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東大、骨疾患や糖尿病発症に関わる「Enpp1」タンパク質の構造と機能を解明

2012-10-06

骨疾患や糖尿病発症に関わるタンパク質の構造と機能を解明

<発表者>
 加藤 一希(東京大学理学系研究科生物化学専攻 博士課程1年)
 西増 弘志(東京大学理学系研究科生物化学専攻 特任助教)
 石谷 隆一郎(東京大学理学系研究科生物化学専攻 准教授)
 高木 淳一(大阪大学蛋白質研究所 教授)
 青木 淳賢(東北大学大学院薬学研究科 教授)
 濡木 理(東京大学理学系研究科生物化学専攻 教授)


<発表のポイント>
 >どのような成果を出したのか
  骨形成やインスリンシグナルにかかわるEnpp1タンパク質のX線結晶構造を解明した
 >新規性(何が新しいのか)
  Enpp1がATPを加水分解し、ピロリン酸を産生する分子機構、ならびに、Enpp1の遺伝子変異が骨疾患や糖尿病を引き起こす分子機構を明らかにした
 >社会的意義/将来の展望
  骨疾患や糖尿病の発症機構の理解、および、創薬の基盤として期待される


<発表概要>
 骨はカルシウムイオンと無機リン酸が結合したハイドロキシアパタイト(注1)からできており、骨の形成はカルシウムイオン、無機リン酸、ピロリン酸(注2)の体内濃度のバランスによってコントロールされています(図1)。今回、東京大学大学院理学系研究科の濡木理教授、東北大学大学院薬学研究科の青木淳賢教授、大阪大学蛋白質研究所の高木淳一教授らは、骨形成やインスリンシグナルにかかわるEnpp1タンパク質のX線結晶構造を解明することにより、骨疾患や糖尿病の発症メカニズムの一端を明らかにしました。Enpp1はピロリン酸を産生する細胞膜結合型の酵素で、過剰な骨形成を抑える役割を担っています。Enpp1の遺伝子変異は重篤な骨疾患(注3)を引き起こし、Enpp1の遺伝子多型は肥満や2型糖尿病とも関連することが知られていました。しかし、Enpp1の変異や多型が病態を引き起こすメカニズムは不明でした。

 研究グループは生化学的解析とX線結晶構造解析を行い、Enpp1遺伝子に変異が起こると、Enpp1の分子構造がくずれることで酵素活性が低下し、骨疾患に至ることを明らかにしました。本研究の成果は、Enpp1が関与する骨疾患や糖尿病をターゲットとした創薬の基盤となることが期待されます。

 本研究成果は、2012年10月第一週に米国科学雑誌「米国科学アカデミー紀要」のオンライン速報版で公開されます。

 本成果は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「炎症の慢性化機構の解明と制御に向けた基盤技術の創出」研究領域における研究課題「慢性炎症による疾患発症機構の構造基盤」、文部科学省ターゲットタンパク研究プログラム(研究代表者:青木淳賢、研究分担者:濡木理)、日本学術振興会最先端研究支援プログラム(研究代表者:永井良三)、科学研究費補助金の外部資金支援を受けて行われたものです。


<発表内容>
・背景
 骨はカルシウムイオンと無機リン酸が結合したハイドロキシアパタイトからできており、骨の形成はカルシウムイオン、無機リン酸、および、ピロリン酸の濃度のバランスによってコントロールされています(図1)。カルシウムイオンと無機リン酸は骨形成を促進する一方で、ピロリン酸は骨形成を抑制します。Enpp1タンパク質はヌクレオチド三リン酸を加水分解しピロリン酸を産生することで過剰な骨形成を抑える役割をもち、Enpp1の遺伝子変異は重篤な骨疾患につながることが知られています。さらに、Enpp1はインスリン受容体と結合しインスリンシグナル経路を抑制する機能をもち、Enpp1の遺伝子多型は肥満や2型糖尿病と関連していることが報告されています。しかし、Enpp1がどのような分子機構によって2つの異なる生理機能を発揮しているのかは不明でした。

・今回の発見
 本研究グループは、マウスのEnpp1タンパク質を高純度に精製し、その性質を詳細に調べました。Enpp1は細胞外のヌクレオチドを基質とし分解することが知られていましたが、その基質特異性は不明でした。そこで、さまざまなヌクレオチド三リン酸を用いてEnpp1の酵素活性を測定したところ、Enpp1はアデノシン三リン酸(ATP)(注4)を最も効率よく加水分解し、ピロリン酸を産生することがわかりました。さらに、X線結晶構造解析により、Enpp1とヌクレオチドの複合体の立体構造を調べたところ、Enpp1は4つのドメイン(注5)(2つのソマトメジンB様ドメイン、触媒ドメイン、ヌクレアーゼ様ドメイン)からなり、ATPは触媒ドメインに結合し、酵素活性部位と特異的に相互作用することがわかりました(図2)。これらの結果から、Enpp1が細胞外に豊富に存在するATPを加水分解し、ピロリン酸を産生する分子機構が明らかとなりました。また骨疾患と関連する遺伝子変異は、触媒ドメインやヌクレアーゼ様ドメインのアミノ酸残基の置換を引き起こし、Enpp1の立体構造を不安定化させることがわかりました(図2)。すなわち、これらの遺伝子変異が起きるとEnpp1は正しい立体構造をとることができなくなり、ピロリン酸の産生活性が低下し、骨疾患の発症に至ると考えられました。一方、肥満や2型糖尿病と関連する遺伝子多型は、酵素活性部位とは離れたソマトメジンB様ドメインに存在しており(図2)、生化学的解析からソマトメジンB様ドメインは酵素活性には必要ないことが明らかになりました。以上の結果から、Enpp1の触媒ドメインとヌクレアーゼ様ドメインが骨形成に関与し、ソマトメジンB様ドメインがインスリンシグナルに関与していることが示唆されました。

・意義
 大規模な遺伝子解析によってEnpp1の遺伝子変異が骨疾患や糖尿病を引き起こすことは10年以上前から知られていましたが、Enpp1の遺伝子変異が病態につながる分子機構はほとんどわかっていませんでした。本研究により、Enpp1が骨形成やインスリンシグナルに関わる分子機構、および、Enpp1の遺伝子変異が疾患と関連する分子機構が初めて明らかとなりました。今回得られた知見は、Enpp1が関与する疾患の治療薬の創薬基盤となることが期待されます。


<発表雑誌>
 >Crystal structure of Enpp1,an extracellular glycoprotein involved in bone mineralization and insulin signaling(骨形成やインスリンシグナルに関与するEnpp1タンパク質の結晶構造)

 >加藤一希1*、西増弘志1*、奥平真一2、三原恵美子3、石谷隆一郎1、高木淳一3†、青木淳賢2†、濡木理1†

  *共同筆頭著者、†責任著者
  1:東京大学大学院理学系研究科、2:東北大学大学院薬学研究科、3:大阪大学蛋白質研究所

 >掲載誌:「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」(10月第一週にオンライン版に公開予定)

 ※図1、2は添付の関連資料を参照


<用語解説>
注1:ハイドロキシアパタイト骨の主成分。カルシウムイオンと無機リン酸から構成される。骨芽細胞などの特定の細胞でつくられる。
注2:ピロリン酸リン酸が2つつながった化合物。ハイドロキシアパタイトに結合して骨の成長を阻害する。
注3:骨疾患骨代謝の異常による病態。Enpp1の機能不全は幼児全身動脈石灰化や後縦靱帯骨化症などにつながる。
注4:ATPアデノシンを基本構造とするヌクレオチド三リン酸。RNA合成の基質であるのに加え、エネルギー代謝やシグナル伝達など生体内でさまざまな役割をもつ。
注5:ドメインタンパク質の構造的なひとかたまり。Enpp1は2つのソマトメジンB様ドメイン、触媒ドメイン、ヌクレアーゼ様ドメインの4つのドメインからなる。

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