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理化学研究所とNEC、量子ビットを高精度に読出すための手法を実証し動作を実証

2012-11-12

量子ビットを高精度に読出すための新回路を作製し、その動作を実証
量子ビット読出し手法の有力候補である「分散読出し」で新手法−


◇ポイント◇
 ・高エネルギー準位を用いた検出信号の増大理論を初めて実証
 ・読み出し信号を5倍以上に高め、精度90%での量子ビット読出しを達成
 ・計算エラー訂正に必要とされる1回の試行での高精度読出しに応用可能


 理化学研究所(野依良治理事長)と日本電気株式会社(NEC、遠藤信博社長)は、量子ビット(※1)のエネルギー緩和率(※2)を増大することなく量子ビットの読出し信号を増大させる手法を実証し、量子ビットの読出し精度90%を達成しました。これは理研基幹研究所(玉尾皓平所長)物質機能創成研究領域 単量子操作研究グループ 巨視的量子コヒーレンス研究チームのツァイ ヅァオシェン(蔡 兆申)チームリーダー(NEC中央研究所 スマートエネルギー研究所主席研究員兼務)らの研究チームの成果です。

 PCをはじめとするコンピュータのほとんどは、0または1を記憶する「ビット」と呼ばれるものを、情報の基本単位として動作します。次世代コンピュータとして研究が盛んな量子コンピュータ(※3)において、ビットに相当するのが「量子ビット」であり、その量子ビットの状態の正確な読出しが、量子コンピュータの実現に向けた重要な課題です。現在、有望な手法として、量子ビットとLC共振器(※4)を結合させ、量子ビットの状態に応じて共振器の共振周波数が変化することを利用する「分散読出し(※5)」と呼ばれる方法が盛んに研究されています。分散読出しの場合、量子ビットの状態を判別するための信号強度は、量子ビットと共振器の結合を強くしたり、量子ビットと共振器の共振周波数を近づけることで大きくできます。しかし、どちらの方法も量子ビットのエネルギー緩和率を増大させるという欠点がありました。この欠点を克服するために、2007年に米国のイェ―ル大学の研究グループは、「量子ビットの高エネルギー準位状態を用いる手法」を理論的に提案していましたが、実証には至っていませんでした。

 研究チームは、磁束型量子ビット(※6)とLC回路をコンデンサーで介して接続した回路を作製して実験したところ、読出し信号を5倍以上に高め、また、実際に量子ビットを90%の精度で読出すことに達成しました。

 今回の成果は、量子計算のエラー訂正において必要となる「1度の試行による高精度読出し(※7)」にも応用できます。

 本研究の一部は、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「量子サイバネティクス−量子制御の融合的研究と量子計算への展開−」と、内閣府最先端研究開発支援プログラム(FIRSTプログラム)「量子情報処理プロジェクト」として行ったもので、本研究成果は、米国の科学雑誌『Physical Review B Rapid Communications』のオンライン版(10月26日付け:日本時間10月27日)に掲載されました。


1.背景
 量子コンピュータの実現には、量子ビットの状態を正確に読み出す技術が欠かせません。超伝導体を用いた量子コンピュータ研究では、その有力候補に「分散読出し」と呼ばれる方法があります。分散読出しとは、量子ビットとLC共振器が結合した回路(図1)において、量子ビットの状態に応じて共振器の共振周波数が変化することを利用するものです(図2)。量子ビットが0状態のときと1状態のときの共振周波数の差(f0とf1の差)が読出し信号に相当するため、その差が大きいほど量子ビットの区別は容易になり、読出し精度が向上します。読出し信号の強度は、(1)量子ビットと共振器の結合を強くする、(2)量子ビットと共振器の共振周波数(図1のωqubitとωresonator)の差を小さくすることで大きくなります。しかし、どちらの方法も量子ビットのエネルギー緩和率が増大するという問題がありました。一方で第3の方法として、2007年に米国のイェ―ル大学の研究グループが「量子ビットの0状態と1状態よりもさらに高いエネルギーを持つ状態からの効果」を用いる方法を理論的に提案しました。この方法は、(1)、(2)の方法と異なり、量子ビットのエネルギー緩和率を増加させることなく、読出し信号を増大できますが実証されていませんでした。この方法で読出し信号の強度増大を実現するために必要となる回路のパラメータが、量子ビットの種類によっては実現困難なこと、また仮にその条件を満足できたとしても、量子ビットと共振器の結合方式によっては、その増大の度合いがさほど大きくならないことが原因と考えられます。研究チームは、この「量子ビットの高エネルギー準位状態を用いる手法」の実証に挑みました。


2.研究手法と成果
 詳細な理論解析により、量子ビットとLC共振器をコンデンサーで介して接続すると、量子ビットの高エネルギー準位が読み出し信号の増幅に寄与することが分かっていました。そこで研究チームは、超伝導体のニオブで作製したLC共振器と超伝導体のアルミニウムで作製した磁束型量子ビットを、コンデンサーを介してお互いに結合する回路を作製しました(図3)。この回路の特徴は、量子ビットとして磁束型の量子ビットを用いていること、量子ビットと共振器の結合を、従来磁束量子ビットに対して用いられていたコイルではなく、コンデンサーを用いたことにあります。

 作製した回路を用いて実験したところ、量子ビットの状態0と状態1の共振周波数の差(読出し信号)が、80メガヘルツとなりました(図4a)。高エネルギー準位からの寄与が全く無いと仮定した計算値14メガヘルツと比較すると、5倍以上も読出し信号が増大していることになります。

 次に、この大きな読出し信号を用いて量子ビットを実際に読出す実験を行いました。量子ビットの状態を状態0と状態1の間で遷移させるために、量子ビットマイクロ波パルスを照射させました。その結果、約90%の振動振幅を観測、つまり、読出し精度90%という高い値を実現しました(図4)。


3.今後の期待
 今回、測定系のノイズの影響を除去するために多数回の平均値を用いて測定しています。しかし、実際の量子コンピュータを用いて計算するときは、1度の試行による量子ビットの状態を高精度に決定することが要求されます。

 今後、本研究の回路にパラメトリック増幅器(※8)などの低雑音増幅器を用いることで、1度の試行による高精度読出しの実現を目指します。

 〔原論文情報〕
  K.Inomata,T.Yamamoto,P.−M.Billangeon,Y.Nakamura,and J.S.Tsai
  "Large Dispersive Shift of Cavity Resonance Induced by a Superconducting Flux Qubit in the Straddling Regime"
  Physical Review B Rapid Communications,2012,doi:10.1103/PhysRevB.86.140508



*以下の資料は添付の関連資料「補足説明/図1〜4」を参照
 ・補足説明
 ・図1 量子ビットとLC共振器を利用した分散読み出しのための回路の概念図
 ・図2 分散読出しの原理
 ・図3 本研究で作製した回路
 ・図4 作製した回路による分散読出しの実験結果


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