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NIMSと理化学研究所、ディスプレイの制御に必要な金属酸化膜トランジスタを開発

2012-10-23

ディスプレイの制御に必要な金属酸化膜トランジスタの開発に成功
スマートフォンの電池持続向上やテレビの高精細化を可能にする次世代デバイス〜



 NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の塚越 一仁 主任研究者らは、独立行政法人理化学研究所ナノサイエンス研究施設と共同で、従来にない原子材料構成による金属酸化膜トランジスタの開発に成功しました。


<概要>
 1.独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:潮田 資勝)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(拠点長:青野 正和)の塚越 一仁 主任研究者、生田目 俊秀 統括マネジャーらは、独立行政法人理化学研究所ナノサイエンス研究施設 柳沢 佳一テクニカルスタッフと共同で、従来にない原子材料構成による金属酸化膜トランジスタ(1)の開発に成功しました。

 2.金属酸化膜トランジスタは、現在のテレビ、コンピュータ、スマートフォンなどのフラットパネルの画素をスイッチ(2)するアモルファスシリコントランジスタ(3)の次世代材料として、研究・技術開発が進められています。現状のアモルファスシリコントランジスタを用いたディスプレイでは、高精細化やタッチパネル化によって消費電力が激しく増加しております。その特性の改善には限界があることから、アモルファスシリコン薄膜に代わる新材料が必要とされておりました。近年、インジウム、ガリウム、亜鉛、を酸化させて混合したターゲットからつくるIGZO膜トランジスタが高い電界効果移動度(4)で動作することが発見され、実用化展開のためのプロセス開発がすすめられております。しかし、金属酸化膜を半導体薄膜としてトランジスタ化するためには、材料の酸素や水分に対する制御が極めて難しく、これらの制御開発が課題となっていました。このために、扱いやすい原子で構成される新たな金属酸化膜で、トランジスタ動作が可能な材料の探索が続けられておりました。

 3.今回、我々は酸化インジウムに、酸化タングステンを極微量添加するだけで、薄膜トランジスタとして動作するIWO薄膜を開発しました。開発した材料には、アモルファス状態で制御が難しい元素であるガリウムや亜鉛を含みません。また、この新材料は、基板加熱などなしに低エネルギーでスパッタ成膜するだけで、均質なアモルファス膜を作ることができることから薄膜化が容易であり、従来よりも薄い膜厚10nmで保護膜なしの構造であっても、高い特性を有するトランジスタとして動作します。このため、原料単価の高いガリウムを省けるだけでなく、薄膜原料量も減らせることから材料コストを低減する効果もあり、製造効率も向上します。

 4.今回の成果は、爆発的に普及が進んでいるスマートフォンでのバッテリーの大きな消費源であるディスプレイの低消費電力化に有効なだけでなく、テレビの高精細化のための周波数向上に有効な技術として期待されます。

 5.これらの成果は、住友金属鉱山(株) 材料事業本部の協力を得て行った研究によって得られました。


<研究の社会的背景>
 フラットパネルの高精細化に伴い、フラットパネルでの消費電力が増大している。ピクセルの微細化に伴ったトランジスタの微細化が、現行材料であるアモルファスシリコン薄膜では特性限界によって律速され、光量を決める開口部が狭くなってしまう為である。また、タッチパネルのための透明電極も有限に光を遮るため、バックライトの発光を余分に強めなければならない。結果としてスマートフォンでは40〜45%の電力がパネルで消費され、連続使用時間が短くなり頻繁な充電が必要となってしまっている。タブレットPCでは、ディスプレイでの消費割合は更に高い。
 これらの課題を解決する材料として、金属酸化物薄膜の研究・開発が行われている。特に、平成16年に東京工業大学の細野教授グループが発明したIGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素)薄膜は、トランジスタチャネルとして電界効果移動度が高く、次世代薄膜トランジスタ用の材料として期待が高い。現在、大学や研究機関やパネル製造を目指すメーカーにて、実用化を目指した研究が続けられている。
 一般に、アモルファス薄膜は、膜を構成する原子間の結合が結晶とは異なり、乱れや欠陥が高密度に含まれ、トランジスタ特性(5)の制御が難しい。金属酸化膜も同様であり、乱れや欠陥が多く含まれる。そのうえ、アモルファスシリコン薄膜にはない新たな技術開発が必要となっている。元来、金属酸化膜では、欠陥に起因して伝導電荷が供給されて電気伝導が生じるため、トランジスタのスイッチ特性を示す閾値が、膜内の乱れや欠陥に起因したトラップによって影響されて一定化しない問題が生じる。その上、亜鉛のような特定の金属酸化膜の不安定性は制御が難しく、酸素等によって電気伝導特性が極めて大きく変化することが知られている。さらに、固体内での結合が不十分なガリウムもプロセス中の特性変化などが懸念されていた。このような背景から、IGZO薄膜のトランジスタ応用の開発が追及されていながらも、他材料の探索もなされていた。


<研究の内容>
 酸化インジウム粉末に酸化タングステンを少量添加して焼結したターゲットを用いて、スパッタ成膜法にてSiO2/Si基板上に薄膜を形成した。この薄膜上に電極を形成することで、薄膜トランジスタとして薄膜特性を調べた(図1、図2、図3)。
 薄膜はDCスパッタにて、アルゴンと酸素の混合ガスによって成膜した。膜厚は10nmである。保護膜等は形成せず、IWOチャネル膜に電極を直接形成した素子形状である。電極を形成した薄膜を窒素雰囲気100℃で熱アニールを行った。熱アニールの前後で、透過電子顕微鏡(TEM)観察ならびにX線回折にて、薄膜の結晶性を調べた。アニール前の膜では結晶粒は一切観測されず、100℃アニールを行っても膜質に明瞭な変化は起こらずアモルファス状態であった(図2)。作製した薄膜トランジスタを室温で特性計測したところ、極めて良好なトランジスタ特性を得た(図3)。電界効果移動度18cm2/Vs、閾値0.7V、電流on/off比8.9x109であり、実用化に十分な値を得ることができた。特に、この電界効果移動度は、従来のアモルファスシリコン薄膜トランジスタ(約0.5cm2/Vs)と比較して、数十倍の特性であり、素子サイズ縮小に大変有効である。また、on/off比も表示コントラストを得るために十分な値である。これらの特性は、従来の金属酸化膜トランジスタを低温アニールした素子の特性と比較して遜色なく、以下に述べるような構造上、およびプロセス上の優位性も有している。
 今回の開発材料の特徴的な点は、従来の金属酸化膜トランジスタと比較して、より薄い膜厚10nmで、保護膜なしの構造であっても、高い特性を有するトランジスタとして動作することである。従来の薄膜では通常50nm前後であり、特性を安定化させるために保護膜が必須となっている。この薄膜化は、料単価の高いガリウムを省けるだけでなく、薄膜原料総量も減らせることから材料コストを低減する効果もあり、製造効率も向上する。
 さらに、熱処理温度も低い。通常、酸化膜トランジスタのアニールには350℃等の高温アニールが必要とされていた。このため高温対応のアニール装置が必要なうえに、昇温降温を含めたアニール時間全体に要する時間がトランジスタ形成プロセス全体のスループットを低下させる要因ともなっていた。今回の新元素膜では、この点でも製造効率が向上する。また、耐熱温度の低いガラス以外の基板材料にもトランジスタを作れるようになる可能性を示唆している。
 そのうえ、酸やアルカリ溶液とへの過敏な反応を示す可能性のない元素だけで構成されているために、大型フラットパネル製造の効率製造に展開可能なウエットプロセスを適応できる可能性も期待できる。
 これらの特徴によって、新元素構成の酸化膜トランジスタでは、産業発展のために効果的な材料となる可能性が高い。


 ※以下の資料は添付の関連資料「図1〜3」を参照
  ・図1.試作素子の光学顕微鏡写真と模式図
  ・図2.透過電子顕微鏡(TEM)写真
  ・図3.トランジスタ特性


<波及効果>
 スマートフォンやタブレットPCのフラットパネルの消費電力を低下させ、それぞれの機器の充電頻度を低下させることが可能となる。これによって頻繁な充電の煩わしさが緩和され、機器のモバイル性が向上する。さらに、開発中の次世代高精細テレビでは、現在よりも精細度を上げるために必要な高い周波数応答が可能となるため、より美しい画像をデジタル機器で楽しめるようになる。
 また、高価なガリウムの原料消費低減も可能となり、リサイクル技術が既に開発されて原料コストを低減できているインジウムだけに依存することになる。

 フラットパネルの生産は国内では衰退の一方であるが、製造のためのスパッタ材料や関連装置は日本が中心であり、継続的に新技術の開発が必要とされている。フラットパネル全体では年間10兆円の産業と試算されており、新技術開発にて更なる発展に貢献する。


<謝辞>
 本研究成果は、住友金属鉱山株式会社 材料事業部の協力を得て行った研究によって得られました。


<用語解説>
 1)金属酸化膜トランジスタ
   酸化金属を焼結した原料から、スパッタや電子ビーム蒸着などによって成膜した薄膜を用いたトランジスタ。酸化インジウムと酸化亜鉛等を混合した薄膜等から研究が盛んになったが、薄膜成膜の際に結晶粒ができやすく、結晶粒界を制御することが難しかった。これに対して、東工大細野教授グループによって、インジウム、ガリウム、亜鉛の混合酸化膜(IGZO)から作製したトランジスタが均質なアモルファスとなり、移動度も高いことが見出された。この後、IGZO膜を用いた薄膜トランジスタの実用のための研究開発が広く続けられている。しかし、亜鉛は酸素と結合して完全な結晶になれば安定であるものの、アモルファス状の場合には、固体内で酸素等との結合が極めて不安定であることが知られていた。また、ガリウムも同様に、原子材料特有の特徴から制御が容易でなかった。このために、IGZOの制御法開発と同時に、他原子構成の酸化膜探索がなされていたが、良好な電界効果移動度と電流のon/off特性を有し、低温で製膜できる薄膜を見つけることは難しかった。(導電性酸化膜は多々あるが、電流onとoffを外部電界にて切り替える必要のあるトランジスタとしての膜仕様に十分な特性を示すことが難しかった。)

 2)フラットパネルの画素スイッチ
   フラットパネルディスプレイでは、液晶式もしくは有機EL式が使われている。画素を通る光の調整もしくは画素からの発光と機構は異なるものの、これらに共通して、各々の画素に表示を変えるためにスイッチトランジスタが配置されている。このトランジスタの製造プロセス条件は、基板の耐熱温度に制限され、ガラス上ではアモルファスシリコン薄膜が使われている。

 3)アモルファスシリコントランジスタ
   ガラス上に高スループットで作製できる薄膜トランジスタであり、現行のディスプレイのほとんどはアモルファスシリコンが使われている。電界効果移動度は一般的に0.5cm2/Vsであり、材料の特性として、移動度を向上させることはできない。このため、次世代フラットパネルへの適応ができなかった。アモルファス薄膜を成膜後に、表面をレーザー照射で多結晶化(ポリシリコン薄膜)させて移動度を向上させる方法もあり、一部の小型パネルに適応されているが、プロセスコストが高くなってしまう問題があった。このため、移動度が根本的に高い金属酸化膜へ期待が高まっている。

 4)電界効果移動度
   半導体トランジスタにおいて、ゲート電極に電圧を印加してトランジスタの伝導性をスイッチする際に、電流を担う電荷が如何に早く移動するかを示す指標。素子の材料や構造に大きく依存する。一般的な薄膜アモルファスシリコンの電界効果トランジスタでは0.5〜1(cm2/Vs)。

 5)トランジスタ特性(出力特性と伝達特性)
   ソース・ドレイン電極間の電流を、外部からゲート電極に電界を印加することで計測されるトランジスタの基本特性。出力特性はゲート電圧一定として、ソース・ドレイン電圧と電流の相関を計測し、伝達特性ではソース・ドレイン電圧一定として、ゲート電圧の変化による電流変化を計測する。トランジスタとしての特性は、一定のゲート電圧変化によって大きな電流変化が生じることが望ましく、電流のonとoffの大きな変調が起こることが、消費電力が小さく高速応答可能なトランジスタを作るために必要とされる。


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