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東大、植物細胞の"形を決める"4つの遺伝子を発見

2012-09-20

植物細胞の"形を決める"遺伝子を発見〜350年来の謎を解明

発表者
福田裕穂(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 教授)
小田祥久(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 助教・
       科学技術振興機構(JST)さきがけ研究者兼任)



<発表のポイント>
 植物細胞の"形を決める"4つの遺伝子を新しく同定しました。
 この4つの"形を決める"遺伝子を導入することで、植物細胞の形を人為的に改変することに世界で初めて成功し、植物細胞の形を決める分子的仕組みを解明しました。
 "形を決める"遺伝子を応用することで、植物細胞の形や機能を自由に制御することが可能となり、有用植物の作出や植物バイオマス(注1)の改良につながると期待されます。


<発表概要>
 植物の体はさまざまな形の細胞でつくられています。しかしながら、ロバート・フックがコルクの薄片を顕微鏡で観察し、植物細胞を発見して以来、約350年もの間、植物細胞の形を決めるメカニズムは謎に包まれていました。今回、東京大学大学院理学系研究科の小田祥久 助教(JSTさきがけ研究員兼任)と福田裕穂 教授は、植物細胞の形を決める遺伝子セットを同定することに成功し、植物細胞の形が決定される分子的な仕組みを解明しました。

 植物細胞は硬い細胞壁に覆われており、細胞壁の形が植物細胞の形を決定します。研究チームは、特徴的な構造の細胞壁をつくる木質細胞(注2)に着目し、細胞壁の形を制御する仕組みを解析しました。独自に構築したシロイヌナズナ(注3)の木質細胞培養システムを利用して、細胞壁形成にともなって発現する遺伝子を探索しました。その結果、4つの遺伝子を同定することに成功しました。この4つの遺伝子を植物の表皮細胞に導入したところ、驚くべきことに、木質細胞の細胞壁とそっくりの形がこれらの遺伝子産物によってつくり出されました。

 これらの遺伝子を利用することにより、細胞の形や機能を自由に制御することが可能となり、有用植物の作出や植物バイオマスの改良につながると期待されます。


<発表内容>
 植物の体はさまざまな形の細胞によってつくられています。植物細胞は硬い細胞壁に覆われており、この細胞壁の形が最終的な植物の細胞の形を決定します。細胞壁の主成分はセルロース微繊維です。細胞膜のすぐ下に並ぶ表層微小管(注4)とよばれるレールに沿ってセルロース合成酵素が動くことによって、セルロース微繊維が適切な場所・方向に作られます。しかしながらロバート・フックが顕微鏡を用いてコルクの薄片に植物細胞を発見して以来、約350年もの間、植物細胞の形を決定するメカニズムは明らかになっていませんでした。

 研究チームは、特徴的な形の細胞壁に覆われる木質細胞に着目し、細胞壁の形を決定する仕組みを解析しました。木質細胞の細胞壁はとりわけ厚く丈夫ですが、壁孔とよばれる、水を通すために細胞壁が厚くならない部分があり、この壁孔の数や形が木質細胞の細胞壁の形を決めます。研究チームはまず、シロイヌナズナの培養細胞を用いて、木質細胞を試験管内で作り出す細胞培養システムを構築し、このシステムを用いて木質細胞で発現する遺伝子をDNAマイクロアレイ法(注5)により解析しました。さらに高速・高感度の顕微鏡を用いて、細胞壁形成にともなって発現する遺伝子を探索した結果、壁孔で機能する4つの遺伝子を同定しました(図1A)。これらの遺伝子はそれぞれ、small GTPase(注6)の一種であるROP GTPase(ROP11)とその活性化因子(ROPGEF4)および不活性化因子(ROPGAP3)、そしてROP GTPaseと微小管の両方と結合するタンパク質(MIDD1)をコードしていました。驚くべきことに、これら4つの遺伝子を植物の表皮細胞に導入したところ、木質細胞の細胞壁とそっくりの形をこれらの遺伝子産物によってつくり出すことに成功しました(図1B)。この現象を詳細に調べた結果、ROPGEF4(活性化因子)とROPGAP3(不活性化因子)が協調的に働くことで、ROP11(GTPase)が細胞膜上で局所的に活性化されることが判明しました(図2A)。活性化したROP11(GTPase)はMIDD1と結合し、その近傍の表層微小管の先端を分解することで、細胞壁の形成を抑制し、壁孔をつくり出していました。一方、表層微小管は先端以外の部分では、MIDD1を介して活性化したROP11(GTPase)を細胞膜から排除することが分かりました(図2B)。このように、表層微小管と活性化したROP11が互いに抑制することで、細胞壁の形がつくり出されていたのです。

 興味深いことに、これらの遺伝子は木質細胞以外の細胞でも発現していることから、木質細胞以外のさまざまな細胞の形の決定に関わる可能性があります。これらの遺伝子を発見したことで今後、植物細胞の形や機能を自在に制御する新しい技術の開発が可能となります。この技術を応用することで、生育の速い有用植物や、加工しやすい植物バイオマスの作出などにつながると期待されます。

 なお本研究は、文部科学省 特定領域研究(課題番号19060009、代表:福田裕穂)、文部科学省NC−CARPプロジェクト(代表:福田裕穂)、日本学術振興会 基盤研究S(課題番号23227001、代表:福田裕穂)、日本学術振興会 研究活動スタート支援(課題番号22870005、代表:小田祥久)、JST さきがけ(課題番号20103、代表:小田祥久)などの支援を受けて行われました。

 ※以下の資料は、添付の関連資料を参照
  図1:植物細胞の"形を決める"遺伝子の働き
  図2:"形を決める"遺伝子の産物と微小管の相互作用が細胞壁の形を決める


<発表雑誌>
 雑誌名
   「Science(オンライン版)」9月15日 掲載予定
 論文タイトル
   Initiation of Cell Wall Pattern by a Rho− and Microtubule−Driven Symmetry Breakingn
 著者
   Yoshihisa Oda and Hiroo Fukuda


<用語解説>
 注1:植物バイオマス
  植物に由来する生物資源。セルロースを主成分とし、バイオ燃料やバイオナノファイバーの原料として利用される。

 注2:木質細胞
  疎水性の厚い細胞壁をもつ丈夫な植物細胞。主に木部組織で見られる。主に植物を支え、水を輸送する働きをもつ。

 注3:シロイヌナズナ
  双子葉植物のモデル植物。高等植物の中で最初に全ゲノムが解読され、世界中の植物科学研究に利用されている。

 注4:表層微小管
  微小管はチューブリンとよばれるタンパク質が重合してつくられる直径24nmの管状の繊維。植物細胞では細胞膜の直下に多数の表層微小管が発達している。細胞壁の主成分であるセルロース微繊維はこれらの表層微小管に沿って合成される。

 注5:DNAマイクロアレイ法
  多数のクローン化されたDNA断片を高密度にプリントしたチップ(基盤)を用いて、生物個体の多数の遺伝子の発現を網羅的に解析する技術。今回は、2万3千個の遺伝子について解析した。

 注6:small GTPase
  GTPあるいはGDPと結合する分子量の小さいタンパク質の総称。GTPと結合すると活性型となり、さまざまな細胞応答を引き起こす。一方、GTPが分解されてGDPになると不活性型となる。こうした性質から分子スイッチともよばれている。


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