できないため確率は低いものの、速度を検出するために必要な分光器が不要であるため観測は容易である。さらに、2009年に打ち上げられた米国のトランジット観測専用衛星ケプラーによって、2000個以上ものトランジット惑星候補が発見されている。それらはKOI−N(Kepler Object of InterestのN番目)という名前と番号がつけられ、その後ドップラー法等でトランジット惑星であることが確認されると、Kepler−N"という名前になる。

 今回の対象であるKOI−94は、特に4つのトランジット惑星が存在すると考えられている複数惑星系候補であった。KOIカタログには全部で365個の複数惑星系候補があり、そのうち約30個はドップラー法等によりすでに惑星系である事が確認されている。複数の惑星がトランジットを起こしているということは、それらがほぼ同じ平面上を公転している可能性が高い(しかし、後述するように別の平面上にあってもたまたまトランジットを起こしている可能性は否定できない)。そこで、次に研究グループが着眼したのは、中心星の自転軸と惑星の公転面の関係である。

 太陽系では、水星を除く7つの惑星の公転面は約3度の範囲内で一致しており、かつそれらは(水星の公転面を含めて)太陽の自転軸と約7度の範囲内で直交している。実際、標準的な惑星形成モデルによれば、中心星と惑星はともに、回転する円盤状のガス雲から誕生するため、中心星の自転軸と惑星の公転軸(公転面に垂直な軸)はそろっていることが予想される。一方、惑星系のその後の進化にともなって、木星程度の比較的大きな惑星が中心に落ち込むことによって、複数の惑星同士の公転軸が大きく変動する可能性がある。つまり、中心星の自転軸と惑星の公転軸のなす角度を推定できれば、惑星系の進化に対する重要な観測的制約を与えることになる。

 それを可能とするのがロシター・マクローリン効果(以下RM効果(注4)で、1924年に2重連星系(2つの星がお互いを周る系)に対して提案され、太陽系外の惑星系に対しては、2000年に同効果が初めて検出された。その後2005年に研究グループがそれを解析的に記述する近似公式を発表して以来、世界中で数多くの観測が行われている。研究グループもすばる望遠鏡を用いて、すでに10個の系外惑星系に対してRM効果を検出している。しかし、それらはいずれもトランジット惑星が一つしか発見されていない系であり、これまで世界で複数トランジット惑星系に対するRM効果の観測はなされていなかった。

 そこで研究グループは、2012年8月10日(グリニッジ標準時)に、すばる望遠鏡でKOI−94の内側から3番目の惑星候補(KOI−94.01:公転周期22日)のRM効果を観測した。その結果、KOI−94.01の公転軸と中心星の自転軸とは約10度以内の精度でそろっていることが明らかになった。さらに、それに先立ちケプラー衛星の公開データを調べた際に、この惑星系KOI−94は、2010年1月14日から15日にかけて、ガス惑星KOI−94.01と内側から4番目のガス惑星(KOI−94.03:公転周期54日)が同時にトランジットを起こしており、かつそれら同士が互いに重なって見える食を起こしていた(添付図3、図4)という新たな事実を発見した。

 そもそもトランジットは、太陽系において2012年6月6日に起こった金星の太陽面通過と同じ現象である。次回の金星の太陽面通過が2117年であることからも、その確率の低さがわかる。また、水星も同じくトランジットを起こし、その頻度は1世紀あたり13回、あるいは14回である。そしてこれら金星と水星が同時にトランジットを起こすのは、西暦69163年7月26日と西暦224508年3月27日である(ウィキペディアによる)。KOI−94.01とKOI−94.03の同時トランジットも同様に非常に稀な現象である。しかも、今回はその稀な同時トランジット中にKOI−94.03がKOI−94.01を追い越し、その途中で2つの惑星が重なって見える、いわば惑星同士の食まで起こしている現象まで観測された。

 このような系が存在し、かつ同時トランジットと惑星同士の食が同時に起こっている現象を観測できることは、信じがたいほどの低確率である。この現象を詳細に解析したところ、すばる観測からKOI−94.01の公転軸と中心星の自転軸が、またケプラー衛星観測からKOI−94.01とKOI−94.03の公転軸が、それぞれそろっていることが発見された。その結果、この複数惑星系は、太陽系と同様に、中心星の自転軸と惑星系の公転軸がほぼそろっていることが初めて直接的に確認された例となった。

 これは既存の標準的な惑星形成モデルと一致しているように思われるかもしれないが、実は新奇な点もある。木星サイズのガス惑星が12年周期の遠方に位置している太陽系とは異なり、この惑星系ではわずか22日周期のごく近くにガス惑星が存在している。これは、遠方で形成された惑星が、時間をかけて中心星近くまで移動したものと解釈できる。これまでに多数観測されているそのような系(ただし一個の惑星しかない場合)では、その移動中に中心星の自転軸と惑星の公転軸が大きくずれる場合があることが観測的に知られている。ところが、今回観測した惑星系では、中心星近くにガス惑星が位置しているにもかかわらず、自転軸と公転軸との大きなずれはみられなかった。

 今回の結果とこれまでの結果の違いが単独惑星系と複数惑星系の違いに起因するのか、あるいは単なる偶然であるのか、現時点では説明する理論は存在しない。その意味でも、この特別な系の発見は複数惑星系の形成・進化モデルに対して重要な観測的制約を与える。ちなみに、この複数惑星系で惑星同士の食が次回観測できるのは、今から14年後の2026年である。天文学において、太陽系以外の天体に対してこのような具体的な予言ができる例はほぼ存在しない。その意味でも次回が大いに期待される。


 ※図1〜5は添付の関連資料を参照


<発表雑誌>
 雑誌名:
 The Astrophysical Journal Letters(米国天体物理学雑誌)759巻、2012年11月10日号、L36(5pp)
 論文タイトル:
 PLANET−PLANET ECLIPSE AND THE ROSSITER−MCLAUGHLIN EFFECT OF A MULTIPLE TRANSITING SYSTEM: JOINT ANALYSIS OF THE SUBARU SPECTROSCOPY AND THE KEPLER PHOTOMETRY
 著者:
 平野照幸(東大理)、成田憲保(国立天文台)、佐藤文衛(東工大理)、高橋安大(国立天文台、東大理)、増田賢人(東大理)、竹田洋一(国立天文台)、青木和光(国立天文台)、田村元秀(国立天文台)、須藤靖(東大理)

 アブストラクトURL http://jp.arxiv.org/abs/1209.4362


<用語解説>
注1:ケプラー衛星2009年にアメリカのNASAによって打ち上げられた、トランジット惑星系探査専用の宇宙望遠鏡(添付図1参照)。白鳥座方向の領域の約15万個の星を常に監視し、星の明るさの変動の観測から恒星面上を通過する惑星候補天体を探している。2012年の10月までに約2300個のトランジット惑星候補天体を発見している。

注2:ドップラー法ある恒星の周りに惑星が存在すると、惑星の重力によって恒星がゆらされる。その恒星を我々の方向から見ると周期的に近づいたり遠ざかったりするため、これが光のドップラー効果として観測される。このドップラー効果を使って惑星の存在を間接的に発見する事が出来る。

注3:トランジット法ある恒星の周りを公転する惑星が、たまたま恒星の前を通過した際に起こる星の減光(トランジット)を周期的に捉える事で惑星の存在を見つける方法(添付図2参照)。

注4:ロシター・マクローリン(RM)効果恒星は一般に自転しているため、我々の方向から見て恒星面は近づく側と遠ざかる側に分かれる。惑星が恒星面上を通過してトランジットが起こる時、恒星面のうち近づく側を惑星が隠すと、恒星は見かけ上遠ざかって観測される(波長が長い側にドップラー効果を起こす)。一方トランジットの際、恒星面のうち遠ざかる側を惑星が隠すと、恒星は見かけ上近づいて観測される(添付図5参照)。これは見かけ上のドップラー効果であるが、この観測から星の自転軸と惑星の公転軸がどのような関係になっているかを測定する事が出来る。図5では左側が中心星の自転軸が惑星の公転軸とそろっている場合で、右側がずれている場合。補足資料1も参照の事。


<補足資料>
 補足資料1:RM効果の説明資料(2005年10月の記者発表に使用)
 補足資料2:今回の発見に関する説明資料

 ※添付の関連資料を参照

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