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JSTと東大、鉄系超伝導体で電子を結びつけて対にする“のり”を発見

2012-09-20

鉄系超伝導体において競合しあう2種類の超伝導の“のり”を発見



【ポイント】
 ・光電子分光装置として世界最高のエネルギー分解能(70マイクロ電子ボルト)と世界最高の冷却能力(最低温度1.5K)を持つレーザー光電子分光装置を開発。
 ・特定の運動量では対を作らない電子の存在を世界で初めて明らかに。
 ・高温超伝導発現機構の全容解明に繋がり、室温超伝導の実現に一歩前進。


<発表概要>
 電子が電子対を作ってエネルギー損失ゼロとなる超伝導体は、未来の材料として大いに注目を集めている。しかし、超伝導現象は極低温でしか実現しないことが多い。切望される室温での超伝導実現には、高温超伝導体(注1)の電子対形成の機構を解明することが不可欠である。
 東京大学 物性研究所の岡崎 浩三(おかざき こうぞう)(※)特任研究員と辛 埴(しん しぎ)教授は、電気伝導を担う電子を高精細に観測し、電子を結びつけて対にする“のり”について新発見をした。研究グループは、エネルギー分解能70マイクロ電子ボルト、最低温度1.5Kという世界一の性能を持つレーザー光電子分光装置(注2)を新たに開発し、鉄系超伝導体(注3)における超伝導ギャップ(=超伝導電子対(注4)の結合の強さ)を観測した。その結果、電子対を作らない運動量(超伝導ギャップのノード=節)が存在する電子など、様々な電子対形成をする電子の存在を観測することに成功した。本成果により、鉄系超伝導体において2種類の“のり”が互いに邪魔しあうことで、電子対を作れない電子が存在することが明らかになった。今回発見した“のり”の性質の理解は、高温超伝導発現機構の全容解明に繋がる。
 本研究成果は2012年9月13日(米国東部時間)発行予定の米国科学誌「サイエンス」オンライン版で公開される。

 ※特任研究員名の正式表記は添付の関連資料を参照

 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
  戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
   研究領域:「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」
   (研究総括:伊藤 正 大阪大学 ナノサイエンスデザイン教育研究センター特任教授)
   研究課題名:「高繰り返しコヒーレント軟X線光源の開発と光電子科学への新しい応用」
   研究代表者:辛 埴(東京大学 物性研究所 教授)
   研究期間:平成20年10月〜平成26年3月


<発表内容>
 室温超伝導(注5)が実現できれば、砂漠での太陽光発電などの再生可能エネルギーを損失のない送電線で世界中に送ることなどによるエネルギー問題の迅速な解決、発熱しない集積回路が実現されることによるコンピューターの性能の飛躍的な向上、より精密なMRI画像の取得をはじめとした医療における画期的な進展、などが見込まれ、社会生活に多大なる貢献が期待できる。
 室温超伝導の実現には超伝導現象の機構解明が必須であり、そのためには電気伝導を担う電子をより高精細に観測する必要がある。光電子分光法は、光電効果(注6)を利用して出てきた電子のエネルギーを精密に測定する実験手法であり、電子を直接観測できる唯一の方法でもある。より高精細に電子を観測するには、観測精度に相当するエネルギー分解能をより高くし、より低温で測定しなければならない。研究グループは、先端的なレーザー技術と分光技術を組み合わせることにより、絶対温度1.5Kという低温において、エネルギー分解能70マイクロ電子ボルトで測定できるレーザー光電子分光装置を開発した。
 これまで先端研究に用いられてきた実験装置と比べ、分解能、温度ともに格段に性能を向上させることができた(従来は先端実験装置でもエネルギー分解能5000マイクロ電子ボルト、絶対温度10K程度)。この実験装置により、従来の先端実験装置と比べ1桁近く低い温度で、約70倍の高いエネルギー分解能を実現し、より高精細に電子を直接観測できるようになった(図1)。
 今回、東京大学 物性研究所の岡崎 浩三 特任研究員と辛 埴 教授の研究グループは、高温超電導体の1つである鉄系超伝導体に注目した。鉄系超伝導体は、2008年に東京工業大学の細野 秀雄 教授らにより発見された銅酸化物高温超伝導体に続く高温超伝導体である。磁性と超伝導という性質は相容れないものであることから、磁性体の典型である鉄の化合物が超伝導を示すことはこれまでの常識を覆すものである。これは、これまで全く知られていなかった超伝導機構の存在を示唆することから、その機構解明は室温超伝導に向けて重要な手がかりとなるはずである。
 超伝導を担う電子は、1972年にノーベル物理学賞を受賞したバーディーン、クーパー、シュリーファーにより提唱されたクーパー対と呼ばれる超伝導電子対(図2)を形成している。この電子を結びつける“のり”には、格子振動、スピン、軌道の3種類が見つかっており、電子同士を引き付ける引力と、電子同士を反発させる斥力とがある(図3)。これらのうち、“従来型”と呼ばれる超伝導体は格子振動を“のり”とするが、格子振動は電子対を作る“のり”としては力が弱いため、これを超伝導電子対の“のり”とする超伝導体は、絶対零度に近い低温でないと電子対を作れない。一方、1987年にノーベル賞を受賞したベドノルツ、ミューラーによって発見された銅酸化物超伝導体では、斥力であるスピンを電子対の“のり”としている。さらに、鉄系超伝導体では、軌道を“のり”として使っていることが研究グループによって明らかにされている(2011年4月Science)。
 研究グループは今回新たに開発したレーザー光電子分光により、KFe2As2という鉄系超伝導体の電子の運動量と対形成の強さの関係について調べた結果、鉄系超伝導体には全ての運動量の方向で対を形成している電子や、ある方向では対を形成していない電子、全ての方向でほとんど対を形成していない電子など、これまで発見されていた対形成の様子とは全く異なる対形成の仕方をしていることを発見した(図4)。
 これは、スピンと軌道など、性質の異なる2種類の“のり”が存在することにより、それらの“のり”が邪魔しあって対を形成できない電子が存在することを意味する。今後、これらの邪魔しあう2種類の“のり”が協力し合えるようにする方法が見つかれば、超伝導転移温度が大幅に更新されることが期待され、室温超伝導の実現に向け大きな進展が得られたと言える。



*以下の資料は添付の関連資料「添付資料」を参照
 ・発表雑誌
 ・用語解説
 ・参考図
  図1 今回新たに開発されたレーザー角度分光光電子分光装置とその性能
  図2 超伝導状態の電子対
  図3 これまでに見つかっている電子対の“のり”
  図4 鉄系超伝導体KFe2As2における電子対形成の様子


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