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NEDOなど、核磁気共鳴装置を使って薬の効き具合を正確に予測する手法を開発

2012-09-27

薬効を正確に予測する新手法を開発
―生体内での膜タンパク質の機能調節機構を解明―


 NEDOの創薬加速支援事業の一環として、東京大学大学院薬学系研究科の嶋田一夫教授らの研究グループが、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて薬の効き具合を正確に予測する手法を開発しました。膜タンパク質のNMRシグナル変位を観測することにより、薬効を予測するもので、無数の物質から薬の候補物質を見つけ出す際の動物実験などで調べる従来の方法と比べ、薬の候補物質探索を大幅に効率化することが出来るようになります。


1.背景
 ヒトをはじめ多くの生命体の細胞膜上には、細胞外からのシグナルを細胞内に伝える役割をもつ受容体と呼ばれる膜タンパク質が多数存在し、外部環境を感知して細胞内に伝え、様々な生命活動を維持しています。中でもGタンパク質共役型受容体(以下、GPCR)と呼ばれる膜タンパク質にはシグナル毎に多種多様なものが存在し、生活習慣病や精神疾患から癌等の様々な疾病に関与していることが多いため、GPCRは医薬品開発における主要な標的となっています。これまでにも、このGPCRの機能を高めたり阻害したりする物質が探索されて医薬品が作られてきましたが、同一のGPCRに結合する医薬品であっても、その効果の程度に差があったり、まったく逆の作用を示すものがあり、なぜこのような現象が起きるのか、その機構は不明のままでした。
 したがって、これまでのGPCRを標的とした医薬品探索においては、鍵と鍵穴のような関係でGPCRに結合する物質を探索することから始まり(スクリーニング)、その後は研究者の経験と勘に頼る形で目的の効果をもつ化合物に修飾していくため、その成功確率は低く、医薬品候補物質を見出すまでには多大な時間と労力を要しておりました。

 ※参考画像1は添付の関連資料を参照


2.研究成果
 今回、嶋田教授らは、核磁気共鳴装置(以下、NMR)を用いた解析手法を開発して、リガンド(受容体結合分子)によるGPCRの機能調節の仕組みを突き止めることに成功しました。
 本研究により、GPCRの立体構造には活性型と不活性型が存在し、生体内ではそれらの立体構造が共存して、互いに行き来する状態(動的平衡状態)にあることが明らかになりました。さらに、リガンドがGPCRに結合すると、この活性型と不活性型の存在比率に偏りが生じ、その結果としてGPCRの機能が調節されることがわかりました。この活性型と不活性型の存在比率の偏りの度合いが、結合したリガンドの種類によって異なるため、これがリガンドごとに効果が異なる要因であることも明らかになりました。
 今回開発されたNMR解析手法を医薬品開発の初期段階に導入することにより、研究者の経験と勘に頼らず、さらには細胞実験もしくは動物実験を必要とせずに、リガンドとなる医薬品候補化合物の効果を予測することが可能になるため、医薬品開発が加速されることが期待されます。


(研究成果の詳細)
 GPCRは、7回膜貫通構造を有する膜タンパク質ファミリーの1つであり、リガンドの結合によってGタンパク質を介したシグナルを惹起して細胞内に伝達しますが、シグナル伝達の強度はリガンドによって異なることが知られています。この現象は、他の受容体では見られないGPCRの機能的特徴と言えます。
 リガンドとなる医薬品は、その作用の程度により、full agonist(完全作動薬)、partial agonist(部分作動薬)、neutral antagonist(阻害剤)、inverse agonist(逆作動薬)に分類され、これらは病態により使い分けられています。例えば、β(ベータ)2−アドレナリン受容体に対する医薬品の場合、full agonistは急性期の喘息に対して有効ですが、長期間にわたる治療ではpartial agonistを用いた方がよいとも言われています。したがって、医薬品による受容体の機能調節の仕組みを理解することは、医薬品開発において極めて重要になってきます。
 これまでに様々なリガンドに結合したGPCRの結晶構造が明らかになっているにもかかわらず、リガンドごとに作用の強度が異なる機構は明らかではありませんでした。そこで、本研究では、溶液中のタンパク質の立体構造情報を取得可能なNMRを用いて、β2−アドレナリン受容体を解析対象とし、そのシグナル調節機構を明らかにしました。

 昆虫細胞を用いて、安定同位体標識メチオニンを導入したβ2−アドレナリン受容体を調製し、full agonistおよびinverse agonistを添加してNMRスペクトルを測定しました。その結果、膜貫通領域に存在する82番のメチオニン由来のNMRシグナルは、GPCRの活性型および2種類の不活性型を反映することが判明しました。さらにneutral antagonistおよび2種類のpartial agonistの結合状態について、シグナルの変化を解析したところ、作用の強度依存的に、活性型と不活性型との中間の位置にシグナルが観測されました(図1)。

 さらに、温度変化実験およびシミュレーション等の結果を考えあわせた結果、

 1.β2−アドレナリン受容体の立体構造は、活性型と2種類の不活性型の間の動的平衡状態にある。
 2.リガンドごとの作用強度の違いは、平衡状態での活性型の存在比率の違いに起因する。

 と結論しました(図2)。


 GPCRにおいて、膜貫通領域でのシグナル伝達に関わる構造変化様式は共通しているため、本研究の成果は、多くのGPCRのシグナル制御機構を解明する上で普遍的な知見を与えるものと言えます。
 また、医薬品開発研究においては、従来の受容体とリガンドの結合の親和性を上げる戦略とは一線を画し、動的平衡をシフトさせてリガンドの「質」を変える新しい概念につながります。



 なお、この研究成果は、2012年9月4日発行のNature Communicationsに掲載されました。


※以下資料は添付の関連資料「参考画像2」を参照
 図1 β2−アドレナリン受容体の82番メチオニンの異なるリガンドによるNMRシグナル変化
 図2 β2−アドレナリン受容体のシグナル制御機構

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