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慶大、水素ガス吸入で心肺停止蘇生後の脳や心臓の障害を改善する効果を発見

2012-10-23

水素ガスにより心肺停止蘇生後の脳や心臓の障害を改善する効果を発見
−良好な社会復帰の可能性を向上する新たな治療法として期待−



 慶應義塾大学医学部循環器内科(佐野元昭専任講師、福田恵一教授)、同救急医学教室(林田敬助教、堀進悟教授)、日本医科大学大学院医学研究科加齢科学系専攻細胞生物学分野(上村尚美講師、太田成男教授)らの共同研究グループは、濃度2%の水素ガスを吸入することにより(注1)心肺停止から蘇生したあと(注2)の脳機能や心筋組織の後遺症を軽減し、生存率を改善することをラットにおいて発見しました。
 心肺停止は、たとえ救命できたとしても脳や心臓に重篤な後遺症を残し、社会復帰の可能性は低く予後(注3)は極めて不良です。現在、心肺停止に対する、唯一の効果的な治療法として低体温療法(注4)が行われていますが、手技自体が煩雑であり、手技に伴う合併症などのリスクが高く、低体温療法に代わる新しい治療法の確立が望まれています。
 本研究グループは、水素ガスの吸入によって脳や心臓の虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい:血流を再開させた結果、臓器の組織障害が進行する現象)を抑制することをラットによる実験で明らかにしてきました。
 今回の研究結果により、水素ガス吸入療法は、心肺停止から蘇生したあとの脳や心臓の機能低下を抑制し、生命予後の改善に効果がある可能性が示唆され、心肺停止蘇生後の患者さんの社会復帰率向上に向けての大きな一歩と考えられます。この治療法は濃度2%水素ガスを吸入するもので、爆発等の危険性はありません。
 本研究成果は、2012年10月16日(米国東部時間)に米国心臓病学会雑誌Journal of the American Heart Association オンライン版に公開されます。


1.研究の背景

 我が国での心肺停止(病院の外で起きるケース)は年間約12万例発生しています。AED(Automated External Defibrillatorの略、日本語では自動体外式除細動器という。)の普及により救命率は向上しているものの、心肺停止から蘇生したあとは脳や心臓に重篤な後遺症を残し、社会復帰の可能性は極めて低いことが大きな問題となっています。心肺停止から蘇生したあとの臓器障害に対する唯一の効果的な治療法として、大学病院や救命救急センターでは低体温療法が行われていますが、手技自体の煩雑さと手技に関連した合併症などのリスクの高さから、低体温療法に代わる新しい治療法の確立が望まれています。

 臓器への血液の流れが遮断されると、酸素の運搬が滞り組織は障害されます(梗塞)。組織障害を防ぐためには早期の血流再開が不可欠ですが、血流が遮断されていた組織に血液が流れると大量の活性酸素が発生して、組織障害が増悪(ぞうあく:さらに悪化すること)して、強い炎症反応がおこります。この現象を虚血再灌流障害と呼びます。虚血再灌流障害が関与する病気としては、脳梗塞、心筋梗塞、心肺停止蘇生後症候群、睡眠時無呼吸症候群などがありますが、心臓大血管手術、臓器移植の時にも術後の臓器機能回復を規定する重要な因子となっています。
 日本医科大学の太田成男教授らは2007年に、水素ガスに活性酸素を除去する作用があること、濃度2%程度の水素ガス吸入によってラットの脳梗塞を縮小させることを世界で初めて報告しました。
 (2007年、Nature Medicine)続いて、佐野元昭専任講師らは、水素ガス吸入がラットおよびイヌの心筋梗塞サイズを縮小させることを確認しました。
 心肺停止後、心肺蘇生法により幸運にも心拍が再開しても、心拍再開時に全身の臓器で起きる虚血再灌流障害が、蘇生後に重篤な後遺症を残す主要な原因となっています。本研究グループでは、心拍再開前後の水素ガスの吸入によって脳や心臓の機能低下が抑制できれば、蘇生後の後遺症を減少させ、生命予後を改善できるのではないかという仮説を立てて検証を試みました。
 ラットの心臓に電気刺激を加えることによって心室細動(注5)を誘発し、心肺停止モデルを樹立しました。そして、蘇生後の心拍再開前後における水素ガスの吸入が低体温療法と同程度に脳や心臓の後遺症を軽減させ、生命予後を改善させる効果があることを見出しました。


2.研究内容

 ラットを用いて心室細動による心肺停止モデルを作成し、5分間の心肺停止状態の後に胸骨圧迫や人工呼吸を行う心肺蘇生法を行いました。心肺停止から蘇生して24時間後、対照グループのラットでは全身のむくみや活動性の低下がみられましたが、心肺蘇生法開始時から蘇生後2時間、濃度2%の水素ガスの吸入を行うと、これらの状態悪化が抑制されました。(図1)水素ガスの吸入を行ったグループでは、脳機能スコア・心機能および生存率が対照グループと比較して著しく改善しました。水素ガスの吸入効果は、低体温療法とほぼ同等であり、さらに水素ガス吸入と低体温療法を併用によって最も著名な改善効果を認めました(図2)。また、水素ガス吸入により、蘇生後の全身性炎症反応物質(サイトカイン)(注6)の上昇も抑制されました。サイトカインの持続的な上昇は重症患者における病態増悪因子と考えられていますが、この抑制効果は、低体温療法のみを行ったグループでは見られず、水素ガス吸入に特徴的な利点と考えられました。さらに、心肺停止蘇生後24時間での心筋組織を検討したところ、水素ガス吸入によって、心筋組織の活性酸素による組織障害や炎症が著明に抑制されました。
 以上の結果から、水素ガスには、活性酸素を除去する効果、抗炎症作用が認められることがわかりました。心肺停止蘇生時の水素ガス吸入療法は、単独または低体温療法と併用することにより、心肺蘇生後の脳機能・心筋組織の障害を軽減させ、生命予後や社会復帰率を改善する新たな治療法として期待されます。


 ※以下、図、今後の展開、用語解説などリリースの詳細は添付の関連資料を参照


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