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米IBM、光パルス使ったコンピューター・チップ間の通信が可能になる半導体技術を発表
エクサスケール・コンピューティングへの道をひらく画期的な半導体技術
IBMのシリコン・ナノフォトニクスで光信号を使いチップを接合
省消費電力でより高速に
[米国ニューヨーク州ヨークタウン・ハイツ 2010年12月1日(現地時間)発]
IBM(本社:米国ニューヨーク州アーモンク、会長:サミュエル・J・パルミサーノ、NYSE:IBM)の科学者たちは本日、電気デバイスおよび光学デバイスを同一のシリコン片の上で集積し、電気信号のかわりに光パルスを使用したコンピューター・チップ間の通信が可能となる新しい半導体技術を発表しました。これにより、従来の技術で作られたものより小型で高速、電力効率の高い信号伝送が実現します。
CMOS集積シリコン・ナノフォトニクスと呼ばれる新技術は、IBMのリサーチ部門で10年間にわたって行われてきた開発の成果です。この特許技術は、光学デバイスおよび機能をシリコン・チップ上に直接集積することでコンピューター・チップの通信方式を改善し、現行の製造方式によるものに比べ集積密度を10倍以上も向上させます。
IBMではシリコン・ナノフォトニクスによりチップ間の速度およびパフォーマンスの大幅な向上を期待しており、1秒間に100京回の演算(エクサフロップ)を実行できるスーパーコンピューターの開発を目指す、エクサスケール・コンピューティング・プログラムの進展が図れると考えています。エクサスケール・スーパーコンピューターは、現在の最速マシンの約1,000倍の速度で動作します。
IBMリサーチ部門のサイエンス・アンド・テクノロジー担当バイス・プレジデント、T.C. チェン(T.C. Chen)博士は次のように述べています。「シリコン・ナノフォトニクス・テクノロジーの開発により、オンチップ光接続が現実のものとなる日が近づいてきました。プロセッサー・チップに組み込まれた光通信により、エクサフロップ級の性能をもった電力効率の良いコンピューター・システムを構築するという展望が、また一段と現実に近づいたのです」
IBMの新技術は、電気デバイスおよび光学デバイスをひとつのチップに集積することに加え、標準的なCMOS製造ラインの前工程で製造でき、特別に新しい製造装置の必要もありません。この方式を使えば、シリコン・トランジスターはシリコン・ナノフォトニクス・デバイスと同じシリコン層を利用できます。この実現を目指して、IBMの科学者たちは集積された超小型の能動および受動シリコン・ナノフォトニクス・デバイスを開発しました。これらのデバイスはすべて、回折限界(誘電体を用いて光信号を扱える最小サイズ)にまで小型化されています。
IBMリサーチのシリコン・ナノフォトニクス部門マネージャー、ユーリ・A・ウラソフ(Yurii A. Vlasov)博士は次のように述べています。「今回の画期的なCMOS集積シリコン・ナノフォトニクスにより、ラック、モジュール、チップ間で、さらには単一チップ内において、ユビキタスな省電力の光通信によるシリコン・チップの機能とパフォーマンスがこれまでになく向上します。この進歩における次のステップは、徹底的に拡張されたIBMのCMOSプロセスを使って、これを大量生産を行う半導体製造工場で生産可能にすることです。」
この新技術は、標準的なCMOS製造のフローにほんのいくつかのプロセス・モジュールを追加することで、変調器、ゲルマニウム光検出器、超小型波長分割マルチプレクサーなどの多種多様なシリコン・ナノフォトニクス部品を高性能のアナログおよびデジタル回路に集積できるようにします。その結果、高価な化合物半導体テクノロジーを利用した複数の部品を組み立てて単一チップ光通信トランシーバーを作るのではなく、標準的なCMOS工場で製造が行うことができます。
IBMの新技術で達成される光学的および電気的集積の密度はこれまでになく高いものであり、光学および電気回路が一式揃ったトランシーバー・チャネル1個がわずか0.5mm2(平方ミリメートル)(他社が発表したものの10分の1のサイズ)に収まります。このテクノロジーなら、毎秒テラビット(毎秒1兆ビット以上)で送受信できる単一チップ・トランシーバーがわずか4x4mm2(平方ミリメートル)のサイズで構築できます。
CMOS集積シリコン・ナノフォトニクスの開発は、IBMリサーチ部門による一連の関連研究の集大成と言えるものです。これらの進歩は、光通信用の徹底的に段階を追って調整されたフロントエンド統合ナノフォトニクス部品の開発というかたちで結実しました。これまでに下記のような画期的成果をあげています。
・2010年3月にIBMは、CMOS互換電圧1.5ボルトで前例のない40ギガビット/秒という速度で作動するゲルマニウム・アバランチ(電子なだれ)型光検出器を発表しました。これは、オンチップ相互接続に必要なものとして先行して開発されたデバイスの「ナノフォトニクス・ツールボックス」を完成させる最後の決め手となりました。
・2008年3月にIBMの科学者たちは、オンチップ光通信において信号伝送の向きを制御するする世界最小のナノ光通信スイッチを発表し、光信号の道順が効率的に決まるようにしました。
・2007年12月にIBMの科学者たちは、オンチップ光通信を実現させるための必須条件である、電気信号を光パルスに変換する超小型のシリコン電気光学変調器を開発したと発表しました。
・2006年12月にIBMの科学者たちは、オンチップ光通信用の光バッファーを構築するために必要な、光パルスでエンコードされた1バイトを超える情報をバッファーするのに使われるシリコン・ナノ光通信の遅延線のデモを実演しました。
2010年12月1日に東京で開催される半導体業界の国際コンファレンスSEMICONにて、ユーリ・ウラソフ博士がこの研究の詳細および成果を発表します。講演は「CMOS集積シリコン・ナノフォトニクス:エクサスケールコンピュータを可能にする技術(CMOS Integrated Silicon Nanophotonics: Enabling Technology for Exascale Computational Systems)」と題されており、共同執筆者は米国ニューヨーク州ヨークタウン・ハイツのIBMワトソン研究所およびスイスのIBMチューリッヒ研究所の次の各氏です: ウィリアム・グリーン(William Green)、ソロモン・アセッファ(Solomon Assefa)、アレキサンダー・リリャコフ(Alexander Rylyakov)、クリント・スカウ(Clint Schow)、フォルカート・ホルスト(Folkert Horst)、ユーリ・ウラソフ(Yurii Vlasov)。
プロジェクトに関する詳しい情報は、http://www.research.ibm.com/photonics(英語)をご覧ください。
以 上
当報道資料は、IBMコーポレーションが12月1日(現地時間)に発表したプレス・リリースの抄訳です。
http://www.ibm.com/press/us/en/pressrelease/33115.wss
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